「それが貴方の死ぬ理由」
死神の鎌を首に当てられて、焦らされるようでした。耳も目も聞こえなくなっていって、自分の身体が動きを止めていくのがわかりました。
22歳の誕生日、彼女に僕は殺されました。
彼女との出会いは、大学二年生の時に参加した、軽音部の新入生歓迎会でした。僕の方が、彼女に惹かれたのです。アッシュが入ったグレーの髪をしているのに、中身はおっとりとしていたので、ギャップにときめいてしまったのでしょうか。少し音楽の話をしたのもあって、1ヵ月経つ頃には、彼女の友人たちに噂されるほどわかりやすい好意を抱いていました。
この大学の軽音部では、新入生歓迎会の前にライブを行う決まりがあって、僕はそれに出たくなかったのですが、彼女が僕と話したいと思ったきっかけがライブだったと知ってから、僕はわかりやすくライブに積極的になりました。
彼女と付き合うことになったのは、その新入生歓迎会から三ヵ月経った頃、夏の日でした。僕の猛アタックに、彼女が折れました。ストレートな人が好きらしい、という情報が頼りになったと大喜びしました。
その日、彼女と食べに行ったイタリア料理の洒落た店が懐かしいです。僕らの終わりを告げているかのように先週、店はなくなりました。
兎も角、その頃の僕はまだ彼女の悪いところに気づいておらず、それはもうぞっこんで、彼女のことばかり考える日常を送っていたのです。今までは、飽き性であることが恋愛にも響いて、長続きしませんでした。その反動でしょうか、怖いほど夢中になっていました。
少しは周りも見ないと、転ぶことは知っていたはずだったのですが。
8月の終わり、彼女は僕の家に泊まりに来ました。前日にライブがあったので、打ち上げをしていたのですが、見に来てくれた彼女がどうしてもと言うのを断れませんでした。個人的には、打ち上げもしたかったのですが、彼女も参加してもいいと言っても嫌がるので、打ち上げにはほとんど参加せず、そのまま二人で家に帰りました。
その夜、彼女はわんわんと子供のように泣きました。今回のライブのために組んだバンドメンバーの女性が僕と話していたことが、彼女にとって不快だったそうです。初めて見た彼女の泣き顔に、どうしていいかわからず、抱きしめて眠りました。不安になりやすい子だと、思いました。ですが、大事にしようという気持ちが溢れるだけでした。
秋学期が始まった次の日、10月2日。これはよく覚えているのですが、彼女と二人でバイキングに出かけました。彼女の肩出しニットに、どこに目をやればいいか戸惑ったことはいい思い出です。ですが、そのあとのレジの女性定員にお金を渡す際、手が触れ合ったことを指摘されたことは、嫌な思い出です。それでも、寂しそうな彼女を見ると仕方ないと思ってしまい……。
僕のほうが、仕方ないやつだと思います。
それからも、何度か似たようなことがありました。12月には、自分の女友達と僕が出かけた日と場所が同じだと言ってきたり、僕の家の近所のコンビ二定員が女性であることが多いと言い出してコンビ二の利用を控えて欲しいと言われたり、とにかく彼女は好きであることを理由に僕を縛りました。
その時に、嫌になればまだ生きていられたかもしれませんが、僕はそれでも彼女が好きで、嫌になんてならなかったのです。
彼女は、どんどん疑いやすくなっていきました。僕を以前より、頻繁に疑うようになったのです。愛を確かめるような行為もされました、何度も好きかどうかを聞かれました。
それが、彼女の元々の僕にとっては悪いところであると気づくまで、とても時間がかかりました。僕が彼女を不安にさせているのだと、考えていました。
それから、1年間ずっと同じように束縛されて疑われて、それでも僕は彼女が好きでした。バンドも異性とは、組みませんでした。ドラムをしている部員は少なかったので、度々声をかけられましたが、断りました。たまに仲のいい男友達と居ても不安がられたので、友達と過ごす時間も減らすように心がけました。
大学四年になった僕はやがて、卒論と英語力を上げるための勉強と就職活動に追われるようになりました。それでも、週に一度は彼女とデートをして、バイトのない夜は遅くまで通話をしました。その頃には、どんな人も信じられない彼女のことをどうにかしてあげたいと思っていたので、面倒だとは思っていませんでした。けれど、毎晩の彼女との通話は体力的にしんどいと思わざるを得ませんでした。
どうにかしようと考えた結果、婚約指輪を渡しました。彼女がこれで、少しでも安心してくれればいいと思いました。今後の考えや、どういった職に就きたいか、といった話もしました。指輪の効果は、僕のほうにありました。指輪をきっかけに僕は、別に彼女とデートしなくても内定を取ってしまえばたくさんできるのだから、我慢しようと考えました。不安がる彼女よりも、この先の安定を選んだほうが後々、彼女のためになると考えました。彼女だってそれくらいわかってくれるだろうと思ってしまったのが、最大の過ちでしょう。
秋に差し掛かる頃、週に一度のデートを1ヵ月に1回にしてほしいと彼女に伝えました。隣に座る彼女の返事がとても遅くて戸惑いましたが、彼女はいいよと言ってくれました。いいよと言った、だけでした。
僕の誕生日の前日、クリスマスまで彼女は僕のことを、ストーカーしていたようでした。浮気だと睨んだようですが、中々しっぽを出さない僕にもっと不安になった彼女は、僕を殺して自分のものにしようと計画したようです。
当日、僕は彼女の家に着いてすぐに後頭部を殴られました。朦朧とした意識でしたが、僕は説得を試みました。どうしても、まだ彼女もわかってくれるのではないかと希望を抱いていたからです。僕には、やっぱり考えらません、この先の長い幸せと引き換えに今の心を満たしてしまいたい、なんて。
僕の説得に、無言で首を振ったナイフを片手に握る彼女は、僕のみぞおちを刺しました。それから、彼女は僕に馬乗りになりながら言いました。
「この先の永遠の不安を消して、私を永遠に幸せにする。それがあなたの死ぬ理由」
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ちょっとぞくっとしてもらえたなら幸いです。
最近ほぼ毎日更新できていて、いい感じ‼
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3話完結の中編恋愛小説です。今回のような暗い恋愛をよく書いています。
犯人目線の殺人事件×恋愛ものです。よければこちらもどうぞ。