04 弱者の道理
あまりに馬鹿げた展開に、元近衛騎士の筆頭だった青年――クルーゼ・レイハーレは思わず叫んでいた。
「突然どうしたというのだ? クルーゼよ」
今までにこやかな笑みを振りまいていた王が、不快そうに眉を顰める。
そこには、隠すつもりもない侮蔑の色があった。
これ以上の発言は完全にマイナスだ。だが、それでも、クルーゼは言葉を慎む事が出来なかった。彼の道理がそれを許さなかったのだ。
「……無礼を承知で言わせてもらいますが。どこの血筋かもわからない者を後継者にするなど、正気の沙汰ではありません。どうか、お考え直しを」
「血筋か。それならばもはや疑うまでもないだろう? 数多の魔法を宿した血だ。この国の誰よりも、それは尊いと思うがな。……それとも、そなたのいう血筋とは、過去の功績に胡坐をかいたものをさすのか?」
まるで責めるような口調で、王は言った。
「……王である貴方が、先人に託されたものを否定するのですか?」
苦々しい口調で、クルーゼは言い返す。
「そんな事は言っていない。ただ、血筋だからというだけで選ぶのはあまりにも愚かだと言っているのだ。真に優れたものが統治する。これ以上に民にとって価値あることはないだろう?」
「ですが!」
「――ねぇ、もしかして、あんたまだカイトに嫉妬してるの? 元、天才さん?」
蔑みに満ちた声で、魔術師が口を挟んだ。
これ以上ない侮辱である。プライドの高いクルーゼの身体は否応なく強張ってしまう。
それを、どう受け取ったのかはわからないが、魔術師はしたり顔で続ける。
「あんたが凄かったのは、彼が来るまでよ。本物がいなかったから、紛い物風情が天才を名乗れてたってだけ。部を弁えたら? あんたの意見なんて、もう大した価値もないのよ」
「……」
冷や水をかけられたようにクルーゼは押し黙り、周囲を見渡した。
王宮のエントランスには、他にも王の護衛役である騎士や従者の姿もあったが、誰一人としてクルーゼの意見に賛同するものはいなかった。
迷惑な奴を前にしたような表情に、憐れみを滲ませた瞳。
「――っ、失礼する!」
この場にいるのが耐えきれなくなって、クルーゼは足早に王宮を後にした。
その姿が消えるのを待つことなく、
「ダメだよ。いくら本当の事だからって、あんな言い方をしたら」
と、カイトが嗜めるようにそんな事を言っていた。