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20:終末の時



「「死ぃねぇえええええええええッッッ!!!」」


 共に背骨を剣として、オレとアーサーは熱く激しくつばぜり合った。

 回避や防御など頭にない。お互いにお互いを殺すことをだけを考えながら、筋力のリミッターを完全にぶっちぎって果たし合う──!


「憎いッ! 憎いよランスッ! 魔物たちが憎い、魔族たちが憎い、そして奴らから故郷を守れなかった自分自身が一番憎いッッッ!!!

 だから僕が殺すんだッ! 憎いモノ全部をこの世界から消し去ってやるんだァァアアアアッ!!! 文句ある奴は全員死ねぇえええええ!!!」


「文句なんてあるかよアーサーッ! お前の決意は素晴らしいッ!!! “無理だ”“狂ってる”と否定する奴は全員オレがぶっ殺してやるッ!!!

 ああ、復讐ユメに向かって頑張り続けるお前だからこそ、俺は目玉が焼けちまうくらいに憧れたんだよォォオオオッ!!!」


 限界を超えた力と力のぶつかり合いに耐えきれず、ついに大地が爆砕を果たした。その衝撃によって共に吹き飛ばされるも、だがオレたちは止まらない。宙を舞い散る地面の断片を足場とし、相手に向かって斬り込んでいく!


「ランスーーーーーーーーーーッ!」


「アーーーーサーーーーーーーッ!」


 斬撃に次ぐ斬撃の嵐。二撃、三撃と打ち合うたびに、オレたちの戦いは加速していく。

 殺意と髄液を撒き散らしながら、やがて高速の戦闘は音速の領域へと足を踏み入れていった。

 十撃、百撃、千撃、万撃──刹那の内に行われていく刃の交差はついに億撃に達し、吹き荒れる剣圧によって世界が砕け散っていく。

 背骨が壊れれば新たに引き抜き、再び激しくぶつけ合う大熱戦。その限界を超えた戦いに、オレたちの肉体は何度も何度も崩壊し、そのたびに再生を繰り返し続けた。


「「うぉぉぉぉおおおおおお――――ッッッ!!!」」


 熱き咆哮を上げると同時に、ついにお互いの身体が燃え上がり始めた。ドラゴンのもたらした再生力が、細胞の燃焼速度に追い付かなくなってきたのだ。

 だがまだだ、まだオレたちの戦いは終わらないッ! 力を、想いを、全てを出し切るその瞬間までは!!!


「死ねよランスッ! くたばれよォォオオオッ! 魔物を、魔族を、それに味方する者を全て皆殺しにして、僕は“過去”にあがなうんだァァァアアアアッ!!!」


 叫びと共に放たれた一撃により、一万本目のオレの背骨が砕け散る! その瞬間をアーサーは逃さず、オレの腹部へと容赦なく自分の背骨をねじ込んできた!


「ぐぅううううッ!?」


 血反吐が口から噴出した。いくつもの関節部が肉や内臓をえぐり削ぎ、再生力の弱り始めた肉体に致命的なダメージを与えていく――!


(っ、ははっ……流石はアーサーだ。大切な人たちを守れなかった辛い過去が、お前に力を与えているのか……)


 アーサーの背骨から伝わってくる気の狂ってしまいそうな痛み。それは、こいつ自身が感じ続けてきた後悔と自罰の念によるものかもしれない。

 そうして自分を罰し続けてきたからこそ、この少年は強いのだ。ただ流されるように生き続け、振り返るような過去を全く持っていないオレには手に入れることが出来ない強さだった。



 ああ、だけど――ッ!



「――負けて、堪るかァァァアアアッ!」


「っ……抜けない!? なんで!」


 次なる一撃を加えるために引き抜かれようとしたアーサーの背骨を、オレは『腹筋』の力で食い止める!

 目の前の少年に憧れて鍛え続けてきた、この自慢の筋肉でッ!

 死すら恐れぬ勇気の力で!!!


「悪いなアーサー、負けられねぇんだよッ! 今の俺には使命があるんだッ! 魔物を、魔族を、それに味方する者を全て守り、希望の“未来”に導くっていう役目がなァアアアアッ!!!」


 振り返るべき過去なんてオレにはない。だけど今のオレには、大切な奴らと辿り着きたい明日があるッ!

 そんな想いを手にした背骨の断片に込めて、アーサーの腹へと全力で刺し返したッ!


「っ、この程度で……!」


 当然、アーサーの腹筋はオレよりも硬い。そのたくましい筋肉に阻まれ、刃は表皮に少し抉り込む程度に終わったが――これで十分だ。

 オレは意識と同化した“理想のアーサー”へと語りかける。

 

(いくぜ、心の友よ! 現実の復讐鬼アーサーを終わらせてやるためにッ!)


『ああ、もちろん! ボクは貴方の一部だ、どこまでだって力を貸すさ! ――悪性遺伝子・強制発生ッ! 流血より暴走感染!!』


 その瞬間、変異は起きた。

 アーサーの腹部へとめり込んだオレの背骨の断片が、まるで生き物のように脈動し……そして、


「――食らえよアーサーッ! 悪性剣・無限骨肉腫インフィニット・アポトーシスッッッ!!!」


「なっ、ぐぎゃぁああああああああああああああああああッッッ!?!!?」


 手にした背骨の断片より現れたのは、『ガン』に冒されて巨大化した骨の大剣だった――! オレの流血より癌細胞を流し込むことで、強制的に武器化させたのだ。

 それはアーサーの腹部をグチャグチャに引き裂き、一瞬にして背中へと貫通。大量の鮮血と内臓の破片を荒れ果てた大地へと撒き散らした。


 だがそれでも、アーサーは決して倒れなかった。彼は血走った眼でオレを睨み付けると、血反吐と共に咆哮を上げる。

  

「よ、よくも……ランスゥウウウウウウウウッ!!!」


「アーーーーーーサーーーーーーーーーーッ!!!」


 ――そこから先は血みどろだった。互いに背骨を刺し合ったまま、何度も何度も頭と頭をぶつけ合った。熱いヘッドバットをかまし合うたびに、カムランの丘に鈍い音が響き続ける。

 ああ……もはやどれだけ肉が裂け、骨が砕け、脳みそが壊れて意識が飛んだのかわからない。だがそのたびにオレたちは再生を果たし、グチュグチュと脳みそを絡ませ合った。


「はぁ、はぁ……! 死ねよ、死ねよォ……ッ!」


「ははははははっ……お前が死ねってのッ!」


 そして繰り出される何千回目のヘッドバット。それによりオレたちは互いに背骨を手放して、ついに地面へと倒れ込んだ。

 もうこの時点で、ドラゴンの再生力は尽きかけていた。全身から血が流れだして止まらず、たちまちオレたちの周囲に赤い水たまりが出来ていく。


 それでも――目の前の宿敵をたおすまでは、死に果てるわけにはいかなかった。

 オレたちはよろよろと立ち上がると、腹に突き刺さった背骨を抜き捨て、お互いの顔を見つめ合った。



 ――どちらが生き残るにしても、次の攻撃が最後の一撃になるだろうと確信しながら。



「……ごめんね、。貴方が魔族たちとどんな絆を紡いできて、どんな日々を送ってきたのかなんて知らない。

 だけど、あえて言うよ。それがどんなに尊いモノだったとしても――勝つのは僕だッ! お前を殺して僕は全部をぶち壊すッ!」


「はははっ……それでいいんだよ。お前の意思の強さは、オレが一番よく知ってるっての。

 だけど、あえて言うぜ。それがどんなに一途なモノだったとしても――勝つのはオレだッ! お前を殺してオレは全部を守り抜くッ!」


 自然と最後に口から出たのは、最初に会った日の呼び名だった。

 ふと考えてしまう。あの日、もしもドラゴンに襲われなかったら、ごくごく普通の先輩と後輩として冒険者をやっていた未来があったかもしれないと。


 ――アーサーの意志の強さにゆっくりと影響を受けていき、オレがまともに更生する未来があったかもしれない。

 ――オレの影響で酒や女や悪い遊びを覚えちまったりして、アーサーの復讐心が少しでも薄れていくような未来があったかもしれない。


 だけど……現実はこの通りだ。

 オレとアーサーは拳を握り固め、互いに互いを殺すべく、強く強く睨み合っていた。


「いくぞ、宿敵ッ!」


「ああ、こいよ宿敵ッ!」



 かくして訪れる決着の時。オレたちは拳を振り上げると、全身全霊の力を込めて打ち放った――ッ!



「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――――――――ッッッ!!!」」


 咆哮と共に炸裂する、全てを込めた互いの鉄拳。

 それは一瞬だけ早く、オレの顔面へと先に突き刺さった。


 だがしかし――、


「負けるかァァァアアアアアアアアアッ!!!」


 英雄として、王様として、負けて堪るかふざけるなッ!

 気合と根性とちっぽけなプライドでアーサーの拳を耐えしのぐと、カウンターの一撃を彼の顔面へとブチ込む――ッ!



「なっ、がはぁぁああああああああッ――――!!?」



 絶叫と共に弾け飛ぶアーサー。勢いよく殴り飛ばされた勇者の身体は、何度も地面をバウンドしながら転がっていき……やがてドラゴンの死体にぶつかると、そのままぐったりと動かなくなるのだった。


 ここに勝者と敗北者は決まった。

 オレは拳を天へとかかげ、戦いを見守っていた衛兵や魔物たちへと告げる。



「聞くがいいお前たちッ! この戦いは……≪魔王・ランス≫の勝利だァァァアアアアアッ!」



 カムランの丘に響く勝鬨かちどきの声。それと同時に駆け寄ってくる仲間たちや魔族の少女たちを、オレは傷だらけの腕で抱き締めたのだった――。

 



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