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余談  追憶

べつに、クロちゃんとぴーちゃんに何事かが起きたわけではない。

あいつらは、ちゃんと元気で凶暴だ。


さて。

大阪は平野川に鴨たちがたゆたう季節がやってきた。


鳥愛の激しいらおぴんであるが、水鳥、とりわけカモの類いには尋常ならざる愛情を抱いて止まない。

いや、むしろ病んでいる。


あの、愛らしいぷっくりお尻。

魅惑の曲線を描く、平べったい嘴。

ほんのり温かい水掻き。


好きだ。

愛している。


見ても、飼っても愛らしく、さらに言うなら、食っても美味い。

あっさり出汁に塩味で、ポン酢醤油などではなく、「ポン酢」で食うのがベストであると、らおぴんは思う。



ちなみにカラスも、普段の食生活さえマトモなら、美味しく食える鳥である。

ミヤマカラスは普通に美味い。

クロちゃん……ではなく、ハシボソカラスも、市街地に住まう奴らを除けばさほどクセを気にせずいただける。

ハシブトカラスは、ジビエらしいジビエだ。


身の味にすら都会の汚物の渋さが移る事を鑑みるにつけ、食生活とは、かくも恐ろしいものかと考えさせられてしまう。


人間の肉体にも、さまざまな物質が浸透し、その食味すら変えてしまうほどに蓄積されてしまっているに違いない。




……食いませんよ?





食味の話になってしまったのには、わけがある。


らおぴんには、その人格形成期のほとんどを共に暮らした水鳥がいたのだ。


その名も、ぴーこちゃん。

オスだ。



彼は、小鳥をおねだりした幼き日のらおぴんのために、父が、出張の帰途四時間の列車の旅にて連れ帰って来てくれた、思い出深い相棒だ。

少し前に、その折に何があったかを書いた気がするが、どの章だったかな?

まあいいか。


溺愛していたぴーこちゃんは、アヒルと言うか、合鴨だった。



合鴨といえば、胸肉のハムなんかで近年メジャー化しつつある、美味しい鳥だ。

らおぴんでさえ「こいつら旨い」と思っているのだから、世間の人々の評価は押して知るべし。

たいていの人は「かわいい」ではなく「美味しそう」と評してくれたものである。


ぴーこちゃんが星になった後、アヒルの不在に気付いた人々から問われたらおぴんは、庭の片隅の、小さなお墓の存在を明らかにしたのだが。


皆さんは、お墓を前にして嘆いて曰く 「もったいない」と。







美味そうだった、ぴーこちゃん。


未だ、愛の泉は満ち満ちている。




鴨ハムは、らおぴんの好物だし。












クロちゃんと、ぴーちゃん。


鳥愛を捧げるらおぴんではあるが、さすかに「美味しそう」と言う人はいない。


だが、本日ぴーちゃんのお世話をしていると、出入りの税理士さんがしみじみ言った。




「カラスも普通に食べられるらしいね」





……食えますが、あげません。


仮に社長が良いと言っても、ダメ。絶対!!

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