「愛」とノースキャンダルハラスメント
「愛は犯罪及び不法行為の火種である」
一太郎の混信の迷言である。
一太郎は、大学卒業後ノンキャリアの警察官になった。厳しい警察学校を卒業後、卒配した警察署で交番勤務を命じられた。一日の当番勤務の中で、何十件もの110番対応の中には男女の喧嘩、不倫等の世間で言う「愛」が原因となるものも多かった。万引き犯や猥褻犯の身元引受人が奥さんや彼女ということも常で一太郎にある種の諦めにも似た人間不信の爪痕を残した。その一方で自ら命を絶つ者、孤立死する者、様々な非日常な現場は社会に対する不信と怒り、そして自らの力のなさを痛感したことも今の一太郎の世間に対するある種の反抗心とノースキャンダル男伝説を築き上げるつぼみとなったのかもしれない。
一太郎は、あるスキャンダルで一国の大統領の有力候補だった男が批判にさらされ、立候補の取り下げを迫られるというストーリーの映画を思い出した。
その映画のシーンの中であるベテラン記者が若手記者に次のような趣旨のセリフを言う。
「そこいらのチャラ男ならスキャンダルも伝説になる。でもな。国民、市民の代表、しかも大統領候補であればなおさらスキャンダルは許されない。権力と実力を持つ者はそれ相当の責任を負うのだよ」
日本でも政治家の不倫が取り上げられると、
「政治家の本分である政治の仕事で結果を出せば、私生活は関係ない」
という意見もある。
ノースキャンダル男の一太郎にとってスキャンダル塗れの政治家に対する怒りは、ただの
嫉妬心やチェリー心と捉えられる可能性もあるだろう。
「愛」をたくさん知っている者こそが政治家に相応しいという考えもある。
ただ、冒頭の一太郎の迷言である「愛は犯罪及び不法行為の火種である」ことが真実であれば、犯罪とは言えないまでも民法上の不法行為を行い、損害発生の危険性を多く抱える者が政治家として相応しいかといえば相応しくないだろう。損害はおそらく、税金から支払われる可能性も高い。ましてや不倫等のスキャンダルが公になっている者が政治家に居座り続けられる国というのはまさにスキャンダルを国家が黙示の承認しているとして恥ずべきことではないか。
一太郎「確かに世間一般の男女(現代は性の多様性から男女に限られない)の「愛」が、犯罪及び不法行為の火種である。ただ、それに該当しない「愛」もあるのではないか。法律が時代によって変わるように「愛」の意味や形も変わる。家族愛、愛国心、VR愛、biba愛等、「愛」の概念はそもそも本来的に多様なはずだ。私は、リア充達が言う「犯罪及び不法行為の火種である「愛」」は知らないし、スキャンダルスな政治家は認めない。でも愛するbibaが結婚したとしても応援し続けることすらある種の「愛」と呼べるとするならば、自分も「愛」を知っているとして自信をもって政治家になってやろうじゃないか。むしろ、リア充達が認知する「愛」の解釈によって自分のようなノースキャンダル住民の権利が侵害されているのではないか。いやノースキャンダルハラスメントの存在で苦しめられている人達がいるはずだ。略して「ノーハラ」禁止条例という立法事実がそこにある。LGBTやエイセクシャルだけでない。ノースキャンダル男女の自由も認められ、救済されるべきである」
と一太郎はファミリーレストラン「イマジェリア」のトイレで絶賛きばりながら考え続けていた。ひとりで入店したドリンクバーでメロンソーダとコーラ(通称:コラメロ)を混ぜたオリジナルジュースを飲みすぎたのを後悔しながら。
「ジョロジョロ」
「OH!YES!さすがメイド・イン・ジャパン」
ウォシュレットの素晴らしさに感動しながら思わず声を出したところ、
「ふふふ((笑))」
という子どもの声が聞こえたことに一太郎は赤面し、
「ノースキャンダル」と心で叫んだ。
まだまだ、寒さが染みる2月初旬の夕方のことであった。
※犯罪(刑法):構成要件に該当し、違法かつ有責性のある行為をいう。
※不法行為(民法):故意または過失により他人の権利または利益を違法に侵害する行為をいう。
※立法事実(憲法及び立法学):法律を制定する場合の基礎を形成し、かつその合理性を支える一般的事実、すなわち社会的、経済的、政治的もしくは科学的事実をいう。⇒一太郎の行動の指針になっており、官僚や既存政治家に勝てる一太郎の唯一の武器となる。
「自分の人生は立法事実を探す旅である」BY 一太郎
※ノースキャンダル男:
30歳以上で見た目普通。スポーツ万能。女性が大好きかつ想像力豊かでなぜかテクニックはマスタークラスだが、究極の奥手で女性が苦手。魔法が使える男という極めて稀な人種である。