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伍拾弐

「あ…あちゅい…」


式神の主な体温調節方法は、熱を直接放出すると言うもの。

式神の体内の温度は数百度を超えているものの、外気温が39度を超えた場合、体温の放出が上手く機能しなくなる。


「凪ぃ…なんかこう、気術で涼しくしてー…」


「無理だよ…まだ変属が出来ないの…」


「じゃあ…どっか涼しい場所…」



「て事があったんだ!」


「ええ…?」


奴瞰と凪は今、楽真の都にあるコンビニに来ていた。

壁に張られた“涼”と書かれた札からは、心地良い冷風が放たれている。

カウンターに立っていたのは、白いエプロンを掛けた亜亥だ。


「えっと、つまり…此処には涼みに来ただけ…ですか?」


「うん!」

「まあ…」


亜亥は困り果てる。

最長でもシフト終わりまで三時間、この二人を相手にしなくてはならない。


「えっと、他のお客様のご迷惑にならなければ。」


「はーい!」


そのコンビニが物理的に潰れるのに、十分も掛からなかった。



「ただいま。…ふぅ…」


夜、安アパートに亜亥は疲れた様子で帰る。


「おかえりなさい。その…今日はわたくしが晩御飯を…」


阨無の細やかな勇気は、亜亥の背負っている物によって消し飛ばされる。


「…え?」


「ふぅ…」


“ドスリ”


亜亥が狭いリビングのテレビの前に置いたのは、殆ど曇りの無い氷の塊。

その中には、見た事無い訳でも無い二人の少女が閉じ込められていた。


「亜亥それ、何処で売っていたんですの?」


「自分で作ったの。溶けるのには多分3日くらい掛かると思う。」


凪は顔の前に両手でピースを作った状態で固まっているが、奴瞰は走っている途中で固着した様だ。


「ねえ亜亥、これ何処に置くんですの?


「お風呂場でいいと思う。その間は…温泉にでも行こっか!」


「良いですわね!」


例え家族でも、必要以上の詮索はしない。

それが式神の間の、暗黙の了解だった。



「ボス、また遠出しちゃいましたね。輕蛇。」


娑雪の出現させた仙山の、中腹にある温泉。


「だね。今頃、天界って場所に居るんだと思う。」


輕蛇は白い濁り湯から指を出し、星の出る夜空をくいと指差す。

夜空には、それらしき物は何処にも無い。


「覚えてる?水叉。あの、でっかい槍が結界に衝突した時の事。」


「ああ、うん。凄く揺れたよね、」


「あの時の地震で、妖怪の女の子が一人、脚を折っちゃったんだって。別に、命に関わるほどの重傷って事じゃ無かったんだけど、それを聞いた時のご主人様、凄く悲しそうな顔してて…」


全員は救えない。でも、誰も救えない訳じゃ無い。

娑雪が時々語っていた持論だ。


「きっと方法があったんだよ。すぐそこに。」


都への僅かな危険すらも潰えさせる方法があるのなら、娑雪は何だってする。

必要とあらば、天をその手に掴む事すらも。



「…一番可能性が高いのは、こいつだな。」


ジッドは智滇廻に、一枚のA4紙を突きつける。

写真は無く、最低限の生い立ちだけが端的に描かれていた。


「ん〜平民の生まれだけど〜剣聖のスキルが999LV〜現在進行形でチート中〜…転生者の典型ですね〜」


ジッドと智滇廻は、転生者現象の原理の調査を進めていた。

いくつかわかった事は、転生現象は主に第五次元的な力、魂や次元間での情報のやり取りといった現象によって引き起こされる。

原因は主に5次元に干渉できる神的存在、被象魂の未練や願望による偶発、外的技術による誘発などが挙げられる。


「物事の記憶をするのは脳みそですが〜何故新たな体に記憶が引き続がれるんでしょうか〜」


「はぁ…また野外学習か…」

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