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最終回~【朗報】:英雄を目指して無双してたら、なぜか『魔王』になっていた件~



「おにーーーーーーさーーーーーーんっ! よかった、よかったよぉ……てっきり死んじゃうかと思いましたよぉ……!」


「はははっ、安心しろよエレイン。ドラゴンのくれた再生力のおかげでどうにかこうにか生きてるからよ。

 ……まぁそれももう切れちまったんだけどな。というわけで今から失血死するから、じゃあな」


「ってじゃあなじゃないですよぉおおおお!? お兄さん死なないでーーーーーー!!!」


 ――アーサーとの決着後は大騒ぎだった。

 歓声を上げながら駆け寄ってきた仲間たちだが、オレの再生力が完全に切れていることがわかると大絶叫。すぐさま全身を包帯でぐるぐる巻きにされ、口の中に敵兵の心臓を無理やりブチ込まれたのだった。「それで早く血を作ってください!」とのことだ。


(うーん……こいつらはオレのことを何だと思ってるんだろうか?)


 これでも普通の人間なんだぞ? と視線だけで抗議しながらモグモグゴックンしてると、モルガンが高笑いを上げながら話しかけてきた。


「ふっーはっは! よくやったぞ、マスターよッ! あのアーサーという鬼畜ショタからは、かつて魔族を壊滅寸前にまで追いやってくれた『勇者』の奴と同じ匂いがしていたからなぁ。よくぞ退治してくれたと褒めてつかわすッ! 光栄に思うがいい!」


 ってアァッ!?


「大人に向かってなんだその口の利き方はッ! 食らえメスガキ、ゲンコツ制裁ッッッ!」


「ギャーッ!?」


 なんかウザくてムカついたので、教育としてモルガンの頭をボコンとどつく。

 するとどうだろう。しばらく頭を抱えながらウゥウゥうなっていたかと思うと、途端に以前の無垢な表情に戻ったではないか。


「う~ん……あ、マスターだぁ! あのね、モルガン夢をみてたんだよっ! 実はえらーい『まおーさま』で、むかしはニンゲンたちとたたかってたの!」


「そうかそうかすごいなぁ。ちなみにモルガン、1+1は?」


「じゅういち~!」


 よしよし、ちゃんと良い子だった頃のモルガンに戻ってるみたいで何よりだ。……ついでに頭のほうもアホの子に戻っちまってるみたいだけどな。どうやらさっきまでの態度は、起きながら寝ぼけていたせいらしい。


「でもモルガン、みんな仲良しな今のほうが幸せだよっ! ねーエレインおねえさまー!」


「むむっ、まぁ認めてあげなくもないですね……! 魔物たちもニンゲンとの生活をすっかり気に入っているようですし」 


『ギギャー! ギギャー!(先日、一般の女性と結婚しました!)』


 まっ、何はともあれよかったよかった。

 戦いには勝てたし、モルガンは元に戻ったし、ついでに心臓を食べたおかげでオレの身体も元気になってきたしで、みんなすっかりお祝いムードだ。

 魔族の少女たちがはしゃぎ、魔物たちは騒ぎ、人間の兵士たちは笑い、ついでに賄賂を受け取った衛兵はオレのことをなんか必死で褒めたたえていた。


「いやーマジすごかったっすよランス様! マジリスペクトっすよ! 心臓で超振動を起こして地盤をえぐったあたりとかホント身体が震えちゃうくらいに感動しましたよ~!

 よッ、人類最強! 我らが王様! やると言ったらやる男ッ! 街ですれ違っても目を合わせちゃいけないタイプの人ッ!」


 おいおい照れるぜ。そんなに褒められたら優しくするしかなくなるだろうが!


「ありがとうな衛兵! 処刑が終わったら、お前の遺体は国葬にしてやるからなっ!」


「ってえええええッッッ!? もう処刑するか否かじゃなくて、どう葬るかの段階なんですかッ!? じょ、冗談っすよね!?」


「ははははは」


「ってちょっとぉ!?」


 涙目になる衛兵に、『ギギャーギギャー!(死肉はちゃんと食べてやるからな!)』とフレンドリーに励ます魔物たち。うんうん、これからもこの調子で仲良くしていってくれると嬉しい限りだ。

 こうして仲間たちの元気な姿を見ていると、つくづく思う。オレがやってきたことは決して無駄じゃなかったと。


 多くの血を流し、多くのモノを壊してきたが、それだけ救えた命があった。たくさんの幸せを与えることが出来た。


 ああ、それもこれも全部――



「……お前のおかげだよ、アーサー」



 そうしてオレは、ドラゴンの死骸に背を預けた少年へと感謝を告げた。

 その声に反応し、傷だらけの彼の身体がわずかに動く。


「っ……ランス、さん……」


 息も絶え絶えという様子だが、それでも生きていることには変わりなかった。

 仲間たちが顔を青くし、とっさにオレの後ろに隠れる。


「うぎゃーッ!? 魔族絶対殺すマンがしゃべったー!? お兄さん助けてくださいっ!」

「あいつ怖い!!! モルガンおしっこ漏れた!!!」

「ひえっ、やべー奴2号が再起動した!? 処刑される前に殺される!!!」

『ギギャァ! ギギャァッ!!!(うわぁバケモノだ逃げろォォオオ!!!)』


 お、お前らどんだけアーサーに対してビビってんだよ……! あと衛兵、やべー奴1号は誰なんだ?


 何とも頼りがいのある仲間たちに溜め息を吐くと、オレはアーサーへと語りかける。


「よぉ復讐鬼、これがオレの得てきたモノだ。お前という存在を見誤り、お前に勝手に憧れて、そうして突き進み続けた果てに……気付いたらこんなにたくさんの絆を紡いでいたよ。皮肉な話があったもんだろう?」


「……」


 唇を閉ざしたまま、険しい表情を浮かべるアーサー。

 やがて彼は精いっぱいの殺意を視線に込めると、硬い声で応え返す。 


「……それで、何だっていうんだい? まさか僕も、魔族や魔物の軍勢なんかに加われと? 復讐することをやめろと!? それだけは絶対に――、」


「いいやアーサー、お前は殺すさ。復讐鬼のまま絶対に殺してやる。

 ――だってお前はもう止まれないだろう? 復讐することをやめた瞬間、お前はそんな自分が許せずに、自分自身を殺してしまうはずだ」


「っ……!」


 図星を突かれ、アーサーは再び押し黙る。


(腹を割ってぶつかり合い、脳みそを絡ませ合った仲だ。それくらいわかるに決まってるだろうが……)


 もはや彼の魂は、復讐心一色に染め上がっていた。魔の存在を殺戮することに依存していると言ってもいい。

 

「現にお前は、戦いの中でこう言っていただろう?

『魔物たちが憎い、魔族たちが憎い、そして奴らから故郷を守れなかった自分自身が一番憎い。だから僕が殺すんだ。憎いモノ全部をこの世界から消し去ってやるんだ』――と。

 たとえ復讐を果たしたとしても、どのみちお前は死ぬつもりだったはずだ」


「それ、は……」


「っ――ふざけんじゃねぇぞ、アーサーッ!」


 大人として、先輩として、そして何よりも宿敵ともとして、そんな寂しい終わらせ方をさせて堪るか!

 オレは拳を握り締めると、アーサーに向かって差し向けた。


「ラ、ランス、さん……?」


「このまま一人で逝かせたりなんてしない……! さぁ、息があるんならやろうぜアーサー。お前の復讐心を、全部全部オレの中に吐き出していけッ! 最期の瞬間まで……オレがお前の側にいてやる!」

 

 オレの言葉に、アーサーの瞳が激しく揺れた。感極まったようにうるみ、震え、細まり――そして最後には殺意の炎に燃え上がる。

 そうだ、それでいいんだよアーサー! 諦めるな、くじけるな、決めたんだったら貫いてみせろッ! 全てが終わる瞬間まで、雄々しく理想に生きてみせろッ!!!

 

「はははっ……そっか、僕の全部を受け止めてくれるんだね……怒りを、憎しみを、殺意を、努力を、全部全部アナタにブチ込んでもいいんだね……!

 だったら――見せてやるよォォォオオオオ!!! 僕の全力をォォォオオオオッッッ!!!」


「そうだァァアアアア!!! 燃え上がれっ、アーーーーーーーーーサーーーーーーーーーッッッ!!!」


「ランスーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!」


 天に轟くオレとアーサーの大咆哮――! その瞬間、カムランの丘に最後の奇跡が巻き起こる。

 アーサーの身体が無数の肉片となって爆散し、ドラゴンの死骸にまとわりつき始めたのだ。

 血霧に染まって赤くなりゆく竜の巨体――その頭部までもが少年の血に侵された時、禁忌の存在が爆誕を果たす!


『グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――――――ッッッ!!!』


 死したはずのドラゴンが、赤く染まった翼を広げて高らかに咆哮を上げたのだ……!


「ぁ、アーーーーーサーーーーーーー!? アーサーなのかぁぁぁぁああああああああッ!?」


『グォオオオオオオオオオ!!!』


 オレの叫びに応えるようにいななくと、再生を果たした二つの瞳で鋭く睨み付けてきた。 

 ああ……その殺意、間違いないッ! こいつはアーサーだ!!! お前ドラゴンになっちゃったのかーーーーー!?


 カムランの丘に誕生した最強究極超絶の魔物、≪アーサー:モード・レッドドラゴン≫。

 どこまでもたくましく、どこまでも男らしく、ビキビキと血管が浮き出るほどに赤く怒張したその姿は、まさにアーサーの魂を具現化したかのようだった。

 感涙しながら転生した彼を見上げるオレだが、エレインはなぜかドン引き顔をする。


「う、うわぁ……身体に残ったなけなしの再生能力で、ドラゴンと細胞を結合させたってことですかね……? そんな馬鹿な……」


「いいや、アーサーならそれくらいやるッ! だってアイツはオレの始まりなんだから!!!」


「あっ、それなら納得ですね! 嫌というほど納得ですね!!!」


 理解が得られたようで何よりだ。オレは感動の涙を拭うと、アーサーの双眸を真っ直ぐに見据えた。


(なぁアーサー……オレたちの心は結局、一度も交わることはなかったな)


 所詮、オレとアーサーは身体だけの関係だ。

 魔物たちや魔族ですらも導ける英雄になろうと誓ったオレに対し、彼はあくまでも復讐鬼であり続けた。どれだけ拳をぶつけ合っても、想いが重なることはなかった。


 でも、悲しみなんてありはしない。むしろ敵として巡り合えた運命に感謝しているくらいだ。

 彼に与えられた激しい痛みは、彼の真っ直ぐで苛烈な殺意は、永遠に忘れられない記憶としてオレの魂に刻み付けられたのだから。

 それに、


『さぁ、ランスさん。今度こそ現実のアーサーを――ボクのお父さんを終わらせてあげよう』


(ああ、そうだなアーサー!)


 オレの中には、アーサーと交わることで産まれた理想のアーサーが息づいている……! もうそれだけで十分だ!


 オレは両手を広げると、震えているエレインとモルガンの頭をくしゃくしゃと撫でた。


「うわっ、お兄さんっ!?」


「マスター!?」


「おーら、なにビビってんだよメスガキ共! 最強の人間が人間を辞めてまで挑みにきてるんだから、お前たちも魔族としてシャキっとしろ。

 ……英雄として……いや、アルビオン帝国を統べる『魔王』として命令だ! お前たちの力をオレに貸してくれッ!」


 オレの言葉に一瞬ぽかんとする少女たち。しかし、それも束の間。彼女たちはニっと笑うと、オレの両脇に寄り添ってきた。


「ふふふっ、そうですね。いっちょ見せてやりましょうか、わたしたちの絆の力を! ねぇモルガンさん?」


「うんっ! ビチャビチャのパンツも貸してあげる!」


「ははは、それはいらん」


 オレも朗らかに笑いながら、魔族の二人と手を握り合う。

 それだけではない。彼女たちの空いた手を人間の兵士たちが握り、さらに彼らの手を魔物たちが握って、横繋がりとなりアーサーと対峙する。

 今こそ、超越の時は来た――ッ!


「さぁお前たち、これが最終決戦だッ! どうかこのオレに、お前たちの全部をブチ込んでくれぇぇぇえええ!!!」


『おうッッッ!!!』


 天に木霊こだます仲間たちの声。かくしてここに、真なる奇跡が巻き起こる――!


「お兄さんに出会えてわたしは幸せでした! だからわたしたちの全部を、貴方に託しますッ!」「モルガンもーっ!」


 次の瞬間、灼熱の極光がカムランの丘を染め上げた。エレインとモルガンの膨大な魔力が、オレの細胞を燃え上がるほどに超活性させたのだ。

 さらに――!


「ランス様ッ! スラムで腐って死ぬはずだった俺たちに、アンタは光を与えてくれた! アンタこそが俺たちの運命の人だァ!!!」


 力を合わせて大革命を巻き起こしたスラム出身の兵士たちから、感謝の念と共に強烈なる気力がブチ込まれてきた。

 それはオレの精神を震え上がらせ、膨大なる魔力に耐え切れずに燃え尽きるはずだった命を、永遠の領域へと押し上げていくッ!

 そして――!


『ギギャギャギャギャーーーーーー!!!(ランスの旦那ーーー! 絶対に勝って、全世界の魔物たちに教えてあげやしょうッ! 人間とだって手を取り合い、共に生きていくことが出来るんだって!)』


「生きたい生きたい生きたい生きたい生きたいッッッ!!!」


 魔物たちの希望と衛兵の必死な願いが、オレの魂を覚醒させるッ! 守るべき仲間たちの存在が、人知を超えた力への渇望となっていく!

 ああ、お前たち! どうかオレに導かせてくれッ! お前たちの未来を、夢を、理想を、想いを、どうかオレへと託してくれぇぇええええ!!!


「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――――ッッッ!!!」


 灼熱に燃える光の中で、オレは進化を遂げていく。

 それは脱皮、それは超越、それは変貌、あるいは堕天――! もう倫理も禁忌もどうだっていいッ!

 最高の仲間たちを守り抜き、最高の宿敵と対峙するにふさわしき姿へと、オレは転生を遂げるのだッ!


『グガァァアアアアアアアアアアアアアア!!!』


 響き渡りし殺意の咆哮。赤き翼を天に広げて、ついにアーサーがオレに向かって突撃してきた。

 まともに当たればお終いだ。一瞬にして亜音速に達した超質量の巨体に、壊せない物なんて何もないだろう。


 だがしかし――ッ!


「――その程度で死ぬかよオラァァァァアアアアアアアアア!!!」


 眼前へと迫る竜の顔面を、オレは右ストレートで殴り飛ばしたッ!

 絶叫を上げ、きりもみ状態になりながら吹き飛んでいくアーサーの巨体。オレはそれを見ながら、『黒翼』をはためかせて身体から吹き上がっていた炎を振り払った。


 火の粉の残滓と黒き羽毛が散りゆく中、隣に立っていたエレインが目を丸くして問いかけてくる。


「っ……赤と黄金の瞳に、それに翼ですって!? お……お兄さん、なんですよね!? その姿は一体……っ!?」


「落ち着けよエレイン。……どうやら、いよいよ人間を辞めることになっちまったらしい」


 淡く輝く紋様が浮かんだ手で、彼女の頭をそっと撫でた。

 ああ――感覚以上に、魂でわかる。今やオレは、人間を超えた存在に至ってしまったことに。


(はは……っ! モルガンの魔力を借り受けて、無理やり細胞を活性化させていた時の比じゃないな)


 透き通るほどに肌は白く純化され、灰色の長髪は今や鮮やかな銀色に。さらに背中からは十二枚もの黒翼が生え、頭上には闇色に輝く『光の輪』が浮かび上がっていた。

 聖性と魔が合わさった様は、まさに人間と魔族たちの想いが重なり合った結果だろう。気が付けばよそおいすらもが一新されており、ウェディングドレスがごとき緻密な意匠の凝られたローブを身に纏っていた。


 この姿こそ、人を超え、魔を超越し、理想の果てへと至った証である。

 オレは高らかに翼を広げ、唸るアーサーへとえ叫ぶ。


「アーーーーーーーーーーーーサーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!! これこそが、人と魔性の願いと希望が込められた理想の姿だ!!! どうか見てくれっ、そしてその肌で感じてくれッ! みんなに祝福されて得た、お前を殺すにふさわしき力をッ!!!」


『グウウウウウゥゥガァアアアアアアアアアアアア!!!』


 獣欲に染まった瞳を輝かせ、アーサーが再び襲い掛かってくる。先ほど以上の速度と殺意で飛翔する彼に、オレもまた空を駆け抜けぶつかっていく――!


「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!」


 ――そして、終わりの時が始まった。


 もはや小細工など必要ない。人知を超えた神速の領域で、オレの魔拳が唸りを上げてアーサーを穿うがち、彼の竜爪がオレの身体を切り裂いていく。それでもオレたちは一切怯まず、互いの命をぶつけ合った。

 刹那の内に行われる、億、兆、京、涯、無量大数の死の交差。光すらも上回る速さで行われる殺し合いにより次元が乱れ、限界を超えた闘気と殺意の粒子熱量エントロピーによって、ついに惑星が暴走を開始した。大陸崩壊クラスの大地震と津波と噴火と台風が全世界に巻き起こり、幾億万の文明と生態系が大崩壊を巻き起こしていく! それでもオレたちは止まらないッッッ!!!


「アーーーーーーーーーーーーーーーーーサーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!!!」


『ガァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーッッッ!!!!』


 オレとアーサーの魂の叫びが、世界全土に響き渡る!

 ここに必殺の時は来た。アーサーのアギトが大きく開くや、大気中の酸素と水素を燃やし尽くすほどの極熱の光球が出現したのだ。

 超光速の中で行われる新陳代謝によりアーサーの血液は超臨界流体と化し、血中電子は崩壊を開始。その結果、殺意と憎悪の究極地点――のちに『核分裂』と恐れられる無限破壊の輝きが、世界に誕生してしまったのである。


 もしもアレが炸裂すれば、この惑星は消し飛んでしまうことだろう。魔族も魔物もアーサー自身も、全て残さず滅ぼし尽くして。

 ――ふざけるな、そんなことはさせて堪るか! みんなの命はオレが守る!!!


「オレには……オレたちには、掴みたい明日があるんだァ――――――!!!!」


 胸に宿った熱き想いが臨界点へと達した瞬間、十二枚の黒翼が空を包み込むほどの極光に満たされた!

 超光速の中で行われる血液循環により血圧と体温は200万倍と化し、血中電子はプラズマ化・体内水素は陽子連鎖反応を開始。その結果、闘志と絆の究極地点――のちに『核融合』と謳われる無限熱量の輝きが、世界に爆誕を遂げたのだ!


 吹き荒れる放射線と高まり続ける熱光線により、ついに惑星が崩壊の危機に陥りゆく中、オレはアーサーへと宣誓する――!


「アーサー、お前の命にオレは誓うッ! 邪悪なる者を全部殺して、この世界を楽園に変えてみせるとッ!」


 ただ魔物や魔族というだけで“悪”と断じられる価値観を塗り替え、さらに血統がいいというだけで“正義”として扱われる社会制度を破壊してみせよう。

 それに加えて全ての魔物と魔族と人間を、優しい光を出す翼(※核兵器)のパワーで支配下に置き、争いのない平和な世界を創り上げるのだッ!


 ――差別と格差の完全なる根絶。そうすることで、二度とアーサーのような憎悪に狂ってしまった者が生まれなくなると信じて……!


(ああ、ただの英雄ニンゲンではそんなことは不可能だろう。ただの魔族バケモノでも絶対に無理だ)


 だけど、オレなら必ず成し遂げられる。



 ――英雄を目指した果てに、『魔王』となったオレならば……ッ!――



「これで最後だ、アーサーッ! 光の中に散り果てろォォオオオオオオッッッ!!!」


 そして訪れる決着の時。轟音を立てて放たれたオレとアーサーの極光は、熱く激しく競い合いながら膨れ上がり続け、ついに惑星全土を飲み込んでいく。

 そんな眼を焼く光の中で、オレは見た。オレの放った熱光線に押し込まれていき、徐々に溶けくアーサーの姿を。


 最期の一瞬、彼の険しい口元がふっと柔らかく弧を描き――



『次は負けないからね、ランスさん』



 ……そう呟いて、気高き勇者は光の中に消えるのだった。




 ◆ ◇ ◆




 かくして――あの決戦から1年後。



「よーしお前たち、そろそろ出航するぞー!」


『おおおおおおおお――――ッ!』


 オレを始めとしたアルビオン帝国の者たちは、別の大陸に向かうべく巨大な船に乗り込んでいた。


 あれからだが、アーサーを倒した後のペンドラゴン王国の末路は呆気なかった。世界中で起きたという超災害の影響をもろに受け、国家機能は完全に崩壊。もはや戦争どころではなくなってしまう始末だった。

 ああ、ちなみにアルビオン帝国は大丈夫だ。多くの建物が崩壊したらしいが、強靭な身体を持つ魔物たちのおかげで一晩で建て直せたらしい。

 食料のほうもアルラウネの淫行農業で無限に採れるようなものだし、彼らが男たちをスッキリさせてくれてるおかげで、治安の悪化ってのもなかったしな。


 それからはオレの指揮の下、アルビオンの魔物たちを引き連れて復興巡りだ。日夜働いてくれる魔物たちのおかげで、半年後には大陸中の街が無事に生活機能を取り戻せたのだった。

 そんな経緯があり、今やアルビオン帝国は大陸の支配者になっていた。魔物や魔族を差別するような人間ももういない。それどころか、最近では異種婚というのがブームになっているほどだ。


(うんうん、みんな仲良しでオレは嬉しいぞ!)


 天国で見てるか、オレの宿敵アーサー。オレは理想に向かってちゃんと突き進んでるぞ!

 そんな想いを翼に込めてレーザーとして空に向かって放ってると、エレインとモルガンが手をつなぎながら駆け寄ってきた。


「あっ、お兄さんってばまたオゾン層を破壊してるー!」「あははっ、きれーきれー!」


「よぉお前ら。今日も変わらず元気だな」


 コイツらとももう長い付き合いになったもんだなぁと思いながら、金髪と白髪のメスガキ共を撫でてやる。

 王様であるオレの娘的な立ち位置なので、全帝国民からはお姫様として可愛がられているのだが、本人たち的には『お妃さま』として扱ってほしいらしい。ははは、オレを犯罪者にする気か。

 

「これから数年がかりの長旅になりそうだってのに、不安はないのかよ? 別大陸の魔族共は凶悪かもしれないぞ?」


「ふふんっ、大丈夫ですよーだ! 何と言ってもわたしたちには、無敵の『魔王様』がいるんですから!」


 っておいおい、他力本願かよ。……でもいいか。誰かに信じて頼ってもらうってのは、悪い気がしないしな。

 オレは朗らかに笑いながら、エレインとモルガンをもう一度撫でた。


 ――英雄になれるのは一部の天才だけ。クズはクズらしく生きるしかない? そんなことは誰が決めた。

 今のオレには、心から慕ってくれる者たちが数えきれないくらいいる。英雄を目指して無双してたらなぜか魔王になっていたが、そんなもんは誤差だ! 英雄も魔王も、誰かを守り、導く存在であることには変わりないのだからッ!


 オレは翼を輝かせると、アルビオンの者たちに吼え叫ぶ。

 

「よく聞けお前らーーーーーーーー!!! 新大陸には、オレたちの知らないような強敵が腐るほどいるだろうッ! ここから先は地獄の旅路だッ! だが同時に、財宝も! 土地もッ! 名誉もッ! 勝利もッ! 手に入れる機会は山ほどあるはずだ!

 それらを余さず掴み取り、新たな時代の英雄を目指せぇぇぇえええええええ!!!」


『オオオォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――――ッッッ!!!』


 ――熱く吼えたオレの言葉に、船に乗り込んだの帝国民たちが欲望の声を叫び返した。

 オレたちが乗っているこの船こそ、巨大戦艦≪アロンダイト≫である。作り方は簡単で、まずは核融合レーザーで大陸プレートの根元を完全に切断して、あとは推進力としてオレがいれば完成だ。

 これなら国から離れる必要もないし、大陸ごと移動すればみんな船酔いすることもないだろうというオレのかしこさと優しさが炸裂した逸品である。エレインに話したら、「頭おかしいんですかッ!?」と絶叫されたが。


 まったく。そんな細かいことは気にせず、やる気満々な調子の帝国民たちを見習えっての。なぁお前たち?


「僕もいつか……ランス様みたいな王様に……っ!」「ランス様ーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!! どうか俺を見ていてくれーーーーーーーーーーー!」「邪魔者は全部殺してるぅううううううう!!!」「ハンカチよし、ティッシュよし、『超回復薬』よし! ランス様、旅の準備はオーケーです!!!」


 目をギラギラと輝かせ、ときおり幻覚と喋ったりしながら戦いの時を待つ帝国民たち。

 うんうん、みんな元気で何よりだッ! というわけで、そろそろ行くとするかぁッ!


「いくぜぇお前らッ! オレたちの戦いは、これからだァァァァァアアアアアアア!!!」


 十二枚の翼から波動が炸裂し、轟音を立てて大地が移動し始める。

 こうしてオレたちは新大陸に向かって、大陸ごと突撃していったのだった。 


(行ってくるぜ、アーサー。お前にもらった勇気を胸に、オレはどこまでも羽ばたいていく!)



 世界をオレ色に染め上げた果てに、平和な明日があると信じて――!



  


ご愛読、ありがとうございました!

どうかランスさんの勇気と愛が世界を救うとご期待ください!


また新連載も始めましたので、そちらのほうもよろしくお願いいたします!

【最弱魔剣士の成り上がり ~『敗北者』と呼ばれて死んだ俺だが、アンデットとして復活したので使い魔と共に成り上がるッ!~】https://ncode.syosetu.com/n6046ff/


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[一言] 衛兵が面白かった! ハチャメチャに面白くてきちがいでサイコーホモストーリーでした ランスがアーサー好きすぎて邪智暴虐の限りを尽くすところが最高でした こんなクレイジーな話があるんですね、すご…
[良い点] やべえ [気になる点] やべえこれ [一言] ハハハハハハハ!、!!!!!
[一言] ひ…ひっでえ物語だった…(9割褒め言葉1割マジレス……いや6:4にしとこう) よくこんなコンパクトに詰め込んだなと思わずにいられない、濃密なクレイジーサイコホモおっさんのノンストップハイス…
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