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2、運命式



「どうやら、狼の群れからは逃れられたようで御座るな」



 ガクガクブルブル……。


 追っ手を撒いた事を確認しているクマさんの背中。

 私はそこで寒さに震えていました。


 私の身に纏っている妖精さんの衣装はかなり薄着なので、吹き荒れる向かい風に体温を奪われ、精神的には最早凍死一歩手前です。



「主殿。ちょうど良いのでこのまま街道沿いに進んで町か村を探したいと思います。

 今しばらくこの状況が続きますゆえ、向かい風で寒い場合は某の服の間に隠れていて下され」



 クマさんの提案を聞くや否や私は最後の力を振り絞り、うなじにあたる首元からシャツの中へと急いで潜り込みます。


 ……あぁ、温いです。

 気分は暖房付き最高級熊皮のお布団に包まって、温かさの天国に抱かれてるかのようです。



「ちょ、主殿!? 服の間とゆうのは、シャツと上着の間とゆう意味でありまして」


「ここがいいのです……。むしろここじゃなきゃ嫌なのです……」



 最早何人たりとも私をぬくぬく天国から引き剥がす事はできません。

 あぁ……、あったかいです……。



 それから幾許かの時が過ぎ、私がぬくぬく天国を存分に堪能して体温が元に戻ったころ。


 現在進行形で人の住処を目指して爆走中のクマさんが、走りながら今後の方針などについて相談しましょうと提案してきました。



「現段階ではその、異世界転生についてはなんとも言えませぬ。

 某は元々、エンドコンテンツに当たるシークレットエリアのクエストエネミーでしたので、ゲーム開始時点のエリア情報などは分かりませぬ。

 それ故、ここが最初の初心者エリアなのかどうか、某には判断が出来ませぬ」


「えんど……? くえすと……?」


「む、付かぬ事をお伺い致しますが、もしや主殿はネットゲームなどをプレイした経験は?」


「えっと、実は今回が初めてでした……」


「なるほど、得心が行きました。では僭越ながら某が、チュートリアルを兼ねた用語説明などをさせて頂きます」



 その後クマさんは、ネットゲーム初心者の私に懇切丁寧に基礎知識や用語の説明などをしてくれました。


 その説明の中でもコール・オブ・アーク・オンライン内の専用知識。

 特にクマさん自身の事について気になる話しがありました。



「では、クマさんは本来、COAO本編終了後にのみ行ける隠しステージの、そのまた専用の特殊イベントこなしてやっと仲間になる、固有のNPCなのですね」


「はい。云わばオマケ要素的な立ち位置になります」


「あの、ちょっと疑問があるのですが。

 クマさんはそんなにもすごーーく先の特殊なNPCさんなのですのに、どうして私が最初に召喚できたのでしょうか?」



 そんなにも長くて多い工程を踏まないと辿り着けない要素の方を、私は何故か最初に呼び寄せてしまいました。

 その事について疑問に思うのは、きっと私だけではないと思いたいのですが……。



「その疑問についての答えは簡単です。

 特殊な要素を呼び寄せられたのは、主殿自身も特殊なスキルを有しているからです」


「特殊なスキル……?」



 なんでしょう、私ってそんな特別なスキルなんて持っていたでしょうか?



「ステータス画面のパッシブスキルの欄をご覧になってみて下され」



 ええっと、パッシブスキルの欄ですね……。



 パッシブスキル

 《運命式召喚術:Lv.1》



 この一つだけ表示されているスキルのことでしょうか。

 よく見てみれば、召喚術とゆう名前の前に“運命式”と書いてありますね。



「その“運命式”とゆうのはCOAOの独自要素であり、隠し要素の一つでもあります。

 発生条件はキャラクター作成時、職業やスキル項目なども含む、全ての項目をランダム選択で選んだ場合にのみ、現れるように設定されています。


 キャラ作成完了後、運命式を適応するかどうかの選択肢にYESと答えると、適応するに当たってのメリット・デメリットに関する説明文と共に、三度の最終確認項目が表示され、その確認を経てやっと獲得する事のできる、強力なスキルなのです」


「そ、ソウナンデスネー……」



 え、そんな重要そうな表示なんてあったのですか!?


 どうしましょう、実はお友達さんに「キャラ作る時の選択肢は、分からなければ全部YESを選んでいい」と言われていたので、何も見ずにYESを連打していたなんて言えません……。

 

 マズイです。


 メリット・デメリットが書かれていた説明文の内容なんて覚えていません。

 とゆうより、コンマ1秒も表示されていなかった文章なんて読めるはずもありません。


 ……うぅ、仕方がありません。

 これはちゃんと確認しなかった私の落ち度ですし、ここは素直に謝ってクマさんにスキルの効果内容を、再度教えてもらいましょう……。



「……すみません。キャラ作成の時はずっとYESを連打していたので、説明を読み飛ばしていました。

 お手数ですが、どうかスキルの効果内容について、教えていただけないでしょうか……?」


「い、いや、主殿がそこまで低姿勢になる事はありませぬよ。

 全ては運営・開発陣が最初にそんな長文要素を導入したのが悪いのです。

 主殿は何も気にする必要性はありませぬよ!」



 うぅ……、悪いのは私だとゆうのに、こんな私にも優しく接してくれるクマさんの良心が、逆に辛いです……。



 それからクマさんは、私にスキル《運命式召喚術:Lv.1》の効果内容について説明してくれました。

 その内容は以下の通りです。



 1、“運命式”の名を冠するスキルは、どんな効果においても例外無く、通常とは違う大幅な効果改変が行われる。


 2、その中でも運命式召喚術は、最初の召喚時のみCOAO内に存在する全エネミーの中から完全にランダムで召喚対象が選ばれ、以降その選ばれたエネミーを自分の召喚獣として固定で使役できる。

 後の変更は不可。


 3、二体目以降の召喚獣も2と同じ方法で選択され、運命式召喚術のレベルと同じ数だけ、同時召喚できる数も増えていく。


 4、運命式召喚術での召喚・送還はコスト0、MP消費無しで行える。


 5、“運命式”を冠するスキルを所持しているプレイヤーは、そのスキル“のみ”に完全特化したステータスに強制リビルドされ、以降他の成長ルートへの道が永久に閉ざされる。


 6、要は貴方は召喚獣を召喚するだけのただの召喚装置になりますよ。

 ガチャみたいに最初から超強い奴呼べるかも知れないけど、雑魚出てきても知らないよ。

 あと、召喚装置は大人しく召喚獣の後ろに隠れて指示だけ出してね。

 自分で戦おうとして出しゃばったら100%死ぬから、それでもいいならYESを選んでね。



 以上六つの項目が、《運命式召喚術:Lv.1》の効果内容に関する説明文です。

 説明文……です……。



「私はただの召喚装置……、ワタシハ、タダノ、ショウカンソウチ……」


「主殿! お気を確かにっ!?」



 何か私のアイデンティティ全てを否定されたような、そんな絶望にも似た気分です……。


 どおりで私の能力値が全て1ゾロで統一されていた訳です。

 あの数値で戦えば、それはもう物の見事に瞬殺されてしまうことでしょう。


 ……はぁ、この先全く生き残れる気がしません。






ガチャは精神を破壊する禁断兵器(


※2019年1月25日、誤字・脱字・加筆修正

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