超常現象のようにその街の人々は狂っている
人通りの少ない夜道を向こうから人が歩いてくるのが見えた。別になんてことはないことだったが警戒しておいたのは正解だった。
彼は俺から通り過ぎる瞬間に、俺の首を絞めてきたのだ。
慌てた俺は誰かがいるかどうかもわからなかったが、とにかく助けを呼ぶように叫び上げた。
しかし誰も助けには来ない。
仕方がないので俺はその場で男の股間を蹴り上げて、なんとか首絞めから脱出することに成功した。
次の日。
俺はコンビニに立ち寄って、雑誌を買おうと思ってレジに並んだ。すると、横から列を割り込まれてしまって、俺は慌てて「ならんでるんですけど」と文句をつけた。
だがそいつは聞こえない振りをしてそのまま立ち尽くしている。
そいつはまだ小さな、六歳くらいの少年だったから、あまり強く言うこともできずに仕方がないのでされるがままにした。
その途中、突然銃撃音が鳴り響き、次の瞬間には少年の頭から大量の血が流れ出ていた。
少年が打たれたのだ。
割り込みをした罰にしては、あまりに重すぎたような気がする。
「強盗だ。金を出せ」
強盗だけではない。人殺しでもある。
それはとても腰の曲がった、しわくちゃな老婆だった。俺は急いで身を隠そうかそれとも老婆を撃退しようか迷ったあげく、急いで商品の物陰に隠れて銃に撃たれないようにした。
そして老婆の様子をうかがっていると、レジの中にいる店員が奥からナタのようなものを持ってきて、老婆の頭にそれを振り下ろす瞬間が見えた。
老婆はナタで頭を真っ二つにされる直前に銃撃したので、結果として店員も老婆も死んでしまった。血が流れている。少年、老婆、店員。三つの命が、あっという間に失われてしまったのだ。
俺はコンビニから飛び出て、警察に連絡した。
しかし警官は何時になっても現れなかった。
仕方がないので警官を待つことを諦めた俺は、自宅に帰った。
献身的な妻が帰っているはずの自宅は、俺の一番の癒し空間である。こんなありえないことの連続が生じた一日を、妻に語ろう。
優しい妻は、人が死んでしまったことを聞いて、涙を流すだろうか。
そんなことを想像しながら家の玄関を開けると、知らない男物の靴があった。
中に入ると、妻が浮気をしている現場を目撃した。
裸で乱れ合っている彼女たちは、俺が入ってきてもなんの動揺もみせることなく、腰を振り続けていたので、俺はその場にいることができず、そのまま家から飛び出していった。
外では、ギャングが口論をしていた。
そして口論をしているギャングたちが、なぜか俺を睨みつけると、俺の方へと向かってきた。その手にはナイフが握られていた。
俺はもういいかと思って能力を解除した。
その結果男たちは何事もなかったように俺から立ち去り、闇の中へと失せていった。
取り残された俺は、ため息をつき、この能力で味わうスリルは本当にたまんねえな、と心の底から思った。妻も浮気をしてしまったが、別に俺は構わない。献身的で優しい妻があんな俺への悪を働くこと自体も、俺にとっては快楽だ。さらには俺はたくさんの死体、その死ぬ瞬間でさえも見ることができた。
いやー、この能力、本当、最高だわ。
俺の能力は周辺一キロメートルにいる人間を凶悪化させる、悪にする、能力だ。
すべての原因は俺にある。
そんなスリルがたまらないんだよなあ。
と思っていた俺は、突然バナナに足を滑らせてすっ転んで、そのまま車道へと転がっていってしまった。そのままの勢いで俺は何故か止まることができず、車にひかれた。
車にひかれた俺は吹き飛んでいき、工事中のマンホールの中へと落ちていった。
そのマンホールの中で俺は、幽霊を見ることになる。
それはいわゆる貞子というやつだった。
俺は呪われて死ぬのか。
死にたくない、死にたくない。
うわあああああああああああああああああああああ。
マンホールの蓋がしめられて、工事の光すらも差し込まなくなり、真っ暗になった。
能力の存在がある以上、幽霊だって存在する。
ということはこの世界では俺に恨みを持った幽霊が俺を殺すために復讐をはじめてもなんらおかしくはなかったのだ。
あのバナナも、工事中のマンホールも、この幽霊も。
すべてが幽霊の仕業だとするならば、俺も、幽霊になったらこうやって人に恨みを振りまくことになるのだろうか。
ああ、そんな世界も、悪くないかな。
そう思いながら、俺の人生は、幽霊によって完全に終了した。