ひとりぼっちの個人演説会
希望区公会堂
それは希望区役所の中に併設された様々な記念式典等が開催され約600人規模の公の施設である。
都筑一太郎はひとり壇上にいた。
「えぇーと。私はこの度、未来市議員選挙に立候補いたしました無所属の都筑一太郎です。
私が今回立候補した理由は、既得権益が蔓延るこの未来市に新しい風を吹かすこと。だけではなく、私のようなひとりで立候補する人間でも政治家になることができる、いや挑戦できることを示し、未来市の未来のために未来市民の希望になるためであります」
ひとりしゃべり続ける一太郎。客席には誰もいない。ただ、今回は動画配信サイトのシモチューバーで全国生配信である。
先日の中出川駅でのチェリーマン1世の応援演説がsimotokで切り取り拡散されているおかげか、既に視聴者数は5万人を超えている。
「えぇーと。私はノースキャンダルなのは、モテないのもありますが意識的にスキャンダル社会に対する私なりのレジスタンスでもあります…」
その時である。
「バーン(ドアが開く音)。ひとりでやっているやってる。まじウケる」
と壇上の一太郎を指差しながら、女子高生ひとりが入ってきたと思ったら、その後ろからたくさんの女子高生軍団がキャーと言いながら入ってきた。100名はいる。またその後ろからたくさんの男子高校生も「うわ、エグイわ。ひとり神太郎だわ」と大勢入ってきた。
驚いた表情で一太郎は、
「ありがとうございます。お、お好きな席にお座りくださいませ」とかみかみで一言。
まだまだ観客は増えていく。高校生だけでなく、シニア世代をはじめ、老若男女が入り乱れて公会堂に途切れなく入っている。
突然、「頑張れ!頑張れ!」コールが鳴り響く。
一太郎は涙を堪えながら
「あぁ、ありがとうございますぅ」と早口でおじぎしながら叫ぶ。
そして観客席がほぼ埋まり始めた中、一太郎は真剣な表情で語りだす。
「私は、今まで失敗ばかりしてきた人生で日本のレールからは外れてきました。でも悪いことはしてきておりません。法律違反ももちろんありません。でも変わり者として色々な人生経験をしてきたせいか、色々な悪口や不当な扱いを受けてきました。今回も選挙に立候補するにあたり、既得権益からと思われる巧妙な嫌がらせとも思われることをされてきました。なぜか。それは既得権益は集団で、組織的に利害関係で動いているからそれを少しでも邪魔するもの、しそうなものには必ず抵抗、しかも巧妙なあの手この手でしてくるのが常なのです。
レールに乗ってきた者たちがそのレールの中でつくる制度は凝り固まり、時代錯誤になることも認めず、利益と自らの生活の安定以上の欲を満たすために、政治ではなく、選挙活動を任期中に永遠と繰り返します。そして、希望区の既得権益の支持者もまた、新しいように見えて新しいものに対しては激しく抵抗します。公であるはずの公務員ですら積もり積もって裏ではつながっているような状況になります。果たしてこれで未来市の希望はあると胸を張って次世代に言えるのでしょうか。
特定の者が特定の団体及び組織のために便宜を図り、特定の者が自分達に都合の良いように、いや選挙に当選するために活動していくこの社会に希望があるというのなら、皆さんは今日ここにいないでしょう。私のようなひとりで戦う人間には組織力もありませんが、しがらみもありません。人間力はまだまだ未熟ですが、信念があります。選挙に受かるための選挙はしない。もちろん、当選したらすぐに取り掛かるべきことは既に決めて今まで活動してきました。また、今回、負けることもある意味、組織票という日本の闇を未来の世代に身をもって伝えることができるのであれば意味があるかなと考えます。誰もが挑戦できる日本。特定の者が特定の者にする政治は、裏金やパーティという政治家を生み続けます。それは全国の国会議員、地方議員も結局はピラミッドでつながっているから無関係であるというのはまやかしであることはいうまでもありません。世間的に新しいと思っている地域は実は古いという現実は認めて初めて未来市の希望を語ることができるということを信じております。皆さんがどんな時でも立ち上がる強さ、ひとりでも戦う覚悟の導火線くらいになれるなら幸いです。…本日はご来場ありがとうございました。」
希望区公会堂内が一瞬、チーンという静寂に包まれた後、
「ブラボー。いちたろー。いちたろー」とコールが鳴り響いた。
ライブ配信視聴者数は10万を超えてすぐにこの熱狂シーンごとに切り取り編集拡散された。
それは少し暖かい風のにおいが懐かしいような選挙最終日前日の夜のことだった。
<次号 マイク納め>




