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「…ぐう…!?」


ダリアが目を覚まして最初に見たものは、簡素な作りの木の天井。最初に聞いた物は、雑多な人混みの騒音だった。


「隊長!ああ…本当に良かった…!」


彼の傍に駆け寄ってきたのは、満身創痍の状態の冒険者の一人だっだ。


「ろ…ローレンス…他の者らは…?」


「…残念ながら…あの小隊で生き残ったのは我々だけです…」


「…そうか…残念だ…実に…ん?此処は何処だ?」


「第四集落の、村はずれの診療所です。どうやら距離があり戦火が及ばなかった様で、生き残ったものはみな此処に避難しています。」


ダリアはベッドから立ち上がろうとしたが、彼が身体に受けた数多の傷がそれを許さなかった。


「ぐ…があ…はあ…」


「ご…ご無理はなさらないで下さい!貴方は身体じゅうに火傷を負っているんですから!」


「こんな傷…ぐあああ!?」


胸に受けた傷が激しく痛み、彼は渋々行動開始を諦めた。


「あはは!長ーい!」


「高い高い!わーい!」


子供達の元気なはしゃぎ声が聞こえたかと思ったら、医務室のドアが勢い良く開いた。


「た…たた助けて下さいぃぃぃ!」


髪の毛にぶら下がる様に一人、肩に張り付く様に二人、脚にさらにもう一人の子供をくっ付けた、背の高めの奇妙な服装の少女が倒れ込んできた。

ダリアは一瞬、反射的に身構える。彼の長年の冒険者としての感覚が、彼女の身体に流れる物が血ではないことを察知したのだ。


「…あの子は誰だ?」


「付近に出現した新たなダンジョンから、果たしてやって来たのか迷い込んで来たのか…敵意の無いモンスターらしいです。…自分は一旦ギルドに戻り、この事を報告して来ます。」


「敵意の…無い…?」


初級ダンジョンのモンスターは、総じて敵意の無い者だ。しかし、あんな者の住むダンジョンが初級な訳が無い。


「………」


ダリアは再び、その子供と戯れる少女の姿に目をやる。見た目は人間と何ら変わり無く、しかし身につけている衣服の金属の装飾は、国王の王冠とも引けを取らない程の精巧な作りであった。


「ん?あ、」


少女は、目を覚ましたダリアに気がつくと、身体にくっつく子供達を優しく振り払い立ち上がった。ポニーテールを伝って頭の上に登って来た子を除けば。


「ど…どどどうも!自分、決して怪しい者ではあああ有りません!自分、みず…水叉って言います!」


思い切り頭を下げた水叉、その時に垂れたポニーテールから、スルスルと最後の一人が水叉から降りて行った。



「御主人様の召喚の儀に応じ、帝礼残 輕陀。此処に参上致しました。」


一方その頃、娑雪は二人目の有我式神の召喚を完了させていた。


輕陀(かるだ)。紅葉の様な美しいオレンジ色の、振袖の袴を身につけ、足元は白い靴下と下駄が覗く。

短い黒髪に、黒い瞳。大人しそうな顔立ちに、少し冷た目の雰囲気。声質も何処か物静かだった。


「久し振りじゃ輕陀よ。相変わらずの…ん?」


ふと、娑雪は輕陀の変化に気づく。

輕陀の袴が、最後に会った時と変わっているのだ。


「気付いて頂けましたか?久々の召喚と言う事で、御主人様へのリスペクトとして特注しました。」


よく見ると袴がノースリーブ構造になっており、二の腕から袖が始まっている。当然、両肩と脇が露わになっていた。

この構造は、娑雪の左袖と良く似ていた。


「御主人様は左利きでしたよね。この構造は、思ったよりも腕を動かし易く便利ですね。」


「おお。主も成長したのぉ。外出の時も休日も、眠る時すら全く同じ服だったあの主が…うう。」


「な…泣かないで下さい御主人様。ご不満でしたら元の物に…」


「いいや、そのままで良い。むしろ、主はもっと色々着飾って見るべきじゃ。」


娑雪は、輕陀の両の頰に手を触れる。


「その可愛らしき顔が、勿体ないぞ。」


「か…」


輕陀は赤面し、慌てた様子で後退する。


「ひ…一先ず、この神社の清掃作業に移らせて貰います!何かご用があればいつでもわたくしをお呼び下さい!」


箒を出現させ、輕陀は逃げるように娑雪の部屋を後にした。


「全く、相変わらずじゃな。阿奴は。」


何処からか木簡を取り出すと、そこに刻まれていた。いくつもの名前のうちの一つに印を付けた。



「おーい!こっちも頼むー!」


「は…はいっす!」


水叉は、流れでいつに間にか集落の復興を手伝っていた。


「よよ…よっこらせ。」


「お…お前すげえな!」


大男が数人がかりで運んだ瓦礫を、彼女は片手で持ち上げていた。

華奢な体ではあるが、バズーカを扱う身。彼女自身も自覚してはいないが、腕力は相当な物であった。

…ふと、水叉は奇妙な鳴き声を聞く。


「オギャア!オギャア!オギャア!」


「?」


鳴き声のする方向に向かい、その先にあった一組の瓦礫をどかしていく。

板状の木材を放り投げると、その下に母親らしき人物の亡骸に抱かれる様にしてそこに居た赤ん坊を見つけた。


「えっと…その…」


(どうしよう…人間の赤ちゃんなんて初めて見たよ…。えっと、確かコミュニケーションは、第一印象が命、此処は…)


水叉は赤ん坊から一歩下がり、深々と頭を下げた。


「じ…じじ自分、水叉…みず…み…み…水叉って言います!怪しいものではありません!」


と、水叉が頭を下げた時に、その長いポニーテールが肩から垂れた。


「アア…キャッキャ!」


不意に赤ん坊は泣き止み、彼女のポニーテールに手を伸ばそうとする。


(これは…成功かな?)


水叉が赤ん坊を抱き上げると、その赤ん坊はすぐさま彼女のポニーテールを弄り始めた。


「はあ…そそその、よ…喜んで頂けて幸いです。」


(人間も、生まれた時はこんな感じなんだ。何だか少し親近感が持てるな。)


見よう見まねで抱っこしながら、一先ず診療所に連れて行く事にした。


「アバァ…アヴァア〜」


「ええっと…よしよしー。」


「マアマ…マァマ…ママァ…」


「自分、ママじゃなくて水叉って言います。ひひ、人違いですよ。」


「ムゥ…サ…ミゥ…サ…?」


「水叉でででです。み・ず・さ。」


「ミゥサ…」


「はあ…ミゥサで結構です。」


(うう…疲れた…帰ったらボスによしよしして貰うんだ…そうしよう…)



「…遅いなぁ…兄さん…」


すぐに戻ってくると言う兄の言葉を信じ、ギルド内の待合室で待ってから、既に丸一日が過ぎていた。

夜は待合室のソファで眠ってしまったが、朝に起きても、兄の帰った痕跡は無かった。


“ガチャリ…”


と、ギルドの二枚扉が静かに開き、全体的に軽い服装の、茶髪を短髪にした青年が現れた。


「ローレンスさん?」


少年は彼を知っていた。

兄とパーティを組んでいる冒険者のうちの一人で、今回の調査も兄と共に同行した筈だった。

少年は直ぐに彼の姿に違和感を覚える。


「どうしたんですかその怪我!」


「ん?…ああ、そうか。僕が最初の報告者だったね…」


少し苦々しい顔をしながら、その青年はドレに全ての事を話した。

グロリアス騎士団の襲撃に、ダリアと自分は無事だったと言う事、それに集落の近くにダンジョンが出来ていた事、そのダンジョンのモンスターが襲撃を退けた事も。


「モンスターが…どうして俺たちなんかを…?」


「分からない。そのモンスターの話から聞いただけで、まだ僕たちはそのダンジョンをこの目で見てすらいないんだ。」


(それに、彼女は終始自分がモンスターである事を否定していた…)


敵意の無いモンスターは初級、言葉を話すモンスターは上級から超級の特徴と言う常識のある今、あの少女が何者なのかは、彼には見当も付かなかった。


「と…とにかく、俺は集落に帰りたいです!母さんと妹が心配だ。」


「そうか。なら僕の馬を使うと良い。乗り方は…分かるな。乗馬大会チャンピオン。」


「よして下さいよ。ちっちゃな大会ですって。」


青年と入れ替わる様にして、ドレはギルドを後にした。

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