03 英雄への期待
その後、魔王軍は瓦解し、王国は奪われていた土地を取り戻した。
そういった報告を背景に、カイトは凱旋を果たす。
「きゃああ! カイト様ぁあ!」
「カイト様だ! 英雄の帰還だ!」
晴れやかな青空の下には、多くの民衆が集まっていた。
誰も彼もがカイトの名前を呼び、彼の功績を褒め称えた。
国を救う英雄が、正しく国を救った英雄になった瞬間である。
「……よく戻ったな、カイトよ」
凱旋を終え、王宮に戻ると王が出迎えてくれた。
齢五十を過ぎた彼には子供がいなかった。魔王との戦争で失ったのだ。
だからこそなのか、後継者の問題が残っていた。
「大事な話があるのだ。聞いてくれるか?」
「なんでしょうか?」
「娘を娶ってもらいたい」
おもむろに王は言った。
女騎士と魔術師、そして姫の表情に驚愕が過ぎる。
「お、お父様!?」
「へ、陛下! そ、それはちょっと話が急すぎるといいますか!」
「……この糞野郎。暗殺してやろうかしら?」
姫に騎士に魔術師と、各々の性格がわかる反応を見せつつ、三人が王に迫る。
王は「まあ、慌てるな」と可笑しそうにいいつつ「具体的に言うと、そなたにこの国を任せたいのだ」と、爆弾発言をした。
「は?」
そんな事態はさすがに想定していなかったので、さすがのカイトも目を丸くする。
それをどこか勝ち誇ったように受け止めながら、王は続けた。
「それさえ叶えてくれるのなら、愛人についてどうこういうつもりもない。魔王軍との休戦条約についても、一任したいと思っている。それはお前の責任でもあると思うのだが、どうだろうか?」
魔王の娘を見逃したという報告を聞いての発言だろう。
そこには脅しの匂いもあったが、特に不快を覚える事はなかった。
カイトは数秒ほど考え、
「わかりました。私でよろしければ」
と、答えてから、
「あ、でも、結婚についてはその、待ってください。さすがにそれはその、急すぎると思うので」
魔術師と女騎士の鬼気迫る表情を前に、慌ててそう付け加えた。
こうして、英雄カイトは王国の次期国王となり――
「――そんなことが、認められるものか!」