4、町の事情
今回はちょっと早めに
誰も幸せにならない、悲しくも不幸な惨劇の後。
私達は冒険者ギルドでの登録手続きをなんとか終えました。
そしてギルドカードが出来るまでの間、情報収集も兼ねて組合員のお姉さんに、「ギルド内が何故こんなにも人が居ないのか?」という最初の疑問について、話を伺うことに致しました。
お姉さんの案内で、私たちは近くにあったテーブル席に座ります。
「私の名前はライラといいます。よろしくお願いしますね」
お姉さんの名前は、ライラさんというのですね。
緑色の髪と青い瞳が綺麗で、まるで遺跡探検の人が着ているような服が良く似合った、二十歳くらいの元気なお姉さんです。
「私はスズカといいます。よろしくおねがいします」
「改めまして、某はレガシー申す者。今後ともよろしくお願い致します」
「―――ぷふっ! ……そ、某はレガシー……うくくっ」
「―――くぅっ! 不覚っっ!!」
あわわわ……。
レガシーさんがまた天を仰ぎながら自爆しまいました!
しかも口調が若干戻りつつあります。
ここは私が責任を取って話題を変えませんと……!
「あ、あの! ギルド内に人がいらっしゃらない理由について何ですけども!」
「うくくく……。ふぅ。うん、その話が聞きたいんでしたよね」
「はい、是非お願い致します」
よし、何とか話題を戻す事に成功しました。
任務完了です!
「人がいない理由なんですけどね。理由は簡単で、この町に滞在中の冒険者のみなさんは、魔物狩りで大忙しなんですよ」
「魔物狩り、で御座るか」
魔物、とゆう単語に何やら不穏な気配を感じ取ったのか、天を仰いでいたレガシーさんも、どうやら復帰してくれたようです。
「レガシーさん達もご存知かも知れませんが、ここ数ヶ月の間に町の周辺に生息する魔物たちが、急激に増えてしまいまして……。
町のみなさんも、それだとちょっとした用事で町の外に出かけることも出来ないので、ギルドを中心に戦える方たちを集め、大規模な討伐隊を組織したんです。
それで現在、みなさん連日連夜魔物狩りに出張中なんです」
連日連夜ですか。
それだけ毎日魔物さんを狩りに出ているのに、数は減らないのでしょうか?。
「結構な数は狩る事は出来たんですけどね。それでも繁殖速度から考えると、焼け石に水で……。
魔物由来の素材は沢山手に入るのでその点は利益になるんですけど、あんまりにも魔物の数が減らないので、普段は町中のクエストをこなしてる冒険者さんたちまで、狩りの方にまわっていただいてるのが現状です。
ただでさえ王都から遠く離れたこの町は人手が慢性的に足りなんですけど、こんな状態だと受付担当の私でさえ色々と町内クエストをこなさないと手が足りなくて……。
先ほどまで私が受付にいなかったのは、それが原因なんです」
そう語るライラさんの表情からは、疲労の色が色濃く現れていました。
なんだかとっても大変そうです。
ですが、雑事が溢れていて大変。とゆうことは、言い換えればお仕事がたくさん余っているとゆうこと、ですよね。
これはチャンスです!
魔物さんを討伐するのは怖くて自信がありませんが、町のお手伝いならなんとかなるかも知れません。
「あの、良ければ私も町のお手伝いをさせて頂けませんか!」
「え、マジで。手伝ってくれるの!?」
「!?」
私が申し出た瞬間、さっきまでの丁寧な口調が何処かへ吹っ飛んでいってしまったかのように、私の眼前へと急接近して期待に満ち溢れた笑顔を向けてきました。
す、凄まじく近い……。
「は、はい、任せてくださ……い?」
「やったわー!! これでようやく、孤独な労働地獄から開放されるうぅぅ……!」
泣いてます。
ライラさんが私の両手をがっしりと掴みながら、私を拝むようにして感涙に咽び泣いています。
そ、それほどまでに仕事量が多かったのですね……。
異世界に労働基準法はないようです。
その後、話はとんとん拍子に進んでいき、ギルドに寄せられたクエストを受けるとゆう形で、お仕事の手伝いをする運びとなりました。
もちろん、クエスト達成による報酬はしっかりと戴けます。
これでなんとか、生活をする目処が立ちましたね!
それ以外については、この世界でもゲーム内通貨、アークが問題なく使える事。
冒険者ギルドに所属する事についての規約や注意事項、ランク制度についても説明して頂けました。
冒険者ギルドの制度については、要約すると以下の通りです。
1、冒険者としてギルドに登録すると、住民の皆さんから持ち寄られた様々な依頼とゆう仕事を請けられるようになり、その仕事を達成すると、成功報酬としてお金やアイテムを受け取る事ができる。
2、ただし、クエストに失敗すると、違約金とゆう罰金を払う義務が発生します。
もしその違約金が払えなかった場合、最悪借金奴隷として売り払われ、借金分の強制労働が課せられる場合があります。
3、冒険者には、ランクとゆう階級制度があり、その人の実力により最下位のFから、E、D、C、B、Aと順々に上がっていき、最上位のSまでのランクを付けられる。
ランクを上げるためには各ランクに合わせたクエストを、一定数達成する事で昇格される。
また、ランクCからは昇格試験に合格する必要がある。
4、冒険者にはギルドカードと呼ばれる物が発行され、そのカードにランクや名前などの個人情報を登録し、公共機関など様々な場所で身分証として使用する事ができるようになる。
ライラさんの話によると、なにかしらのギルドカードは、誰でも身分証として一枚は所持しているそうです。
要は生活必需品ですね。
そして話している間に、ギルドカードを作成する魔導具?の作業が終わったようで、ライラさんからカードを受け取ります。
因みに私たちは今登録したばかりなので、最低ランクのランクFから開始です。
「これでスズカちゃんたちも、冒険者の仲間入りよ。
クエストでバンバンお手伝いしちゃって、ジャンジャンお仕事減らしちゃってね!」
「はい、がんばります!」
ライラさんがもう完全に砕けた口調になっています。
多分さっきまでのはお仕事モードでの応対で、今の親しみやすい口調の方が本来の話し方なのでしょうね。
「それじゃあ、早速クエスト受けちゃう?」
「いえ、先に宿を取って準備を整えた後に、また改めてお伺いするで御座る」
お仕事がんばるぞー!と意気込んでいたところに、レガシーさんからのストップが掛かりました。
いけません、今晩の寝床を確保するのを、すっかり忘れていました。
野宿は危険です。魔物さんにモグモグされてしまいます。
「それじゃあ準備が整ったらまたここに来てね。
私はレガシーさんとスズカちゃん達が来るまで少しだけ休憩してます。
その時に一緒に案内しますね。
……まだ仕事は山ほど残ってますし」
最後の一文を口にしている時、ライラさんの瞳から、急速に光が失われていきました。
完全に現代社会の闇を背負っている人の目です。
ところ変わって、お次は今度こそ宿屋さんの入り口です。
素朴な木造建築の屋内が、木の温もりを醸し出して優しい雰囲気に包まれています。
「すみません。一晩宿を取りたいので御座るが」
「はいよ、いらっしゃい」
レガシーさんの呼び声に応えて奥から現れたのは、笑顔が優しそうなお婆さんでした。
きっとこの方が宿の女将さんですね。
「二名様かえ? 二人部屋なら素泊まりで20アーク。朝晩の食事付きなら30アークだよ」
「いえ、泊まるのはこの子だけなので、一人部屋でお願いします」
「―――ええっ!?」
レガシーさんの予想外の発言に、私は思わず驚きの声を上げてしまいました。
なんということでしょう。
あの紳士的で優しいクマさんが、死刑宣告にも等しき残酷な言葉を告げられました。
「ある――。スズカ、そんな大声を出してどうしたので御座るか?」
「あ、ああの、一人で泊まるとゆうのは一体どどどどういう……?」
突如発生した緊急事態に恐怖して震える私を前に、高さを合わせるためにその場でしゃがみ、耳元でささやくように小さな声で、レガシーさんは理由を話してくれました。
「……主殿、よくよく考えて見てくだされ。某は召喚獣です。
召喚獣は元々生物に必要な食事や睡眠など、摂らなくても問題ありません。
少々貧乏臭い発想では御座りますが、ここはそういった生活に関わる費用を、主殿一人分にまで削減し、今後の生活のために、出来得る限り節制するのが得策かと」
まさかのファンタジー要素を最大限利用した、生々しい節約術。
流石はロイヤルなバトラーさん、財政管理もパーフェクトなようです。
ですがその提案はあえての却下です。
むしろ断固拒否なのです!
「お、女将さん! 二人部屋の食事付き30アークでお願いしますすぅ!!」
「な、はいっ!?」
「はいよ。それじゃあ部屋に案内するから、付いてきて下さいな」
私の半ば無理矢理な決定を聞き、女将さんは業務を全うすべく、二階へとゆっくり階段を上っていきます。
やった、強攻策成功です!
「……主殿。何故二人部屋の、それも食事付きを選んだのか、お伺いしても?」
作戦成功に安堵したのも束の間、当然の如く相談無しに決定を強行した私に対し、ジト目クマさんの双眸が説明を要求してきます。
「あ、あの……。その……」
ど、どどど、どうしましょう。言えません!
まさか小学6年生にもなって、お人形さんたちに囲まれていないと怖くて眠れなくて。
しかもクマさんにお人形さん代わりに一緒に添い寝してほしいだなんて、そんな失礼で恥ずかしい事、とてもじゃないですが言えません……!
「……分かりました。主殿が話したくないのであれば、無理には聞きませぬ」
「あ、あの。そう、じゃなく……て……」
「主の望みに応えるのも従者の務め。なに、働き口は確保しているのです。
減った所持金は、某がきっちり稼いで増やして見せますとも!」
ちょ、ちょっと待ってください。
その言い方だと、浪費癖のある主君が、従者に不当な労働を強いて稼がせるように聞こえて……。
「れ、レガシーさんだけに働かせるわけには行きませんので、私もちゃんと働いて……」
「それはいけません! 主殿、世の中には労働基準法とゆうものが存在していましてね」
ここで出てきますか労働基準法!?
それは私にではなく、ライラさんの救済にこそ持ち出してください!
……ああ、だめです。
このクマさん、完全に説教モードに入っています。
人の話を聞いてくれません!
……天国のお父さん、お母さん、ごめんなさい。
どうやらスズカは、心の弱い、駄目な主君さんのようです……。
Tips的なミニ設定解説
今回の話で「ゲーム内通貨のアークが問題無く使える」とゆうのがありますが、一応理由があります。
“アーク”とゆう通貨もゲーム内の概念、つまり“ゲームの力の一部”とゆう扱いです。
現地人の人にアークとゆう“通貨”の概念で作られた何かを渡せば、自分達の世界の“通貨”を渡されたと認識します。
逆もまた然りです。
要は日本語で話してるのに、相手には現地の言葉に変換されて聞こえる。みたいなものです。
認識の相互強制変換ですね。
まあ、どっちにしろ所持金が100アークしかなかったんで、使えばすぐに現地のお金だけに入れ替わりますし。
こんな感じで蛇足の設定解説として書いておきました。
まあ、矛盾とか発生しても気にしないでください。
作者は頭よわい人なので、ここに書いてある以上の意味は特にありません(泣
※2019年1月25日、誤字・脱字・加筆、ライラさんの口調修正