プロローグ/不正の証拠
「大変すまなかった。これは私の不注意だ。不注意で、君の命を奪う形になってしまった」
と、ダインストという名の神が言った。
「頭を上げてください。誰にだって間違いはありますよ」
向かい合っていた制服姿の少年が、少し困ったような顔で言葉を返す。
「そう言ってくれると助かる」
「でも、俺、これからどうなるんですか?」
「もちろん、責任は私が取る。君には私の世界に転生してもらうことになるだろう」
自身の胸に右手を押し当てて、ダインストは言った。
「転生ですか?」
「あぁ。そうだ。私の世界だからな、多少の融通は利く。なにか要望はあるかね?」
「……そうですね。とりあえず、あまり苦労はしたくないかな」
少し迷った素振りを見せてから、少年はおどけるように言った。
「はは、それは確かにそうだろうな。わかった。そのあたりを優先して反映させよう」
「ありがとうございます。……あ、そうだ、その世界って魔法とかあるんですか?」
「気になるのかね?」
「まあ、そうですね。ないといえば嘘になります」
頬を軽く人差し指で掻きながら、少年は恥ずかしそうに肯定する。
すると神は可笑しそうに笑って言った。
「……君は全属性の魔法が使える。魔力も無限だ。存分に、魔法という力を愉しむといい。そうしてくれるのが、私の罪滅ぼしにもなるだろうからね」
そうして、少年の新しい世界での手続きは実行されて――
――ぷつん、と音を立てて、その映像は途切れた。
「全属性の魔法に、無限の魔力ねぇ」
虹色の髪という、この上ない特徴をもった彼女が、その端整極まりない容貌を歪めて微笑む。
「前者は問題ないよ。システム的にはね」
「けど、後者は完全にアウトだよなぁ? トア?」
「そうなるね。つまり、仕事の時間だ」
隣に並んでいたトアと呼ばれた彼は、小さくため息をつきながらそう答えて、
「くふ、ふふ、ぐ、ぐふふ、ふふふふふ!」
という、相棒の狂気じみた笑い声を聞きながら「……ほどほどにね」と呟いた。