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17:伝説の再演



 黄金色に輝く、プリップリのドラゴンの目玉。それに思いっきりかぶりついた瞬間――


「ぅ――ウマあああああああああああああいッッッ!?」


 卵の旨みを何千倍にも濃縮したようなコクが、オレの口内を蹂躙するッ! あまりの美味さに舌がとろけてなくなっちまいそうだぁ!!!

 そうしてゴクリと嚥下えんげすれば、言葉に出来ないほどの多幸感が胃袋の中に満ち溢れ、全身に力がみなぎっていった!

 ああ……こいつはまさしく栄養素の塊だ。気づけばオレは、まるで飢えた犬のようにドラゴンの目玉をむさぼっていた。


「ハムッ! ハフハフ、ハフッ!!!」


『ガギャァァアアアアアアアアアッ!?』


 オレのことを引き剥がさんとドラゴンが首を振りまくる。ああもううぜぇな! 食事中なのが見てわかんねぇのか!? 目の前で目玉食ってんだろうがバーカ!!!


「大人しくしやがれー! 脳みそパーンチ!!!」


『アギャ――ッ!?』


 拳を強く握り固めてをブン殴ると、ドラゴンはビクンビクンと痙攣して泡を吹き始めた。

 よし、大人しくなったな。これでようやく食べやすくなったぜ!


「つーわけで……いただきまーす!!!」


 そして――至福の時が始まった。

 食えば食うほど身体に力が満ち溢れていき、ゴクゴクと血を飲むほど全身の傷が回復していく。


「うまっ! うまうまっ、うま!!!」


 その効能はもちろん、何よりも素晴らしいのはやはり味だッ! 舌先からもたらされる快楽に、もはやオレは絶頂寸前だった!

 こうしてついに、目玉を完食しきった時だ。


『グッ、ガァァァアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!』


 味覚のとりこになっていたオレに対して、ドラゴンが怒りの咆哮を張り上げた。そうして最後の力を振り絞るように、必死で爪を伸ばしてきたのだが――


「悪いなドラゴン――前頭葉もーらいッ!!!」


『グギィイイイイイイイ――ッ!?』


 眼孔の奥へと身を乗り出し、灰色の器官に直接かぶりつく。

 するとドラゴンは血を吐くような絶叫を上げ、何度も何度も巨体を痙攣させて――やがて、完全に動かなくなったのだった。



 かくしてオレは、ついにドラゴンを討ち倒したのである――!

 


「やった……やったーーーーーーー! アーーーーーーーサーーーーーーッ! オレはドラゴンに勝ったぞォオオオオオッ!!!」


 勝利の雄叫びを、オレはドラゴンの頭の中で叫んだのだった。



 ◆ ◇ ◆



「――おにーーーさーーーん!」


 金色の髪を揺らしながら、エレインが丘の斜面を駆け上がってきた。

 その後ろには巨大な荷車を引いた兵士たちや魔物が続いてきており、これでドラゴンの死体を持ち帰ることが出来る。


「よぉエレイン、ドラゴン倒したぞー!」


「おおおおおっ、流石お兄さんですねー! ――ってなんかドラゴンの顔の周りが骨になってるんですけどッ!?」


「おう、美味かったぜ」


 お前も食うかと勧めると、なぜかエレインは引きつった顔で遠慮してきた。なんでだ。


「――マスターマスターっ! じゃあわたしが食べていい~!?」


「おっ、モルガン」


 えぐり取ったドラゴンの肉をエレインにぐいぐい押し付けていると、オレの影から白髪の幼女・モルガンが飛び出してきた。

 うんうん、どこかのメスガキと違って好き嫌いしないのは良いことだ。過去の記憶がまるでなかったり、それどころか1+1すら怪しかったりするレベルでアホの子だけど、基本的にいい子なんだよなーコイツは。

 というわけで、モルガンの口にドラゴン肉を突っ込んでやると――


「むぐっ、むぐむぐ……ん~? この味……なんか、どこかで食べたことあるような……」


「ってマジかよ!? どういうことだよそれ!?」


「うん……ドラゴンはよく尻尾が抜けるようモデリングされているから、それを配下たちに調理させてね……って、アレ? わたし、何を言ってるの……あれれぇ……?」


 意味不明なことを口走りながら、モルガンは小さな頭を抱えてうずくまってしまう。

 おいおい、大丈夫かよ……!? 苦しそうにするモルガンにエレインが駆け寄り、心配そうに容態をうかがう。


「ちょっ、モルガンさん大丈夫ですか!? 意識ははっきりしてますか!? 1+1は!?」


「うぅ、11……ッ!」


「お兄さんっ、モルガンさんの頭がパーです!!!」


「いや、それは元からだ」


 何が起きてるのかわからないが、とにかく急いで医者に診せよう……!

 ドラゴンの運搬作業を兵士たちに丸投げすると、オレはその辺で草を食っていたウマゴローを呼び寄せた。


「よしよしモルガン、すぐに治療院に連れて行ってやるからな……っ!」


「マ、マスター……なんで、わたしなんかのために必死になってくれるの……? 魔族である、この“私”に……」


 はぁ? 今さら何言ってんだっての。


「種族なんて関係ねぇよ。苦しんでいる子供がいたら、魔物だろうが魔族だろうが絶対に救ってみせる――それが本当の『英雄』ってもんだろうが」


「っ……ふふ、そっかぁ……!」


 そんな当たり前の答えを返すと、何故かモルガンは嬉しそうに笑うのだった。おいおい、これはいよいよどうかしちまったんじゃないのか?


 心配そうにするエレインに見つめられながら、オレはモルガンをそっと抱き上げた。

 そうしていよいよ、ウマゴローに飛び乗ろうとした……その時だ。



「あれ――貴方はまさか……ランスさん……?」


 

 聞き覚えのある少年の声が、カムランの丘に響き渡った。

 突然のことに呆然としながら、そちらのほうを見ると――



「ア……アーサー……!」

 


 ――そこには、オレがずっとずっと背中を追いかけ続けてきた英雄の姿があったのである……!



 かつて、『魔王』と『勇者』が殺し合ったという伝説の地・カムラン。そこでオレたちは、ついに再会を果たしたのだった。



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