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拾漆

「そんな訳で、少しの間君たちのパーティに体験編入することになったトキさんだ。仲良くしてやってくれ。」


背の高い青年に背を押されて、富季は一歩前に出る。


「新入生は歓迎するが、何だって俺たちのパーティなんだ?もっと低クラスのとこの方が安全だと思うが…」


一番最初に口を開いたのは、赤い大鎧に身を包んだクレンと言う男。

背は高く、髪は短い金髪。蒼い瞳を持つその顔立ちは、美青年のそれである。

富季が編入するパーティの長にて、巨龍殺しの異名を持つソードマン。

敵の攻撃をいなし、その力を使い反撃するカウンターの名手で、巨龍や巨人すらも打倒してきた。


「...心配するな。一人多く守れば良いだけの話だ。簡単だ。」


鉛の様に重く低い声でそう話したのは、重戦士のダルクス。

体格はクレンの倍ほどもあり、分厚い鋼のプレートに身を包むその姿はまさに城塞と言える。ヘルムから僅かに覗く瞳からは、ただならぬ風格を感じさせた。

2~3mほどの巨大な剣と盾を軽々と扱い、クレンやほかの仲間を守る盾役。

それと同時に、大地すら割砕く強力な一撃によってクレンと共に前線に立つ、もう一人の戦士であった。


「そうよクレン。新人を任されるだけの信用を得たってことでしょ?もっと喜びなさいよ!」


ダルクスの背後から現れた少女は、エルダービショップのシアだ。

薄紫色の髪の毛を降ろし、その瞳もラベンダー色。

ビショップと言う職とは対照的に、その服装は一般的な冒険者のそれであり、腰から下げる女神のあしらわれた短杖が無ければ、彼女の職を見抜くことは難しいだろう。

歴代最年少でエルダービショップとなった彼女は、その即死魔法と回復魔法で、パーティの攻防の要であった。

その素質故に数々のパーティから声がかかったが、彼女は旧友であるクレンと共に行くことを決意し、今此処に居るのだ。


「...で...ではそろそろ出発しましょうか。心配入りません。ポーションは、いっぱい用意しましたので!」


長杖に隠れる様に立っていた、若干頼り無い雰囲気の三つ編みの少女が、大量のガラス瓶を掲げながらそう言った。

彼女はマジックシューターのエルピ。消耗品の買い出しや出先での宿の手配。戦闘においてはアイテムの使用や後方からの魔法攻撃による援護など、その働きはまさしくパーティのサポート役であった。


「皆さん、今日はよろしくお願いします。」


富季は、今日は彼らのパーティに混じって初級ダンジョンなどを周り、冒険者としての基本を学ぶこととなっている。


「…皆さま、今日はよろしくお願いします。」


富季がぺこりとお辞儀をすると、そのパーティは少し不思議そうな様子だった。

と、何かに気が付いた様子のシアが、富季の背をポンと叩いた。


「そんなにかしこまんなくっても良いの!あたしたちは同じパーティ、家族なんだから!」


「…家族…」


富季には馴染みの薄い言葉の響きだったが、悪い心地はしなかった。



「着いたぞ。ここがダンジョンだ。」


一行が向かった先は、暗い森の深部に佇む石の祠だ。

見た目は、地面から突き出た岩石にただ人が通れるサイズの穴をあけただけの様に見えるが、その岩壁には奇妙な絵や文字が刻まれていることから、自然物でないことが伺える。

その内部には地下へと続く階段があり、数本のたいまつだけで照らされていたためかなり薄暗かった。


クレンはパーティの先頭に立ち、解説を始める。


「ダンジョンってのは、いわばモンスターの巣窟だ。例外もあるっちゃあるが、ほとんどのダンジョンは地底世界から漏れ出た魔力によって造られ、ほっとくとモンスターがどんどん地上に出てくる、危険な場所さ。それを...」


「そこを攻略してダンジョンを無力化するのがあたしたち、冒険者の仕事ってわけ。他にも、地上に元からいるモンスターを討伐したり、時には戦争に駆り出されたりもするけど、大体はダンジョンが仕事場よ!」


クレンを押しのけたシアが、そう続けた。


「…とっとと入るぞ。初級だからと言って油断するな。」


盾を構えたダルクスが、エルピと一緒に先にダンジョンに入っていく。


「トキちゃん。ここからは気を引き締めてね!大丈夫、あたしが付いてるから!」


シアが薄紫の髪を少しなびかせながら、富季の手を引きその洞穴の中へと入っていく。

クレンは周囲の安全を確認したのちに、隊の最後尾に続く。


「…湿っていますね。ここ。」


「まあ地下ダンジョンだし。んーと、多分スライムとかスケルトンとかが出てくると思うけど、そこまで危険じゃないから大丈夫よ。」


「すらいむ…すけるとん…」


聞きなれない単語に困惑しながらも、富季は地下への階段を、そのパーティと共に下りて行く。

特に意識もせず、ふと被っていたフードを外す。


「…え?」


一番最初にそれを目撃したのは、富季より少し後方を歩いていたエルピだ。

富季はすぐにそれに気付き、慌ててフードを被ろうとするが、続くクレン、隣に居たシアも彼女の犬耳を目撃する。


「…ね…ねえ貴女、貴女も獣人なの?」


エルピが少し不安そうに富季に告げる。


「…この国と、少し前に居た国では、皆私の事をそう呼んでいました。恐らくは、それで合っていると思います。」


「…」


エルピがその不自然なほど長い神官帽を恥ずかしそうに外すと、赤髪から僅かに覗く猫耳が露になる。


「おお!貴女も獣人だったの?これって...狼じゃなくて犬だよね?凄い!初めて見た!」


シアは富季を興味深そうにくしゃくしゃと撫でる。

大事にならなかったため、富季は内心ほっとしていた。


「...静かに。」


と、前を行くダルクスが相変わらず重苦しい声でそう告げる。

その威圧感のある声が、警戒役としては最適であった。


「...開けるぞ。」


前方の扉を、ダルクスは盾で破壊する。

その扉の先には、巨大な円形の部屋が広がっていた。

茶色く湿った内壁は気味の悪い壁画で覆われ、円の中心には下へと続く螺旋階段があった。


“カラカラカラ...”


その部屋を埋め尽くすのは、独りでに立ち歩く無数の白骨達。

シアの予想通り、このダンジョンはスケルトン達のものであった。


「...恐ろしい...彼らはみな、かつてここで行われていた凶悪な儀式の生贄たち...ただならぬ怨嗟が、こっちに押し寄せてくる…」


シアが数歩後退する。

かなり狼狽えた様子を見せていたが、不意に杖を構える。


「なんてね。こんな亡者共にビビるような聖職者じゃなくってよ!どう?びっくりした?」


「…」


どう返せばいいのかわからず、富季はただただシアを見つめ返すだけであった。


「俺はシアと右から。ダルクスは二人を連れて右側から頼む。」


「...分かった…」


ダルクスは巨剣を右手に構えると、部屋の壁に沿って進撃を開始した。

エルピはダルクスのぴったり後ろに、富季は見よう見まねでその後を追う。


「...ふん。こずくだけで崩れる出来損ないのアンデッドか。」


「たまにはこういうのも良いですね。ダルクスさん。」


エルピとダルクスが戦闘のさなかそんなことを話していた。


“カラカラカラ!”


スケルトンの一体が、若干孤立状態にあった富季に狙いを定めるが、その攻撃が届く前に、側面からの光によってその亡者は消滅する。


「ふう…そろそろ終わらせましょう!【セイントプラズム】!」


入口とは反対側の壁に立っていたシアから、目が眩むほどの閃光が放たれる。

その光が部屋全体を包み込むと、先ほどまでいた筈のスケルトンの軍勢が一瞬にして消え去っていった。


「ふいー終わった終わった。さて、次の階層に行きましょ。」


「こ...この壁画によると、部屋は全部で3つあるみたいです…ですが...」


「よし、パパっと終わらせて、今日はみんなで美味しいものでも食べに行こうよ!ね?」


ダルクスは少し武具を持つ手を緩め、クレンもシアに呆れたような微笑みを返す。


「決まりね!もちろんトキちゃんも一緒だよ!」


「え?」


「あたしたちは家族!当たり前でしょ?」


「ありがとう…ございます。とっても嬉しいです。」


富季はあまり感情を表に出さないが、それでもシアには十分伝わっていた。


「ふふ。さ、次行きましょう次!」



“ゴオオオオオオ!”


神社の立つ仙山…否、その地一帯が大きな揺れに包まれる。

輕陀からの伝令により、仙山とその街の住人は、特にその揺れを気に留めることは無かった。


(ふむ、来おったか。)


ただ一人、娑雪を除いて。

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