01 賛美の世界
カイト・インフィニティは転生者だ。
日本という国で、高校一年生の時に命を落とし、この世界に転生した。
もう四年前の事だ。
生前の自分そっくりの新しい身体を手に入れた当初は、当然のように無名の誰かだった彼だが、今彼の名前を知らないものはこの国には一人もいなかった。
窮地の大国を救う英雄。漆黒の剣聖。万物の支配者。
多くの異称と栄誉が、彼の手にはあった。
もちろん、その栄光の中には女という名の小物もあって、
「カイト様、今日は私の為に時間を割いてくれるのでしょう?」
「カイト、あたしの買い物に付き合ってくれるっていったよね?」
「新しい下着が欲しいと思っているのだが、カイトは私にどんな下着を着せてみたい? 今日に限っては、全ての要望に応えてもいいんだが」
この国の姫に、天才魔術師、そして妖艶な女騎士が、彼の虜だった。
誰もが羨む美少女たちが、自分に心酔している。
それはとても光栄なことだ。でも、だからこそ、誰か一人を選ぶことがカイトには出来なかった。
誰かが悲しむ姿を、見たくなかったのだ。
「心配しなくても約束は守るよ。なに、今日という時間だって、僕にとっては限られたものじゃないわけだしね」
まあ、神様がくれた力だけど、と自嘲しつつ、カイトは涼しげな口調で言う。
その話を聞いていた宮廷魔術師の筆頭が、
「時間の操作か。あいも変わらず凄まじいですな。カイト殿は」
と、眩しいものを見るように、そんな事を呟いていた。
王宮の中庭での一幕である。
貴族たちに開かれたその場にいる誰もが、カイトを注目していた。
いつもの事だ。
ただ、今日だけはなにか、違和感のようなものがあったのだが、それがなんなのかはわからなかった。
まあ、気にするような事でもないだろう。
仮になにが起きたとしても、自分の力があれば問題なんてきっとすぐに片付くのだから。