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チート野郎は死に腐れ!  作者: 雪ノ雪
3/13

02 強者の慈悲

 そうして多くの問題をその力で解決してきた末に、ついにカイトは魔王という存在と対峙する。

 世界を滅ぼそうとする悪。

 その名にふさわしい、強力な敵だった。

 カイトと互角の炎魔法を駆使し、カイトと互角の剣技を駆使して、魔王はカイトの仲間たちを追いつめていった。

 偉大な父をもつ女騎士も、天才と称された魔術師も、かつて英雄と呼ばれていた老練の戦士でさえ、魔王の圧倒的な強さに膝をついた。

 この世界にカイトがいなければ、世界は本当に滅んでいたかもしれない。

 だが、此処にはカイトがいた。

 いくつかの点が互角でも、結局それは現時点でだ。

 無限の魔力に果てはない。カイトの魔力は勝利に必要な分まで自動的に上昇し、やがてその力は魔王すらも圧倒する。

「魔王よ、お前は確かに強かった。だけど、それは間違った強さだ。他人を苦しめるだけの強さだ。そんなものは、あっちゃいけないんだ!」

 裂帛の気合を込めて、カイトは手にしていた聖剣を振り抜いた。

 黒い血飛沫が頬に掛かる。

 それは勝利を告げる決定的な一撃であり、魔王はついに崩れ落ちた。

 どさりという乾いた音。

(少し、汗掻いちゃったな)

 余韻の吐息を零しながら、カイトは額に滲んでいた汗をぬぐい、周囲を見渡した。

 魔王の側近たちは皆始末した。仲間たちは重傷だが命に別状はない。回復魔法一つで全部元通りだ。

 完全勝利である。

 ただ、その事に大した悦びはなかった。

 まあ、当然の結果なのだから、それこそ当然ではあるが……。

「お父様!」

 不意に、魔王の影から声がした。

 カイトがそこに視線を向けると、その影から額に角を生やした魔族が現れる。

 愛らしい容姿をした幼子。

「魔王の子供!?」

 女騎士が驚愕に目を見開く。

「に、逃げるんだ……」

 まだ息があったのか、瀕死の魔王が言った。

 そんな彼を庇うように、幼子はカイトたちの前に立ち、両手を広げ叫ぶ。

「お父様を殺さないで!」

 涙で頬を濡らしながら、真っ直ぐにカイトたちを見据えて――そこには決死の覚悟があった。

 少なくとも、それはカイトの決意を削ぐには十分すぎるもので、

「――マジックドレイン」

 左手を魔王につきだして、カイトはある魔法を行使した。

「お前の魔力は僕が奪った。お前はもう魔王じゃない。魔王は、死んだ」

 そう言って、カイトは仲間たちに視線を戻す。

「……君は甘いな」

 と、女騎士が言った。

「でも、それでいいのかもしれないわね。それがなんていうか、あんたのいいところなわけだし?」

 つっけんどんな態度で、魔術師がフォローをする。

 そして歴戦の戦士は、自身が手にしていた斧についた返り血を見て、

「儂も、それで構わんよ。これ以上、血が流れるのは、さすがに御免だしな」

 重みのある言葉で、そう言った。

「ありがとう」

 仲間たちに感謝しつつ、カイトは魔王の娘の頭を撫でる。

 娘は微かに頬を赤らめて、恥ずかしそうに俯いた。

 そんな彼女に小さく微笑んでから、カイトは魔王に視線を戻し、

「次はないからな。だから、これからは親子二人で静かに暮らすんだぞ?」

 魔王にちょっとだけ回復魔法を使ってから、二人に背を向けた。

「……さあ、帰ろう。王都に」


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