2021/11/19 閑話 「走馬灯」
私事ではあるが、昨日、久しぶりに「走馬灯」を見た。
芸術性溢れる古典的民芸品のアレではなく、人間が、まさかの時に見ちゃったりする方である。
この日、カラス部屋を掃除した。
倉庫として使用している洋間なのだが、どこからかイタチが侵入してくるザルな部屋だ。
最近はイタチの気配はないが、そうかと思ったら、今度はネズミ。
築百年住宅あるあるだ。
あらゆる隙に巣食うのが、ネズミ。
少しでも潜む場所を減らすため、余分なケージ類なんかを地下倉庫に移動することにした。
カラス部屋、カラスケージの真ん前には、自作した地下室への出入り口がある。
床下収納庫用の持ち上げ蓋なので、普段は床と一体化。
下には階段式の脚立を置いており、160センチほど下の半地下に降りられるようになっている。
この家は表と裏の道路面の高さが違うため、床面は表道路に合わせて、家全体が高床式っぽい造りになっているのだ。
この地下スペースは便利だが、土地の高低差は弊害も多く、大雨が降ると地底湖が出現するのがデフォだし、今年7月にはここ20年で最大の大浸水被害を被ったりもした。
まあ、それはいい。
要するに、出入り口は、芝居舞台で言うところの「奈落」状態なのである。
そこに、油断して、コケた。
とっさに踏ん張ろうと足を下ろしたそこには、床がなかった。
後ろ向きまっ逆さまコースで倒れ込みながら、それはもう、見えた見えた、めっちゃ見えた「走馬灯」。
マジで死んだな、私……、と思うレベルの見事な落ちっぷりで、当然後頭部から落下を遂げ、第一発見者はウチのおっさんになるところであった。
あまりの事に、さっきまでカーカーうるさく鳴いていたぴーちゃんすら絶句したほどだ。
何をどうしたかよく思い出せないが、結果としては、片足と、突っ張った両腕で、かろうじて奈落の縁に引っ掛かっていたワタクシだ。
我に返って安堵したのも束の間、今度はそこから動けない。
もともと膝は、歩行に杖が要るほど弱い。
でもって、絶賛踏ん張り中の左肩は、春以来の重度五十肩で、カバンもろくに持てないレベル。
体を持ち上げる力はないが、下に降りるには体勢が悪い上に、脚立がコケてしまっていて足場がなく、改めて落っこちるしかない。
が、安全に落ちられる自信はない。
一瞬のパニックのうちに、またまた見ちゃった「走馬灯」。
あれって、不思議ですよねー。
時間がゆっくりになるんですよねー。
というか、思考が加速してるんでしょうねー。
短期間に二度の走馬灯体験を経て、妙な落ち着きとやけくそと、いわゆる「火事場の馬鹿力」というスキルをゲットしたワタクシは、踏ん張れないはずの足で踏ん張り、動かないはずの肩と腕での変則的懸垂で、見事に這い上がりを成し遂げた。
頭をぶつけたはずだが、どこを打ったかよくわからない……。
少し時間が経ってから、背中と尾てい骨と、首が少々痛くなってきた。
どうやら走馬灯を見るのに必死で、現実の観察がすっぽ抜けていたようだ。
マジで救急車を呼ぼうかと考えてしまったが、しばらく様子を見て、大丈夫であろうと判断をした。
そこでまた、事故で頭を打って脳出血した友人の事が記憶に甦り、そういえば、本人は大丈夫なつもりでめっちゃ日本語崩壊した「大丈夫メール」を送ってきたな、という恐怖体験を思い出した。
さて、この文章はちゃんと書けているのであろうか?
なんかまだ、自分の無事に自信が持てない……。
本日、全身痛いです……




