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12/23

11:蹂躙の軍勢

「みちひろ」様と「龍ヶ崎 龍牙」様にレビューをいただきました!

みなさんもどうかこの小説を、友達に勧めてあげてください! 友情が深まること間違いなし!



 断言しよう。この戦いに吾輩わがはいが負ける要素は、砂粒ほどもありはしないと。



「――さぁ、ペンドラゴン王国の騎士たちよッ! この老雄・アグラヴェインに続くがよいッ!

 騎士としての名誉にかけて、必ずや反逆者共を討ち倒そうぞォォオオオオオオオッ!」


『ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――ッ!』


 吾輩の叫びに応え、二万を超える男たちが熱き咆哮を張り上げたッ!



 ――全員わかっているのだ。この戦いは勝ち戦になるだろうと。



 一週間前、『北極都市・アルビオン』より“正義の名の下に、邪悪なる領主を抹殺した”という文が近隣の都市へと送り届けられてきたらしい。

 それを知った王国上層部の対応は異常なほどに早かった。情報の調査を行う手間すら惜しいとばかりに、吾輩に対して二万という大兵力を投げ渡してきたのである。

 そして吾輩にこう命じた。“命乞いすら吐かせることなく、反逆者共を一晩の内に皆殺しにせよ”と。


(ククク……焦っているのも仕方がない。なにせアルビオンでは『奴隷オークション』が開かれていたのだからなぁ。

 吾輩も何度か利用させてもらったが、あれは良いものだった。女子供を泣かせるのは本当にたまらんよ……ッ!)


 最高のひと時を味わわせてもらったが、人身売買は重罪だ。それに手を出していたことが世間にバレるのは、吾輩としてもかなり不味い。ここは上層部の期待通り、速攻で片付けて証拠隠滅をはからなければいけないな。

 

 ――なあに、アルビオンで革命が起きたのはまだ一週間前だ。きっとまだまだ混乱は収まっておらず、反逆者たちは民衆を落ち着けるのに苦労しているはずだ。


(敵の総数は不明だが、まぁ二万には遠く及ばない数だろう! 大軍勢を揃えるためにはそれ相応の手間と時間がかかるし、そうしている内に必ずや情報が漏れてしまうものだからな)


 領主抹殺の知らせは本当に急なものだった。きっと、少数精鋭で闇討ちをしたに違いない。

 ――ならば圧倒的な数によって蹂躙するのみだ! アルビオンの周囲には小規模の街がいくつもあるため、向かう道中でそこの領主たちから兵力や物資を借り受けることだって出来るッ!


「ふはははははっ! この戦いに負ける要素など絶無だァッ! さぁ騎士たちよ、希望の未来に向かって突き進むぞォォォォオオオオオオオオ!」


『オオオオオオオオオオオオッ!!!』


 ああ、騎士たちの士気も十分だ! これでは負けるほうが難しいではないか~!


 

 そして、駐屯していた街を出立せんとした――その時だった。



「アッ、アグラヴェイン様! 北のほうより、なにやら異常が!」


「あん?」


 騎士の一人が水を差してきた。

 まったく、空気が読めないなぁもう。……アルビオンのあるほうを見てみれば、まぁたしかに黒いもやのようなものがかかっているなぁ。


「なんだ、あれは……?」


 ジっと目を凝らしていると、どんどんこちらに近づいてくるではないか。

 しかも、ドドドドドという地鳴りのような音までもが響いてくる。

 

「あれは、あれは…………あれっ…………え?」


 やがて――吾輩は気づいた。

 北の方角に見えるのは、もやでもなければかすみでもない。



 それは……“灰色の髪の男”に率いられた、10万を超える魔物の大軍勢だった――ッ! 



「――さぁ、アルビオン帝国の戦士たちよッ! この英雄・ランス様に続きやがれぇえええええッ!」


『ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ――――ッ!』


 天を揺るがすほどの咆哮を上げ、我らへと向かってくる魔物たち。

 その最悪の光景を前に――吾輩たちの戦意は、一瞬にして砕け散った。



 ◆ ◇ ◆



「さぁ魔物たちよ! 殺せ殺せ、ブチ殺せぇぇえッ!!! 正義の名の下に食い散らせぇえええええ!!!」


『ギギャァアアアアアアア!(えっ、マジすかボスッ!? ニンゲン食ってもいいんすか!? 正義ってなんなんすかッ!?)』


 北部一帯から集めてきたゴブリンやオークたちと共に、王国騎士たちを蹂躙していく。

 向こうが数で潰しに来たなら、それを上回る数によって圧倒してやればいいだけのことだ。


(スラム上がりの戦士たちが千人ほどに、エレインとモルガンの支配下に置かれた魔物が10万体だ。

 さぁ騎士たちよ、これがアルビオン帝国の全戦力だ! 存分に味わっていきやがれぇええええ!!!)


 あちらこちらで悲鳴と絶叫と血しぶきが上がり、ヤツらが駐屯していた街の周囲はたちまち血の海と化していく。


「ひっ、ひぃいいいいい!? 助けてっ、助けてぇえええ……っ!」

「無理だ……こんなの無理だぁあああああ!!!」


 敵軍はもはや恐慌状態だった。誰も彼もが逃げまどい、まともに立ち向かおうとする者は誰一人として存在しない。

 っておいおいおいおいおいおい――駄目だろそれじゃ!!!


「ダメダメダメダメ! どうしてそこで諦めるんだよッ!? もっと勇気を出せよッ!

 人間の力ってのは無限大なんだ! 諦めない限り、絶対に夢は叶うんだよ! なぁゴブリンたちよッ!?」


『ギギャーッ!(えっ、流石に無理があると思うんすけど!?)』


 ほぉらゴブリンたちもなんかギギャーって言ってるッ! たぶんお前たちのことを応援してんだよ!!! よくわからんけど!


 そうしてオレも長剣を振るい、騎士たちを次々と殺していった時だ。何やら将軍っぽいオッサンが、街の中へと逃げていくではないか!

 それを見ていた(なんかどこかで顔を合わせたことのある)戦士の一人が、オレに報告してくる。


「ランス様っ! あれはペンドラゴン王国の古き英雄、アグラヴェインに違いありません! 門番をしていた時に顔を見たことがあります!」


「ってマジかよ!? 英雄なのに逃げちゃダメだろ! ……あとお前、門番やってたってマジ? オレから賄賂を受け取ったヤツがいてさ、ちょっと殺そうと思うんだけど」


「しっ、知らないっす! 全然そんなヤツ知らないっす!!!」


 ふぅんそうかよ。……ってそれよりも問題はアグラヴェインだ!

 英雄のくせに逃げやがるなんて――いや、待てよ!? 仮にも英雄と呼ばれるほどの男なら、きっととんでもない秘策を隠し持っているに違いないッ!

 ならば、オレも英雄としてそれを真正面から打ち破るのみだ!


「いくぞ、アグラヴェインッ! お前の力を見せてみやがれぇえええ!」


 ヤツの後を追い、オレも街へと入っていく。

 すると――


「こっ、これ以上近づくなァァアアアアッ! 一歩でも吾輩に近づこうものなら、こうだァァァアアアッ!」



 そして――アグラヴェインは剣を振り上げると、逃げまどっていた民衆の一人を斬り殺したのだった。



「……は?」


 ……一体、何をしているんだコイツは……?

 さらにアグラヴェインは小さな子供を足で踏みつけにして剣を向けると、正気を失った笑みで言い放ってくる。


「ふはっ、ふははははっ! どどっ、どうだ反逆者ッ! これでは手が出せないだろう!

 もしもこの子供を見捨てようものなら、貴様は正義じゃなくなるぞォォオオッ!」


「……は……?」


 なんだ、それは。なんだ、これは……?

 老いているとはいえ、王国から英雄と呼ばれている男が……罪なき民衆の命を盾にするだと?



 ――ふざけるな。



「ふざけるな……ふざけるな……ふざけるなふざけるなふざけるなァァァアアアアアアッッッ!!!

 英雄とは、命を惜しまずに戦い続ける者のことだろうッ!? 勇気を振り絞り、ドラゴンにだって立ち向かっていく者のことを言うのだろうッ!?

 それなのに――お前ってヤツはぁああああッッッ!!!」


 もはや許せるわけがないッ! こんなどうしようもない存在が老雄として祭られているなど、ペンドラゴン王国は本当に本当に腐ってやがる!


 ゆえに殺そう、滅ぼそう。この世から完全に消し去ってやろう……ッ!


「――モルガン。オレに魔力を充填せよォォォオオオッ!」


『はぁいマスターッ!』


 オレが叫ぶや、影に潜んでいたモルガンより、人外のエネルギーが身体に流れ込んでくる!

 次の瞬間、


「ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!」


 オレの全身に、赤く輝く紋様が浮かび上がった。それと共に全筋肉が超活性を起こし、心拍数が急上昇し、毛細血管が弾けて眼球が赤く染まっていくッ!


 これが、オレの考案した英雄としての奥義。一時的な『魔族化』だった――ッ!


「なっ、なんだそれは……何が起きているッ!?」


 わけがわからずにアグラヴェインが困惑しているが、もはや語る言葉などあるものか。

 オレは地を軽く蹴ると――音を置き去りにするほどのスピードで、一瞬にしてアグラヴェインへと接近する。


 そして、



「――これが本当の、『英雄』だァァアアアアアアアアアッ!!!」


「ぎっ、ぐぎゃぁあああああああああああああーーーーーーーーーーーーッッッ!?」



 ヤツの顔面へと、全身全霊の右ストレートを叩きこんだッ!

 アグラヴェインの身体はゴミのように吹き飛んでいき、何十軒もの民家をブチ壊しながら地の果てにまで消え去っていく。

 後に残ったのは、ヤツが撒き散らしていった血のあとと、その結末を見て呆然としている街の民衆たちだけだった。


 オレは拳を振り上げると、彼らに向かってえ叫ぶ。


「――お前たちに問うッ! ペンドラゴン王国は、魔物たちの脅威から完全にお前たちを守ってくれたかッ!? ドラゴンが襲来してきたとして、お前たちを守ることが出来るのかッ!?

 答えは否だッ! もはやこの国は完全に腐りきっているッ! 先ほどの男のように、上位者共は国民たちを人間とすらも見ていないッ!」


 だがしかし――ッ!


「オレになら……このランスにならお前たちを守ることが出来るッ!!!

 此処ここに宣言しようッ! お前たちを必ずや、希望の未来に導いてみせるとッッッ!!!」


『ギギャァアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーッッッ!』


 オレの叫びに激しく応え、10万を超える魔物たちが街を囲んで咆哮を上げたッ!

 王国の騎士たちの姿などもはや一人もありはしない。魔物たちの口元がべったりと赤く濡れてる様が、騎士たちの最後を物語っていた。


「さぁ、民衆たちよ。どうかこのオレに導かせてくれよォ……ッ!」


 両手を広げて、民衆たちへとオレはにっこりと笑いかけた。


 すると――


「どっ……どうか、私たちを導いてください……ッ!」

「ランス様、貴方に従います……服従します……っ!」

「貴方こそが、我らの英雄ですッ!!!」


 ああ――なんということだろうかッ!

 家の中に隠れ潜んでいた民衆たちが次々と姿を現し、オレの前へとひざまいてくるではないかっ!

 そうかそうか、そういうことか! 彼らもきっと、自分たちを導いてくれる英雄の存在を望んでいたんだ! 王国を滅ぼすことを願っていたんだ!!!


「ははははははははっ! よしいいだろうッ! お前たちの未来はこのオレが預かった!!!

 さぁ、みんな笑って笑って! 戦勝記念だッ! 魔物も人間も関係なく、今日は飲んで騒いで楽しもうじゃないか!

 ほら……笑えよ」


『あ、あはっ――アハハハハハハハハハハハハハハ! アハハハハハハハハハハハハハハハハハッッッ!!!』


 街中に笑顔が溢れかえる。大人も子供も、女も男も、みんな明るく元気に笑い続けた!

 うんうん、とっても嬉しかったんだな! わかるぞわかるぞ~!



 だってみんな――いつまでもいつまでも、嬉し泣きし続けていたのだから……!




 



正義ってなんだっけ……?(哲学)


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