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1:始まりの時



 ――英雄に憧れて冒険者になり、やがて諦めて労働者となる。

 それがこの世界における男の通例行事みたいなものだ。


「よぉランスのおっさん、今日もちまちまと薬草採りかぁ!? せいぜい腰を壊さないようになー!」

「ぎゃははは! いい加減に冒険者なんて辞めちまえっての! アンタってもう三十代も半ばだろ!?」


(うるせぇな、わかってるっての……)


 冒険者ギルドに戻って早々、若い連中から小馬鹿にされる。

 ああ、しかし何も言い返す言葉はない。結果も出せないまま二十年近くも冒険者を続けているような大馬鹿者がこのオレだ。


 彼らに対して情けない愛想笑いで返すと、ぶっきらぼうな受付嬢に採取してきた薬草を手渡した。


「お疲れ様です、ランス様。こちらが今回の代金になります。

 ……あの、失礼ですがまだ引退を考えてはいないのですか? いい加減に怪我をしますよ」


「いやぁ、あはは……もう少しだけ頑張ってみようかなぁと……」


「はぁ。あのですねぇ――正直な話、迷惑なんですよ。『薬草採取』は本来、駆け出しの冒険者様たちが資金源とするクエストなんです。

 アナタが採取してきた分だけ薬草の単価が下がり、新人たちに回されるはずのお金が減るわけですよ。わかっていますか?」


「すみません……」


 ……何の反論の余地もなく、オレは大人しく頭を下げた。


(ああ、いつからこうなっちまったんだろうなぁ……)


 俺がいまだに冒険者を続けている理由。それは別に、ドラゴンとかを倒して英雄として称えられる夢を諦めていない――わけではない。


 ただ単純に、転職活動が面倒くさいだけだ。


 三十過ぎのオレがペコペコしながら面接を受けて、奇跡的に受かろうものなら年下の先輩に教えを乞うて、それでようやく金が稼げるようになるだと? なんだそれは、面倒くさい。

 それならば一人で森にこもって、コソコソと薬草でも採っていたほうがマシだ。たまにモンスターも襲ってくるが、この近辺に出てくるヤツらなら全力で走れば逃げ切れるしな。


(そんでちまちまと稼いだ金で、酒を飲んで現実を忘れて……たまに女を買ったりしてさぁ……それでいいんだよ、それで)


 ……理想に溺れた同期の連中は、みんな無茶して死んじまったからな。

 所詮、英雄になれるのは一握りの天才だけだってことだ。オレみたいな無能野郎は、アルコールに溺れて気持ち良く死んでいければいいんだよ。


(あーあ。生まれ変わったら天才になりてぇなぁ……チクショウ)


 そうしてオレが、ぼさぼさと伸びた灰色の髪を掻き上げながら、冒険者ギルドの建物を出ようとした――その時。




「すすっ、すみませーーーーーーーーーーんっ! ぼぼっ、僕ッ! 冒険者になりにきましたッ! 将来の夢は、英雄でーーーーーす!!!」



 ……馬鹿みたいに元気のいい少年が、入り口から飛び込んできた。

 え、何コイツ……フレッシュさが全開過ぎて、ちょっとおじさんにはまぶしすぎるんだけど……! 

 そっと振り返って受付嬢と目を合わせると、彼女は呆れたような表情で俺へと告げる。


「……ランス様。その子の登録手続きが終わったら、近隣の森まで同行してあげてください。

 私の経験上――彼、初日でヘマして死ぬタイプですよ」


 ですよねー……。相性の悪い受付嬢と、初めて意見が合った瞬間だった。

 

 


 ◆ ◇ ◆




 ――そして悲劇が幕を開ける。



『グガァァァァァアアアッ!!!』


「げほッ、ガハッ……!」


 オレはの鋭い爪に斬り裂かれ、内臓をぶちまけながら木の根元にしゃがみ込んでいた。


 ああ、どうしてこうなった――どうして伝説の魔物であるドラゴンが、こんなド田舎の森に居やがるんだよッ!?

 まったくもって意味不明だが、ただこれだけはわかっていた。


 オレがここで、確実に死ぬということだけは……!


『ガアアアアアアアッ!』


 ドラゴンの爪が再び迫る。もはや死に体であるオレに、それをしのぎきる手段はなかった。



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