4:狂乱の出会い
前回のあらすじ:主人公がホモで犯罪者になった。
「ハハハハハハッ! 走れ走れぇ! ドラゴン目指して突っ走れぇえええ!!!」
『ブルルヒィーーーンッ!』
武器屋に忍び込んで最高級の剣を手にしたオレは、馬に跨って夜の森を疾走していた。
街から逃亡する途中、馬車屋からパクってきた立派な黒馬だ。よく言うことを聞いてくれるいい子である。
「武器屋と馬車屋には悪いことをしちまったが、オレがアーサーと共に伝説になれば問題ねぇよなぁ! 英雄御用達の店として大繁盛するだろうからよぉ!
そうだよなぁ、ウマゴロ-ッ!?」
『ヒヒヒィン……』
……どうやら名前が気に食わないらしい。カッコいい名前だと思うんだが、どうやらコイツはセンスが悪いようだ。
そうしてオレがウマゴローと共に、木々の間を走り抜けていた――その時。
「――大人しくしやがれぇッ! 『魔族』のメスガキがァッ!」
怒気を孕んだ男の叫びが、夜の森に響き渡った。
「っ、なんだなんだぁ?」
耳をすませば茂みの向こうから、複数人の怒鳴り声が聞こえてくるではないか。
一旦ウマゴローを止めて降り、そちらのほうにそっと近づいてみると……、
「ぎゃあああああ辱められるぅううううううう! そして攫われて調教されて無理やりお嫁さんにさせられるぅうううう!!!」
「ってしねぇよ! 殺すんだよ! 何ちゃっかり生き残ろうとしてんだよテメェ!」
――なんとそこでは、鎧の男たちが一人の少女に暴行を働こうとしていたのだ……!
おいおいおい冗談じゃねぇぞ!? 英雄を目指す男として、こんなの放っておけるか!
「やめろー! このロリコン共がッ!」
「ってロリコンじゃねぇし!? てか誰だオラァッ!?」
五人ほどの男が一斉に振り向いた。木の根元にしゃがみ込んでいた少女も、きょとんとした顔でオレを見る。
ふむ……金色の髪に生意気そうな赤い瞳をしているが、まだまだ十にも満たないほどの幼子じゃないか。服装のほうもボロ布を纏っているくらいだ。
「……オレの名はランス。いつかは相棒のアーサーと共に、英雄になろうと(勝手に)約束した男だ。
そっちの事情は知らねぇが、そんな子供を嬲ろうなんざ男として見過ごせねぇな」
背負っていた長剣を引き抜くと、暴漢たちの顔にも緊張が走る。
そうしていざ、斬りかかろうとしていると――
「ちょっ……ちょい待てよアンタッ!? そこのメスガキの口元をよーく見てみろ! ちっちぇ牙が生えてんだろ!?」
「なに?」
……確かに彼女の口からは、小さな牙が覗いていた。困惑するオレに男の一人が言葉を続ける。
「騙されんなよ……人間みたいな姿をしているが、そいつは『魔族』だ。魔物たちを生み出す力を持った、人類の天敵ってわけさ……!」
「っ、『魔族』だと……!?」
実際に見たことはないが、冒険者として話だけなら知っている。
動物などに自身の血を飲ませることで、凶悪な存在である魔物に変えてしまうという恐るべき存在のことだ。
太古の昔、多くの猿はゴブリンに、豚はオークに、犬はコボルトに変異させられ、今や大陸中で暴虐と繁殖を繰り返している始末である。
「――そんで俺たちは、国から『魔族』の探索と討伐を命じられている放浪騎士様たちってわけさ。
わかったんならどっかいけよ、兄ちゃん。コイツらは生きてるだけで罪なんだよ」
「あ、ああ……」
そういう事情となれば、確かに引き下がるしかない。可哀想だがこれも運命だ。
クズはクズらしく生きるしかないように、人類の敵である『魔族』は死ぬしかないのだ。
……オレは最後に、金髪の少女をちらりと見た。
「ちょっ、助けてくれないんですかッ!? ねぇちょっと!?」
「ははははは! 諦めろよメスガキッ! 人間様が支配するこの世界に、テメェらゴミの居場所なんてねーんだよ!」
「そんな……っ!」
……仕方がない。仕方がないのだ。邪魔者は廃絶されるのが世の真理なのだから。
かくして、騎士の一人が剣を振り上げ、少女の命を散らさんとした――その刹那、
「死にたくない……死にたくないよぉッ! わたしまだ、生まれてから何も成し遂げてないのに――ッ!」
ああ――もう限界だ。
「なぁ騎士様、ちょっとこっち向いてくれよ」
「あん?」
そして――オレは振り向いた男の顔を、全力全開で殴り抜いた。
「ぐぎぃいいいいいいいいいッ!?」
大量の鼻血を撒き散らしながら、騎士の男が吹き飛んでいく。
さらにオレは止まることなく、呆けている仲間の騎士の横っ面へと回し蹴りを決め込んで昏倒させる。
「なっ、何してやがんだよテメェッ!?」
「そいつは『魔族』だぞ! 人類の敵だぞッ!」
「貴様ぁ……反逆罪でブチ殺してやる!」
残った連中が喚き散らすが、そんな御託に貸してやるような耳はねぇ。
そうだよ、思い出せ。オレはアーサーの隣りに立てる男を目指すと決めただろう? あの素晴らしい少年に恥じないパートナーでありたいと誓ったじゃないか……!
「なぁ、オレは間違ってないよなぁアーサーッ!? 『魔族』とはいえ、こんな子供が殺されるのを放っておくことなんて出来ないよなぁッ!?」
そう問いかけるオレに――『彼』は力強く言い放った!
『うん、そうだよランスさん! それでこその英雄だッ! ああ、まさに貴方こそがボクのパートナーだ!!!』
「ヨッシャァアアアアアアアアアアアッ! そうだよなそうだよなそうだよなァァアアア!? オレこそが正義だよなぁ、アーーーーーサーーーーーーーッ!!!」
尊敬する男に認められ、オレのテンションはもう上がり過ぎて止まらないッ!
筋繊維が千切れるほどに全身に力がみなぎり、握りしめた長剣の柄がメキメキと悲鳴を上げていく。
「なんだこいつ……誰と話してんだよ……アーサーって誰だよ……!?」
「なっ、なんかやべぇよ! 早く殺しちまおうぜッ!」
有象無象の『悪者』たちがオレの周りを取り囲む。昔のオレだったらそれだけで腰を抜かしちまってただろうが、あぁ……今はまったく怖くねぇぞアーサーッ!
「見ててくれよ、オレの勇者よッ! オレが正義を成し遂げるところをよォォォオオオオオオオッ!!!!」
そしてオレは地を蹴り砕きながら、男たちに向かって一気に飛び掛かって行ったのだった――!
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