伍拾一
「うふふ〜」
暗く広い部屋の中に、サイケデリックマーブルの液体を煮る大釜が一つある。
それを大きな木のへらで掻き混ぜるのは、割烹着にゴーグルといった装備を身につけた廻恵理。
「ねーちゃん、それ何作ってるの?」
「何ってー新薬やよ〜」
「し…新薬?」
主に桃色と緑色のスモッグを吹き上げる大釜を指差しながら、愛衣凛は廻恵理に疑問符をぶつける。
「この世界にはね〜、ぽおしょんゆうぎょーさん効きの速いお薬があってな〜」
「ポーションねぇ…」
愛衣凛は羽を使い、廻恵理の立つ台まで一気に辿り着く。
「ほら、これや。」
廻恵理は、ポーション大全と書かれた古びた大きな本の一ページを、愛衣凛に自慢気に見せる。
「…媚淫のポーション…?…これ、絶対に媚薬じゃ…」
「せやで〜。売れそうやろ〜?ただ〜、うちらみたいな有我にお薬は効かへんからな〜ちょっと愛衣凛で試…」
「ねーちゃん、これ、煮るなんて工程何処にも無いよ?」
「…はれ〜?」
釜の中の液体が発光を始め、次の瞬間には大爆発を起こす。
木の柱や埃が床に落下し、沢山の薬品器具や本が散乱する。
山積みになった本の山から、二人の頭がひょっこりと飛び出す。
「…ねーちゃん。」
「なあに〜愛衣凛〜」
「伏せて。」
次の瞬間、二号店は完全に倒壊した。
「ねーちゃん。」
瓦礫の中から、くぐもった声が聞こえる。
「なあに愛衣凛。」
「…その体でも、たまには休暇くらい必要だって。」
〜
「………」
娑雪は一人、雲の上に立っている。
雲というのは本来ただの水蒸気の筈だが、ここの雲はまるでよく手入れされたセメントの様に、しっかりと地面としての役割を果たしていた。
そんな雲の上に一つ、黄金の城が鎮座する。
「お待ちしておりました。サユキ様。天使長様がお待ちです。」
「うむ。」
表情一つ動かさずに応対する天使達の本質にくすぶる殺気を、娑雪は当然の如く測り取っていた。
娑雪は被る傘を少し前のめりに倒して目を隠す。
こういう場合は、表情を読ませないのが最もだ。
(…この世界の神とやらが、一体どれほどの物か…)
緊張半分期待半分。
娑雪は、下駄で天界の地を踏む世界最初の存在となった。
〜
「ふーん。で、説明書を出したらマシンが動かなくなったと。」
「本当にごめんなさい〜!」
「…まあ良いよ、どうせ当分は使わないんだ。」
智滇廻を諭したジッドは、ついでとばかりにその懐からA4紙を一枚取り出す。
そこには、人名と思しき文章と、その説明が簡潔にまとめられていた。
「ざっくりと調べて見つかった転生者一覧だ。…で、これで何すんだ?」
「えっと〜長期観察をして〜行動パターンや前世の記憶等を割り出して〜転生の法則性を導き出したいんですよ〜」
「ほーん。…で、スキル付与は何のためだ?」
「無能者で転生しちゃった時の為ですよ〜。直ぐに死んじゃったら困りますからね〜」




