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肆拾壱

「ふー…【クイックエンチャント】!」


ダリアの持つ剣に、白い光が宿る。

かと思えば、次の瞬間にはダリアの姿がその場から消え去っていた。


“ガン!”


金属の筒と細身の剣がぶつかり合う。

ダリアにとって、水叉の持つバズーカ砲は未知の武器だ。


「っと。【武器術・形態変更《焼夷》】!」


ガチャンと、バズーカの砲身が90度回転する。

と、轟音と共に、砲身から青白い炎が広範囲に渡り放たれた。

近距離用の迎撃手段だ。


「のあ!?」


ダリアは間一髪で躱したが、周囲の石は融解し、土は燃え、砂はガラスになる。


「ふー…【武器術・形態変更《弾幕》】!」


再びバズーカの砲身が90度回転する。

次に放たれたのは、半透明の小さな玉だ。それも無数の。

威力は高くないが、破格の物量で敵をけん制する。


「ぐ…だあ!?」


当然剣一本で受け止められる代物でもなく、彼は全身の至る所に打撲の様な傷を負う。


「【武器術・形態変更《は…」


「う…待て。降参だ。」


ダリアは結局、水叉に一撃たりとも当てることなく、地面に膝をついた。

彼の体は、既に弾幕によって骨や筋肉を傷めており、彼はこれ以上戦えど勝機は無しと判断した。

そして何より、こんな必要かどうかも分からない戦いに命をかけるのも馬鹿らしい。


「そそそそうっすか…」


水叉の持つバズーカの砲身が、ガシャンガシャンと180度回転する。


「分かっているさ。此処はもう、貴方方の物なのだろう?」


「たたた多分っす。」


戦いは既に終結し、所々に雑務用式神まで放たれている始末だ。

今更、消えた国の為に戦う必要など無い。


「君と戦えただけで、今日は十分すぎる収穫だよ。」


「ええ?」


彼の中で、モンスターに対する姿勢の何かが変わっていた。

変われたというだけで、彼にとっては十分な成果だった。


「…そうだな。事が落ち着いたら、此処に遊びに来ても良いかい?」


「え…?…あ。はい。いいいいつでもどうぞ。」


水叉は一瞬戸惑ったが、直ぐに彼の立場を理解し、そう返答した。


ラクリマジカ滅亡は、あくまでも報い。

ダリアは、彼女たち自身には何の敵意も害意も無い事を理解していた。

彼の目下の課題は、四大大国の一つが消滅したことによる、世界秩序の変化にバドリアを乗せ、保護することだった。


「…じゃあ、また近いうちに。ミズサ殿。」


「はは…はいっす。」


ダリアは体を痛めているにもかかわらず、どこか軽い足取りでラクリマジカだった国を去って行った。

何処からか彼の部下らしきものが彼の周囲に集まったが、彼が事を話すと、彼と同じ帰路に就いた。


「これは…お仕事かかか完了って事で良いんすかね。ボス。」


水叉の傍らに、いつの間にやら娑雪が立っていた。


「そうじゃの。お疲れ様じゃ。ミズサ殿や。」


「ちょ、ボスまでそんな…」


「ふふふ…さて、残るは掃除だけじゃ。主は休んでおれ。」


「いいいえ。自分も手伝います!」


「そうか?無理はせんで良いのじゃぞ?」


「だだだだいじ…じょう…大丈夫ですよ!自分はまだ全然げんきですよ!」


「そうかそうか。ならば、頼もうかの。」


「はいっす!」


水叉はバズーカを再び構えると、砲身が270度回転した。


「【武器術。形態変更《戦破》!」


その方針からは、極太のレーザーが放たれ、建物を消し飛ばしていった。

こうしてラクリマジカの壮麗な歴史は、神の怒りを買い、あまりにも呆気なく消滅した。




こげ茶色の木材を基調とした、古びているが立派な屋敷。

夜雨が窓に打ち付ける中、知らせはその館に齎された。


「ラクリマジカ…崩壊…?」


真っ先に書簡を紐解いたキャサリンは、震えた声で読み上げる。

館の中は、広さの割には実に人が少なかった。


キャサリンと、彼女の叔母と、叔母に使える使用人が三名。

そして彼女の乗った馬車の騎手も務めていた、彼女の使用人が一人。

既に叔母は眠ってしまい、他の使用人たちも各々残りの仕事を片付けている最中だった。

なので、最初に書簡を受け取ったのはキャサリンであった。


(そんな…嘘よ!きっと何かの間違いで…)


と、彼女はその書簡の隅に押された、二つの判を見つける。

一つは、顧問官承認の証である、杖の印。

もう一つは、国王直々の承認を得た書類に押される、剣の印であった。


それを見つけた時、彼女の心は相反する二つの感情が渦巻いた。

まずは、その書が紛れもない本物であるという事に対する絶望。

そして、剣の印は国王だけが所有、使用を許された判。それにより、国王の…彼女の父親の生存が示されたことに対する安堵だった。


(“首都、管区全てをモンスターによって占拠され、ラクリマジカ城と、当時そこに居た顧問官や重役貴族合わせて七十四名を損失。国王と数名の顧問官だけはいち早く首都を脱出。現在は近隣の大街に退避中”…)


と、正式な手続きを踏んだと思しき証書とは別に、もう一枚、紙切れが入っていた。

見慣れた父の文字で書かれた、簡単な手紙だった。


(“どうか、自分の幸せを見つけて。”)


それは紛れも無く、ラクリマジカ滅亡の先触れだった。

自分の娘に王位を継がせることが出来ないと悟った、父親の精いっぱいのメッセージだった。

彼女はその小さなメモ帳を、大事そうに胸に抱えた。



ラクリマジカ奪取がひと段落付いた頃、娑雪は荒犬神の屋敷に呼び出されていた。


「話とは何じゃ?」


「お前、祭りの時居なかっただろ?」


と、荒犬神は手近な場所にある畳を引き剥がし、その下の床板も外す。

そうして開いた四角い穴に手を突っ込み、そこから比較的新しい酒瓶を取り出した。


「遅めじゃが、誕生日おめでとう。うさ耳や。」


荒犬神は、ぶっきらぼうにそう告げると、その酒瓶を娑雪の方に軽く投げつけた。


「っと。これは…」


と、荒犬神は顔を赤らめ倒れ込んでしまう。


「がは…は。流石だな…密閉していてもなお、漏れ出す臭気で昏倒しそうじゃ…」


「もしやこれは…!」


「ああ、煉龍酒だ。色々あってな、醸造設備が一基だけ用意できたのだ。嗜む程度なら困らんと思うぞ。」


娑雪は無邪気な笑みを浮かべながら、その酒瓶を抱きしめている。

今にも、周囲にハートマークが散らばりそうな勢いだ。


「おお…荒犬神よ…本当に感謝するぞ…!」


「がっはっは!なあに、誕生日を迎えた親友に贈り物をするのは当然の事だろう?…そうだな、ならお前が正気を失っている今だから頼みたい事がある。」


「何じゃ?何でも言ってみぃ。」



ラクリマジカ首都崩壊から、十五日が経った。


「いらっしゃ〜い。葛見漢方二号店、開店しました〜」


「ねーちゃん、客引きするならせめて寝巻きから着替えようよー」


人は消え、有象無象の神や妖怪達の都に変わっていた。

その都は、楽真(らくま)の都と名付けられた。


「領主、領主、りょ・う・しゅー♪あーたーしーが、りょーうしゅー♪」


かつてラクリマジカ城のあった台地に建てられた、豪族か平安貴族が住んでいそうな巨大な屋敷。

九本の大きな尻尾を振り回しながら、京ノ皇はその屋敷の最上階で、狂喜乱舞していた。


「領主様ー、人間が数名、この街の様子を見に来ましたー。」


「おう!放っといてやれ!」


「領主様ー、武装した人間の集団がこちらに向かってきておりますー。」


「おう!適当に追っ払っとけ!」


楽真の都の統治に、そこまでの能力は必要無い。

外交の事は気にしなくて良いし、神と妖怪の街に、政治などは最低限で良い。

いざとなれば娑雪の支援も望める為、京ノ皇は、特に何の労力も無しに地位だけ貰ったに近かった。

それもどういうわけか、彼女はある日突然楽真の領主に、娑雪直々に指名されたのだ。


「あ、そうだ!せっかくだし色んな奴に自慢してやろっと!」


彼女は思いつきのままに、近くに浮遊していた式神を捕まえ尖った狐耳に当てる。


「もしもーし、九硝かー!あたしなー、領主様んなったぜー!」



「っち、おいおーいマジかよー。」


マルスサイファーの繁華街の、とあるレストランのテラス。

新聞を片手に頭を抱えながら、ジッドはボヤいていた。

四大大国の一角に数えられたラクリマジカが崩壊したと言うニュースは、瞬く間に世界中に広がっていったのだ。


(いや騒ぎになるタァ思ったがよぉ…まさかここまでたぁなぁ…)


ジッドは新聞を隣の席に回すと、こぎ椅子をしながら考え事を始めた。

最悪、人類が滅んだ場合は魔界に逃げ込むと言う手もある。

彼の人脈は、種族すらも超越しているのだ。


「…ん?そうだ、これってもしやチャンスじゃねえか?」


ラクリマジカの首都が占拠されたのだ。締め出された人々が、大量に周辺に流れているはず。

そんな路頭に迷っている人々に、金貨の一枚二枚握らせるだけで、不特定多数に恩を売ることが出来る。


「よっしゃ行くかあ!」


出された料理を平らげ、店主に割高の料金を投げ付け、彼は黒色のペガサスにまたがりその場を後にした。

目指すは、旧ラクリマジカ城下町周辺に、こべり着くように点在する大都市だ。



陽の光が当たる台所から、トントントンと言うリズミカルな包丁の音が響いていた。


「おはよう、トキちゃん。」


居間から、静かで優しい声が台所まで届く。

包丁の手を止め、富季は居間の方を向いた。


「おはようござ…おはよ。エルピ。」


楽真の都の片隅の、簡素な新築一軒家での、何気無い出来事だった。

次回からは100年後の世界のお話、第二章、三日月をお送りいたします。

誠に勝手ながら、投稿ペースは少し落ちて、また毎週月曜日になると思います。

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