10:悪逆の帝国
長編ファンタジーをラブコメ連載している「由房」様と、様々な異世界モノを書かれている「澪姉」様にレビューをいただきました!
ああ、こんな狂気の小説を広めたらダメですって! 子供たちの教育に悪影響が出ちゃうッッッ!(歓喜)
――オレが街を乗っ取ってから一週間後。新国家『アルビオン帝国』は、今日も元気に革命していたッ!
「ランス様ッ! 『奴隷オークション』に参加していた近隣の街の領主たちは、全て片付け終わりましたッ!」
「おうご苦労! これでまた一歩、世界が平和になったな!」
執務室にて(アーサーの肉体美を思い出しながら)腹筋1万回をしていたオレへと、スラム上がりの兵士が元気に報告をしてくる。
まずオレが命令したのは、『奴隷オークション』に参加していた者たちの大粛清だ。
ご丁寧にもガウェインのヤツは顧客リストを作ってやがったため、片付けるのは簡単だった。
魔物の大軍勢を率いて、そいつが治めている街を囲い込み――領民たちへとこう叫ぶのだ。
『大人しく領主を差し出さなければ、お前たち全員“悪”と見なしてブチ殺す』と。
そうするとみんな、泣き叫ぶ領主を喜んで差し出してくれるではないか!
いやぁ、この世は良い人ばかりってことだなぁ! 彼らのためにも、悪い奴らをもっともっと始末しないとッ!
汗を拭きながら執務室を後にすると、オレはアルビオンの役所に顔を出した。
そこではガウェインに仕えていた文官たちが、一生懸命働いていた。
「よぉーお前ら! 今日も真面目に働いてるかぁ!? 金の流れはしっかりしてるかー!? まさか不正なんてしてないだろうな~!」
「はっ、はぃいいいいッ! 今日も民衆のみなさまのために、全力で働かせていただいておりますッ!
だからどうか、妻や子供には手を出さないでくださいッ! どうか、どうかぁ……ッ!」
「おいおいそんなにビクビクするなよ? 悪いことをしない限りは殺さないっての!」
国を運営するに当たって、大切なのは学を修めた文官たちの存在だ。こればっかりは数が限られているため、皆殺しにするわけにはいかなかった。
しかしガウェインに仕えていただけあって、どいつもこいつも一癖ありそうだったので――家族を拉致して人質に取ってみた。
ああ、するとどうだろうッ! 「俺たちがいないと困るだろう」と内心思ってそうだった連中が、今や必死で働くようになったではないかッ!
家族愛の力、素晴らしいぜ!!!
「さぁ、頑張れ頑張れ頑張れ頑張れッ! 今まで不正していた分も頑張って働こうッ!
ちゃんと『正義』の心に目覚めたんだとわかったら、家族を解放してやるからなッ!」
「は、はいランス様ッ! 目覚めますっ! 『正義』になります! ならせてくださいッッッ!!!」
うんうん、気合に満ち溢れてて何よりだ! それじゃ、オレは街の様子を視察してくるからサボるなよっと!
そうして街をブラついてみると、かつてと比べて明らかに活気に満ち溢れていた。
貴族たちを皆殺しにして、彼らが所有していた金や食料を貧民層に配ったおかげだ。ガウェインが強いていた重税からも解き放たれて、誰も彼もが生を謳歌している様子だった。
その変わりように満足していると、前にレストランの前で出会った子供がオレに駆け寄ってきた。
「あっ、王さまだー! あのね、おれね、初めておもちゃ屋さんっていうところに行ってきたんだよ!
……でもね、お店に入ろうとしたら店長さんが、『スラムのガキが寄ってくるなよ』って言ってきてね~……」
「おっ、そんなことがあったのか!? 大丈夫だったか?」
「うんっ、平気だよッ! だって――『スラムの子供も商人も、血の色は同じなんだよ』って教えてあげたから……ッ!」
そうして彼は、恍惚の笑みで血濡れたナイフを取り出した……!
おいおいおいおい、このガキ――なんて良い子に成長したんだッ! 差別をするような悪い大人を叱ってあげるだなんて、小さな子供には中々できることじゃない!
この国の代表者として、彼を思いっきり抱き締めて褒めてやろう!
「よーしよしよし! お前はわかってるなぁ坊主! そうだ、差別はいけないことなんだぞ!
その手は人を殴るためでなく、人と手をつなぐために。その口は人を差別するためでなく、人と愛を語り合うために付いてるんだ。
だから――差別主義者の劣等害悪ウジムシ野郎は、暴力によって殲滅だッッッ!」
「せんめつだー!」
ふふふ、こんな小さな子供にも正義の心が芽生えているようで何よりだぜ! この国の未来は明るいなぁ!
「ねぇ王さま……おれ――英雄になるからね! 貴方みたいな、素晴らしい英雄に……っ!」
おっ、嬉しいことを言ってくれるなー。
オレがアーサーに憧れ、彼がオレに憧れていくことで、人を導ける英雄が世界に溢れかえっていくのが楽しみだ。
その後も街を視察して周ると、そこかしこで微笑ましい光景を見ることが出来た。
清掃員と共に街を掃除して周るゴブリンたちに、大工の指示に従って木材を運ぶオークたちに、スラム上がりの衛兵と共に街を巡回するスケルトンたちだ。
(うんうん、今じゃあすっかり街の一員じゃないか! まだまだビビってる民衆もいるが、言うことを聞いてくれて仕事の役にも立つんだから、もう慣れ親しんでるヤツも多いな)
魔物ってのは知能が高いし体力もあるから、人間への敵意さえ抑え込めばいいパートナーになってくれるはずだ。特にスケルトンの連中なんて元々は人間だから、その時の意識がちょっぴり残ってるみたいだし。
よしよし。こうして低級の魔物たちを大量に支配下におけたのも、全部エレインと、もう一人の『魔族』の女の子のおかげだな。
「ありがとうな、モルガン」
『――うんっ!』
“彼女”に礼を伝えると、オレの影から声が返ってくる。
次の瞬間、まるで生きているかのように影が蠢き――そこから純白の髪の少女が飛び出してきた。
「マスターっ! わたし、いい子? いい子っ?」
「おう! 今日もモルガンは元気ないい子だ!」
金色の瞳を煌めかせながら、オレの胸へと飛びついてくる。この子こそ、あの『奴隷オークション』のホールで見つけた『魔族』の女の子だった。
……エレインの奴、ビックリしてたなぁ。「なっ、なんで『古代魔族』サマがこんなところにいるんですか!?」って。
彼女曰く、『古代魔族』とは特殊な能力や超強力な支配力を持った『魔族』の上位者らしい。
今や世界に数百体といない『魔族』の中でも、トップクラスにレアな存在なのだそうだ。
「なぁモルガン。お前はこの街のスラムで拾われたらしいが、一体どういう経緯でここまで辿り着いたんだ?」
「んーとね、気付いたら下水道でおぼれててね……そこから前は……うーん、わかんなーいっ!」
「そっかー! わかんないかー!」
「うん!!!」
……こんな調子で、知能のほうがちょっと可哀想なことになっているため、魔物を操る時にはエレインに魔力を貸し与えてサポートに徹している。
『古代魔族』となれば上位の魔物も自由に操れるらしいのだが、ちょっと今はダメだなぁ。コントロールするのをうっかり止めてしまったり、変な指示を出されたら大惨事に繋がりかねない。
まっ、この子のおかげでエレインの支配力が上がって助かってるため、今のところはそれで十分だ。
「……影を“門”にして渡り歩くすごい能力まで持ってるのに、『大人しくしてたらお菓子をあげるよ』って言われてガウェインに捕まってたなんてなぁ。
モルガン、早くアホの子を卒業しような~?」
「むーっ、わたしアホの子じゃないもん! エレインお姉さまの言うことをしっかりと聞いて、マスターのアソコの大きさとか形とか味とかを秘密で調べてるもん!」
「なに命令してんだよあのメスガキは」
まったくもって意味が分からないし、秘密のことをベラっと言っちまうモルガンも残念極まりなかった。
はぁ、まだ二人とも子供だし仕方ないかー。常識人としてオレが教育していってやらないとな!
モルガンのことを抱っこしながら、そう思っていた時だ。……なんかどこかで見たことのある衛兵が、血相を変えてオレの元へと駆けつけてきた。
「ラ、ランス様! 緊急事態です!!! 遠方の街に、王国の兵士たちが続々と集結しているとのことですッ! その数は約2万以上とのことで……っ!」
っておいおいマジかよ!? 近い内に討伐軍が派遣されてくるとは思ってたが、いきなりそんな兵数をぶつけてくるとか正気か!?
……あー、そうか。王国の権力者層に、『奴隷オークション』の顧客リストを抹消したい奴がそれだけ大勢いるってことかよ。
溜め息を吐くオレに、衛兵が不安げに訊ねてくる。
「どどどっ、どうしましょうランス様っ!? 和平の使者を送りますか!? それとも降伏の準備を!?」
「ってバーカ! 常識的に考えろっての!」
邪悪なる者たちに頭を下げろと? 全て諦めて屈服しろと? ふざけるな。
「――敵は総て、ブチ殺すに決まってるだろうがァ! そうだよなぁモルガンッッッ!!!」
「うんっ! 血と臓物でパーティーしようねぇえええええ!!!」
その瞬間――オレの影がどこまでも巨大に広がっていき、そこから無数の魔物の咆哮が響き渡った……ッ!
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