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チート野郎は死に腐れ!  作者: 雪ノ雪
11/13

10 罅割れた万能

 祝勝会が終わったところで、カイトは王に呼び出された。

 王は神妙な表情で、

「すまないが、結婚の件はなかったことにしてくれ」

 と、言った。

「いや、さすがに独断が過ぎたと思ってな。反対意見が出るのも当然だろうに、少々、勝利の余韻に浸り過ぎていたようだ」

「はぁ……」

 間の抜けた声をもらしながら、カイトは妙な不安を覚えていた。

 別段、結婚の話が流れたのはどうでもいいのだが、突然風向きが変わったような印象が、やや不自然に感じられたからだ。

(……まあ、そう気にする事でもないか)

 いざとなれば、魔法で片付ければいい。

 自分には力があるのだから。

「……ところで、魔王の娘を逃がしたという話だが。そこにはどういう意図があったのだ?」

「は?」

 思わぬ質問に、カイトは間の抜けた声を漏らした。

 そんな彼に、王はやや険しい視線を向けて言う。

「始末するべき対象を逃したのだ。私が納得できるだけの正当な理由が、当然あるのだろう?」

「そ、それは、ええと……」

「まさか、気紛れだなどとは言うまいな?」

 敵意にすら似た強い気配が、王の身体から滲みだした。

 それを察知した瞬間、

「スリープ!」

 と、カイトは魔法を王に向かって放っていた。

 殆ど反射的な行為だったが、多分これ以上ない最善手だ。

 おかげで、精神的な負担はひとまず消えてくれた。消えてくれたが。

「なんだっていうんだ。どうして、今更そんな話――」

「貴方のためのご都合主義が消えたからだよ」

 突然、背後から声が響いた。

 カイトは驚愕と共に振り返り、真っ白な青年を目視した。

 それと同時に、あの虹色の髪の女の事を思い出す。

(こいつ、あの女と同類か!)

 得体の知れない存在。

 関わってはいけないと魂の深い部分が叫んでいたが、逃げるという選択は残念ながら浮かんでこなかった。或いは、それが無駄だということまで理解してしまっていたからだろう。

「……一体、何を言っているのか、僕にはわからないな」

「貴方の神は死んだ。もう、貴方に味方する流れはこない。……清算の時が来たんだよ。まあ、貴方が真に英雄だったのなら、それは些末な事なんだろうけれど――」

「インフィニティ・フレア!」

 言葉の途中で、カイトは自身が瞬間的に用意出来る最大威力の魔法を叩き込んだ。

 傍らに王が倒れている事などまったく眼中になく、この部屋どころか王宮そのもの消し飛ばす勢いで、立て続けに風の大魔法を解き放つ。

 だが、それらの魔法は発生と同時に、役目を放棄するように消えてしまった。

(こ、こいつ、まさか、僕と同レベルの力をもっているのか?)

 或いはそれ以上の力をもっているのかもしれない。

 この世界に来て初めて、カイトは敗北を意識した。生前は嫌というほどに味わった苦痛だ。

(……冗談じゃないぞ。負けるなんて、そんな事、僕にはもう無縁なんだから!)

 全てが上手くいくのだ。

 ここはそういう世界なのだ。妄想が現実になったような、夢に溢れた最高の――

「耳を、よく澄ましてみるといいよ」

 心を見透かすよう青年は言った。

 そして、徐々にその姿を薄めていき、程なくしてカイトの視界から完全に消え失せる。

(……逃げたのか?)

 周囲の警戒を強めるが、青年の気配はもうどこにも存在していなかった。

 代わりに、鋭敏に張り巡らせた五感が、周囲の言葉を拾ってくる。

『魔王の子供を逃がした』

『あげく、クルーゼに罪を着せようとした』

『暴力に訴えられると危険。暗殺を検討するべきか』

 不穏な内容の数々が、王宮内にははびこっていた。

 つい先ほどまでは、まったくそんな匂いはなかったというのにだ。

(……いや、問題はない)

 いざとなれば、全員に催眠をかけてしまえばいいのだ。

 この程度の窮地はなんとでもなる。

 まずは、王を味方にして、それから周囲を黙らせていけばいい。

 カイトは昏倒している王に、支配の魔法を施そうと右手を伸ばし、

「――っ!?」

 左側面から聞こえてきた風切り音に反応して、咄嗟に後方に跳び退いた。

 直後、カイトのいた場所に冷たい刃が走る。

「……空間を操作する魔法なんて、君にはなかった筈だけどね」

 眼を細め、カイトは襲撃者を見据えた。

 クルーゼ・レイハーレ。自分が殺したはずの男が、五メートルほどの位置に佇んでいる。

 切り落とした右腕はない。出血も止まっていない。

 あれからかなりの時間がたった筈だが、クルーゼの様子はまるで漆黒の炎に焼かれる寸前のようだった。

(そもそも、どうしてこいつが生きているんだ?)

 疑問は恐怖を連れてくる。

 だが、そんなものは目の前の雑魚には不相応な感情だ。

 むしろ、あの不気味な青年がいなくなった時点で、カイトの不安要素はもう消えている筈。

「……なんだっていいか。もう一度殺せばそれで済む話だしね」

 不安や悪い予感を全部脇に置いて、カイトは腰の剣を抜く。

 それに合わせるようにクルーゼも剣を構え直し――負ける要素などどこにもないはずの、戦いの火蓋はきられた。



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