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13:英雄の薫陶



 10万体の魔物たちを従えたアルビオン帝国は、いま一つの問題に直面していた。

 それはずばり、食糧問題だ。しばらくのあいだは野生動物を狩らせまくったりしてきたが、それもそろそろ限界が来ている。


 と、いうわけで――


「――よしエレインッ! この森一帯に、人面大樹・アルラウネの種を撒くぞ! あいつらは栄養たっぷりの果実をたくさん実らせるらしいからな!」


「え~~~!? アルラウネっていったら、土壌を荒らす植物系の魔物として有名なんですよ!?

 そんなにいっぱい撒いたら森が枯れちゃいますし、土地の栄養もすぐに吸い尽くされちゃいますよぉ!?」


「そん時はまた別の土地を荒らせばいいだろッ! そんでいくつかの土地を潰していってる間に、最初の土地が復活して無限ループが完成するんだよっ! たぶん」


「たぶんッッッ!?」


 はっはっはっはっは! さっすがオレ、頭脳派だなッ!

 ただ暴力でのし上がるだけじゃなく、自然の力までフル活用しちゃうとか、ちょっとオレってば頭良くなってきてない……!?

 そう思っていたのだが、エレインはなぜか渋顔だ。


「うーん、わたし人間をぶっ殺すのは大好きなんですけどぉ、自然環境は守っていきたいっていうかー……」


 はぁ!? 何言ってんだこのメスガキは!!!


「っ、馬鹿野郎ッッッ! 人間や魔族ごときが自然を守りたいだなんて考えるなッ! その思想は自惚うぬぼれだ!!!

 ――オレたちが自然を守っているのではない……オレたちが自然に支えられているんだァァアアアア!!!」


「ハッ!? なんかよくわからないけどすごい説得力! じゃあ土地を荒らしちゃってもオッケーなんですね!?」


「オッケーオッケーッ! というわけで種ドーンッ!」


「種どーんっ!」


 そんな感じで――アルビオン周辺の森は、地獄と化した。

 オレたちが撒き散らしたアルラウネの種は(森を食い潰して)すくすくと育ち、数日後には立派な人面大樹に育ちきったのだった。顔がキモイ!


「よーしゴブリンども寄ってこい! バイキングだぞー!」


『ギギャァ! ギギャァ!(えっ、食べ放題ってマジすか!? あざーすあざーす!)』


 太い枝からはバナナからリンゴからキャベツからジャガイモ、さらには何故か生肉まで、ありとあらゆる食べ物が超大量に狂い咲いていた。

 配下であるゴブリンやオークたちは笑顔でそれらをバクバクと食べていて、ご満悦の様子である。

 ……あと、一緒に革命を起こしたスラムの連中とかもちょくちょく食べに来ていた。根性あるなぁアイツら。


「人面大樹・アルラウネって、ああやって色んな食べ物を実らせて、誘われてきた動物とかを逆に触手で絡めとって食べちゃうんですよねぇ。

 まぁ今は魔物や人間は食べないように命令してあるんですけど。……ちょっと可哀想でしたかね?」


「うーん、たしかになぁ。木の表面の人面疽じんめんそうもちょっと泣きそうになってるし。

 土地の栄養を吸わせてるだけじゃ、あいつらもいつまで持つかわからないよなぁ……」


「そうなんですよねぇ……」


 思考力がないに等しい植物型の魔物とはいえ、一応アルビオン帝国の仲間である。オレとエレインは、ちょっとだけ彼らに対して悪いことをしてるなぁと思ったのだった。



 そんな感じで数日後。



「――ちょっとそこのゴブリンさ~んっ!? 私とパコパコチュッチュしていかなぁ~い??」


『ギギャァ!? ギギャァ!?(えっ、ヤり放題ってマジすか!? あざーすあざーす!)』


 …………えぇ?


 気づいた時にはアルラウネの人面疽は消え去り、代わりに木の根元からは可愛らしい女の子たちが生えていたのだった。

 喋られるようになった彼女たちに話を聞いてみたところ、『生き残りたいって必死で思ってたら、なんか精をしぼり取る方向に進化していた』らしい。


 ……オレとエレインは心から思った。



「「自然の力って、すげー……!」」



 滅びの運命を気合で乗り越え、淫行植物・アルラウネが爆誕した瞬間である……!



「ちなみに私、気分的にはオトコよん?」


「「えっっっ!?」」




 ◆ ◇ ◆




「――どうせ、誰が上でも変わらないよ……」



 領主の男が処刑され、代わりに“ランス”という者がボクたちの村を支配することになったらしい。

 だが、正直もうどうでもよかった。ボクたちの住んでいるところは土地が貧しく、みんな貧困にあえいでいた。特に最近では野生動物も獲れなくなってきていて、いつ餓死者が出てもおかしくはない状況にまで追い込まれていた。

 近々、例のランスとやらが視察にやってくるらしいが、何の歓迎も出来ないようなこんな村の有り様を見たら、溜め息を吐いてさっさと帰っていくことだろう。


(人をもてなす余裕なんてあるかっ! こっちは生きるのに必死なんだよぉ……!)


 “正義の革命者”だか、“魔物を自在に従える男”だが知らないが、どうせみんなから褒められて歓迎されて、イイ思いがしたいだけなんだろう!

 痛む空きっ腹を抑えながら、ボクたち村人は勝手にそう決めつけていたのだった。



 だが、しかし。



「っ――なんだこの村はッ!? 土地は枯れ果て、民衆たちもみんな飢え死に寸前じゃねぇか!!!

 領主の野郎は、一体なにをしてやがったんだよォォオオオオッ!?」



 ――ランスという男は、ボクたちを見るや本気で怒り、涙さえも流し始めたのだ。

 休憩するために立ち寄った商人などからあわれまれることや、『みすぼらしい村だ』と蔑まれることはあれど、ここまで親身になってくれる者はいなかった……!


 ああ、それだけではなく――


「オークたちよ、ありったけの食料をこの村に持ってきてやれ! ゴブリンたちは壊れている家屋などの修繕作業だ! 急げッ!」


『ギガーッ!』


 ……ランスは……ランス様は、何のおもてなしも出来ないようなボクたちに対して、全力の支援を行ってくださったのだ……ッ!


 ランス様に忠実な魔物たちの力で、寂れ果てていた村はあっという間にいろどりを取り戻していった。病人などもアルビオンの街で無償で面倒を見てくれるとのことで、気付けばボクたちはランス様に向かってひざまいていた……ッ!


「ありがとうございます……ありがとうございます……っ!」


 ああ、涙があふれて止まらない……! ここまで誰かに優しくされたことがあっただろうか!?

 人の上に立つ者なんて、どうせみんなロクでもない奴らばかりだと思っていたのに……っ!


 ずっとずっと泣き続けるボクに対して、ランス様は優しく微笑みながら、そっと肩に手を置いてくれた。


「いい加減に泣くのはよせよ、ガキんちょ。これくらいのことは『英雄』として当たり前だっての。

 弱い人を守り、導き、悪い奴をぶっ殺すッ! ――そんな男に、お前もなりな」


 そう言って、黒い馬にまたがりながら立ち去っていくランス様。

 ボクは遠ざかっていくあの人の背中を、ずっとずっと見つめ続け――そして、誓った。



「ボクも、貴方のような英雄になりたいっ!!!」



 弱い人を守り、導き、悪い奴をぶっ殺す……! そんな英雄に、ボクも絶対なってみせます……っ!


 ――そうしてボクは彼のことを想いながら、とりあえず腹筋1000回から始めたのだった。




 


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― 新着の感想 ―
[良い点] クレイジーサイコホモが増殖してるだと((( ;゜Д゜)))
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