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閑話:悪しき少女と小悪党

メスガキ……じゃなくてエレインと、衛兵視点の話です!



『エレイン。お前はこれから正義の存在になるんだ! このオレがいる限り、もう悪さなんてさせないからな!』


 ――“あの男”にそう言われたとき、わたしは「何言ってんだコイツ?」と思った。

 『魔族』とは、生まれながらに人への悪意を抱えた存在である。それはこのわたしも例外ではなかった。


 だから、



「――ぐるっ、ひぃいいい!? や、やめろメスガキ……息、できなひ……! 死ぬぅうう……っ!」


「あっははははははっ! 死んじゃえばいいじゃないですかぁ! ほらほらほらぁ! も~っと強く絞めてあげますねぇええ!!!」



 ガウェイン邸の執務室にて、資金を持ち逃げしようとしていた使用人の首を絞めている今だって、わたしの心に溢れているのは嗜虐心と高揚感のみだった!

 『魔族』の筋力は通常の人間の三倍だ。鍛え抜かれた一流の戦士か、もしくは“あの男”のような脳のリミッターがぶっ壊れた存在でもない限り、ただの人間ごときが敵うわけもないッ!


「このっ、メスガキがぁ……ッ!」


「ひひひひひひひひひひひひひっ! 悔しいですかぁ!? ムカつきますかぁ!?

 こんな小さな女の子に馬乗りになられて、きゅぅ~っとキツキツに絞めつけられて、今にもっちゃいそうな気分はどーなんですかぁー!?」


 暴力は楽しい! 殺戮は楽しい! ああ、世界に向かって叫びたくなる! このエレインは今、生を謳歌しているとッ!!!


(ふふふっ……人間の子供たちだって、幼い時には虫を虐殺しまくるというじゃないですか。

 つまり、すべての生物は生まれながらに殺すことを快楽に感じるように出来てるんですよ。それなのに人間の大人たちは、『法律』だとか『道徳』なんていうクソみたいなモノで自分を縛りつけちゃって……)


 本当にどうしようもない生き物だ。殺意と悪意が止まらなくなる。

 

 だから――英雄を目指しているという“あの男”に拾われた時だって、いつか隙を見てぶっ殺そうと思っていた。

 正義の存在として生きろと? 人間のために働けと? ふざけるな。


 ……美味しいご飯や可愛いドレスを買ってもらった時には、まぁ……感謝しなくもなかったが、それでもいつかは夢見がちな“あの男”を絶望させてやろうと思っていた。

 


 ああ、なのに――。



「メスガキさんッ! ……あ、じゃなくてエレインさん! ランス様が革命を成功させたそうですぜッ!

 それで次は、この都市を拠点として国家転覆をはかっていくそうでさぁ! マジすげーっすよねー!」

「男の使用人は皆殺しにしろって命令の通り、俺ももう三人ほどぶっ殺しましたよッ! スケルトンとコンビを組んで!」

『ガガガガァ~!』


 ……なんだ、これは? 一体何がどうなっている?


(意味が分からない、意味が分からない、意味が分からない、意味が分からないッッッ!)


 “正義の英雄”を目指しているだと? 嘘をぬかせッッッ!


 よく考えなくても――『魔族』であるわたしを連れて街に賄賂わいろで忍び込み、死体から盗んだ金で食事と買い物を存分に楽しんでいる時点でおかしかったッ!

 さらには栄養失調の子供にナイフを手渡して強盗殺人を推奨し、暴力によってギャングのトップに成り上がり、墓場を荒らして「ここにある遺体全部、魔物にしてくれよ」と笑いながら言ってくる始末ッ!


 そして彼は……ランスという男は、スラムの者たちを気持ちのいい言葉で扇動せんどうし、『正義』の名の下に大虐殺をおっぱじめたのだッ!


(街に辿り着いてからまだ一日も経ってないのに、これだけの死と殺戮を撒き散らすなんて……ああ、あの人はなんて……っ!)



 なんて――素晴らしい男性なのだろうかッッッ!!!



(ああ、お兄さん……まさにアナタこそが“悪の英雄”……ッ!

 このエレインは、一生アナタについていきます!!!)


 未成熟な下腹部を熱く熱く湿しめらせながら、わたしは思った。



 あの人こそが、全ての邪悪を支配する存在――『魔王』に至る者であるとッ!




◆ ◇ ◆




 断言しよう。俺は今、まさに人生の最高潮にあった。



「はい、今日の警備おわり! おつかれさまでしたー!

 ――うっひょおおおおおおおおお! あの旅人さん、どんだけ金持ちなんだよぉ!? もうまともに衛兵なんてやってらんねーよ!」


 俺の懐には今、これまで見たこともないくらいの量の金貨が入った袋が収まっていた!

 ふふふ……こんだけ金があれば何でもできるぞぉ! 特大ステーキを食って、高い酒を飲んで、それからそれからぁ~!


(……にしてもあの灰色の髪の兄ちゃん、魔物なんか連れてたしめちゃくちゃ怪しい雰囲気だったけど……まぁいいかぁ!

 元々このアルビオンは、変態貴族の集会所みたいなもんだしなぁ!!!)


 今さらやべー奴が一人紛れ込んだくらいで、このアルビオンが変わることはねーだろ! 今日も明日も、ここは悪の巣窟だよっと!


 こうして俺は歓楽街に向かうと、思いのままに遊びまくり、貴族御用達の高級宿でぐっすりと眠ったのだった! ガハハハ!



 そして――翌朝。



「かっ、革命だぁああああああ! ガウェイン様が殺されたぞぉおおお!」

「『奴隷オークション』を利用したことある奴は全員逃げろーッ! スラムの奴ら、顧客リストに名がある者を全員殺してまわってるぞぉおおおッ!!!」

「やっ、やめろ、私は貴族の跡取りなのだぞ!? 下民ごときが傷を付けるなど――ぐぎゃああああああああああッ!?」

「い、一体誰なんだー!!! 革命の首謀者であるランスという者を……“灰色の髪の男”を街に入れたやつはーッ!?」



 ……………。



 ど う し て こ う な っ た ! ?



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