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第25話 決着 ――紅き刃――

 ――雨。

 ぽとり、ぽとり、と絵筆から滴る雫のような雨粒は、途端に地面を叩く大雨になった。


 すでに原型をとどめていない決闘場にも、その雨は降り注いでいた。

 ティーポットを自ら壊し、立ちすくむレミィの紅茶色の髪を雨はしとどに濡らしていく。


 その雨にも。

 炎鋼の怪物(レムレス)の炎は、その雨にも揺らぐことはない。


 ゆっくりと。

 しかし、確実に、その勝利を噛みしめるように。

 シュトラ王国をその手におさめようと裏切りと権謀術数に溺れた元・宮廷魔導師ダム・ディーゼルは、炎鋼の怪物(レムレス)を立ち上がらせる。


 その姿は、王都シュトラのあらゆる場所から見ることができるであろう。

 異形の巨体を目にしたシュトラの民の悲鳴が、大気を揺らしているようだった。



「くく……ははは……ははっはははははは!! ひれ伏せ、逃げまどえ!!! その恐怖から、シュトラの富を生み出せ――民よ! その絶望から、新たなる技術を考案せよ、民草よぉっ!!」



 愉悦にひたるダムの高笑いは、ふりしきる雨にかき消されることはない。


 目障りな最弱宮廷魔導師【紅茶の魔女】、レミィ・プルルスはもう自分に立ち向かうこともできない。


 【庭園の聖女】は弱腰で。

 かつての同僚であり嫉妬の炎を燃やしていた相手である憎き【魔導書使い】――弱き魔法しか持たぬくせに「常勝将軍」の名を欲しいままにしていたミーシャは剣に貫かれて重傷。【爆焔の魔導師】は、まんまと決闘にて倒された。


 ダムにとって彼らは、今すぐにでも殺すことができる、取るに足らない命となり果てた。


 他の宮廷魔導師たちが異変に気づいたときにはもう遅い。

 国王も、王女も、すでにこの手にあるのだから!

 ダムの邪魔だてをする者は、もういない。


 作るのだ、強い王国を。

 闘争の炎に鍛えられた、鋼のような――強靭な王国を。

 

 ――その、はずだった。




「――な」











 ――斬、と。

 鈍く鋭い音とともに異形なる炎鋼の怪物(レムレス)の両腕が、落ちる。

 戦場に立つ女は、丸腰であった。


 女の前に立ちはだかる、先ほどまではこの大地を蹂躙しつくさんとしていた異形を操っていた男は叫ぶ。



「……ど、どうして! あの忌々しいティーポットは確かに壊れたはずだ! 貴様の武器は何だ――なぜ、私が負けるんだ!?」



 圧勝できるはずだった。

 戦いにすらならないはずだった。


 現に、つい数瞬前までは、弱弱しい魔導師どもは肩を寄せ合って【庭園の聖女】の障壁の影に隠れているだけだったはずだ。

 目障りに抗っていた【紅茶の魔女】だって、無力化したはずだった。

 武器を自ら砕かせ、心も砕いたはずだった。

 ダムの権謀術数と緻密な計画によるこの謀反は、革命は、すべて上手くいっていたはずだった。


 それなのに。



「お前は――いったい誰なんだ、女ァッ!」



 連撃。

 ざん、ざん、と紅の刃に怪物(レムレス)の巨体を切り裂かれながら、ダムは叫ぶ。

 目の前の、弱き魔導師のはずの女が――しかし、その目の奥にダムと同じ戦場を宿した女が。

 ダムの計画をすべて、斬り伏せる。



「私は――レミィ。シュトラ王国宮廷魔導師団の優雅なる窓際族……【紅茶の魔女】」



 レミィは、周囲を蹂躙する紅き刃を操りながら名乗りをあげる。

 静かに――レミィの大切な、小さな王女様が愛してくれた【紅茶の魔女】という名前を。




「ぐ、ああああ! この刃は――ッ!」




 ダムが目を見開き、叫ぶ。

 先ほどまでの斬撃とはくらべものにならぬ、強く早く鋭い刃が炎鋼の大巨人を粉々に砕いていく。

 レミィの操る紅き刃は――紅茶ではなかった(・・・・・・)


 瓦礫に混ざるステンドグラスの破片。

 それを深々と突き刺した腕から流れる――鮮血。



「――見立てってやつよ。葡萄酒を聖なる龍の血に見立てる、くだらない儀式みたいなね」



 自ら流した血を、周囲の雨に振りまきながら――紅き水を、紅茶の見立てとして。

 レミィは紅き刃を振るう!


 渾身の、そして――一切の手加減のない、容赦なき斬撃が、ついに、怪物(レムレス)の中心部に籠城していたダムに――届く。




「あ……やめろ、やめろやめろやめろやめろやめろ!! 私はっ――強きシュトラ王国を、もう一度……うおおおおおお!!!」




 そして、女は嘆息する。


 男の叫び声など、取るに足らないとでもいうように。


「さぁね。私が誰かとか、そーゆーのはどうでもいいからさ……」


 紅い刃を、少女は振るう。




(――こんな光景。あの子には……ステラ姫には……見せたくなかった)



 絶望を煮詰めた表情を浮かべたのは、ダムか、それともレミィであったか。


 一撃。

 ――男の首から、赤い、赤い、血が吹きあがる。



 降りしきる涙のごとき雨の中、女は呟く。

 まるで血を吐くように。




「……早く、帰って、……あったかいお茶でも飲みたいよ」




 決闘場は紅く染まり――長く続いた戦役を呼び覚まさんとする謀叛は、女の一撃をもって終結した。



 女の名は、レミィ・プルルス。

 シュトラ王国宮廷魔導師団でもっとも弱い固有魔法を持ち、もっとも怠惰な勤務態度を誇り。


 そして、誰よりも平和を願う――【紅茶の魔女】。


――決着です。


熱いバトルだった、ワクワクしたと思っていただけましたら下部にある☆☆☆☆☆をぽちっとしていだけると幸いです。


そして、このあと第1話冒頭をちょっと読み直していただくと「あっ!」となるかもしれません(そういう演出です)。

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― 新着の感想 ―
[一言] ごく普通に『紅茶の雨(ポット無くても全然へいきー)』かと思ってたけど、カッコいいからいいや!
[一言] おお!←1話目見に行った(笑) また姫にまとわり着かれるのんびり紅茶ライフが送れるといいんですけどね?ww
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