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伍拾

無事マルスサイファーに到着した二人。


「うっわー…何だこれ、歌舞伎町のバケモンかよ。」


「か…かぶきちょー?」


秩序の欠片も感じられない、きな臭い繁華街。

どうやら此処では、浮世とは正義と悪が逆の意味を持っているらしい。


「…おい、誰だあれ。新しい娼婦か?」


「式神って奴じゃないのか?とうとう此処にも来る様になったのか…」


「ほぉ…見た目はただの美少女じゃんか。」


水叉が、キョロキョロと周囲を見回しながら呟く。


「あ…あの、うううちら、凄く見られてませんか?」


「ったり前だろ?あんたは軍服だし、あたしは肩と頭に小狐が乗ってんだぜ?もっと堂々としていいんだぜ?

あんた、れっきとした女神様なんだからさ!」


「は…はあ…」


「…っと!体温体温!」


「うわ!」


式神と言うのは不便な生き物で、緊張したり、羞恥心を感じたり、怒ったり、その他体温の上がる行動をした場合には注意が必要である。

有我式神の身体を流れるのは血では無く、超高温の液状化した気。

加減を間違えれば、鉄が独りでに溶け始める温度にまで体温が上がってしまうのだ。

故に式神は、普段は自身の住処からあまり出る事が無い。


「ふぅ、危うく蒸し焼きにされるどころだったぜ…」


「ご…ごめんっす…」


京ノ皇は式神では無く、動物妖怪の上位種で有る、物の怪(もののけ)

式神とは違い普通…では無いが、一応は生物であるため、すぐ隣に居る式神が発熱を始めれば流石に身が危ない。

京ノ皇の髪の毛と胸の間から、それぞれ一匹づつ、不安そうに狐が顔を出す。


「もう大丈夫なんだぜ。」


“クゥ…”


そんな一連のやりとりを目撃していたマルスサイファーの住人達は、ほんの少しだけその警戒を解く。

彼女達に、今の所は害は無いと分かったのだ。

それに、本来ならば此処はよそ者厳禁の国だが、だからと言って彼女達にナイフを突きつけて脅す勇気のある者も居ない。


「…あ…あの…」


「ん?」

「お?」


ただ、声を掛ける勇気のある者ならば存在した。

普段ならばよそ者を追い出す役割を担っている、その地域を収める自警団の一人だ。


「よ、ようこそマルスサイファーへ。その、この国にはどういった目的で?」


「あー、あれだ、…そいや水叉、結局此処に何の用だ?」


「それは…」



「おい!あっちでも火の手が!」


「向こうから商品が脱走してるぞ!誰か捕まえ…」


「何だこのモンスター!どっから湧いて…」


一方、グロリアス騎士団の奴隷倉庫は、混乱を極めていた。

奴瞰のわがままと凪の善行もとい思い付きによって、奴隷倉庫は壊滅状態にあった。


「お腹空いた…もう…だめ…」


へたり込む奴瞰をおぶりながら、凪がよたよたと歩いている。


「うーん…あ。」


ふと思い付いた凪は、その懐から板チョコレートを一枚。


「ごめん。忘れてた。」


「…ああ!」


その時だった。


「お、居た!おーい!チビ二人ー!」


駅にでも迎えに来た様な調子で、京ノ皇が大手を振って二人の元に近付いて行く。

凪はチョコレートを持ったまま二人に近づいて行く。


「うわー…また派手にやったっすねー…」


「悪い人達ぽかったから…つい…」


「ははは、そりゃ良い。よし、凪。後ろ乗れ!」


京ノ皇は凪の襟を摘まみ上げると、バイクを出現させフロントに乗せる。


「っし、水叉はそっちの…」


「…ごめんなさい、うちのバイク、一人乗りなんです…」


「あん?…仕方ねえなぁ。」


京ノ皇はおもむろに気を練り始め、荒縄を一本練り上げる。

その荒縄は蛇の様に独りでに京ノ皇の手から抜け出し、すぐさま奴瞰の胴体に巻きつく。

縄の先端は、水叉のバイクのフロント部分に巻き付く。


「…え?」


「っし、帰るぞ!」

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