25、まっがーん
「それはとても素敵なお誘いなのですけど、流石にそろそろ情報収集を始めないと、本日の成果が危うい可能性が……」
冒険者ギルド前。
シーナちゃんに、『2人でもっとお喋りしよう』と言うお誘いを受けたのですが。
レガシーさん達が頑張っていらっしゃる間に、私だけが全く何もしないというは余りにも申し訳ないので、凄く魅惑的なお誘いなのですが今回は断らせていただくことにしました。
「成果が危ういって。白雪姫が全部何とかしてくれてるんだし、スズカがそこまで頑張る必要性は無いんじゃないの?」
「そう、なのかも知れませんが……。でも、やっぱり私だけが何もしないと言うのは……」
「生真面目ねぇ。甘味王子とか思いっきりサボってるだし、気にしなくてもいいのに」
「そ、その事を言われると、返す言葉が……」
私がそう言いよどんでいると、ふと、一瞬だけ視界が真っ赤に染まり―――
「―――あ」
そのまま、まるで立ち眩みが起きた時のように、ふらっと
体のバランスを崩して、その場にへたり込んでしまいました。
そして、その様子を間近で見ていたシーナちゃんが、慌てて私の元に駆け寄ります。
「ちょ、ちょっと、大丈夫?」
「えっと、大丈夫、です……?」
「なんで疑問系なのよ」
「いえ、あの……、何か急に視界が真っ赤に染まって、眩暈が起きた時のような感覚に襲われて……」
「! ちょっと目、見せて」
そう言うや否や、彼女は息のかかるような至近距離まで顔を寄せ、私の瞳をじっと見つめてきました。
しかも昨日教えてもらった《深緑眼》と言う魔眼のスキルを使っているのか、彼女の目は淡く緑色に光っています。
な、なんでしょう。ただちょっと変な風に立ち眩みしただけなのに、やけに真剣な様子でこちらを見つめています。
「……昨日もっとちゃんと視とけばよかった……」
「え?」
「はい、強制連行!」
小声で言葉を呟いたかと思えば、次の瞬間には力強い言葉と共に私を、俗に言うお姫さま抱っこ状態で素早く抱え上げ、何処かへ向かって勢いよく走り始めました。
「ちょ、ちちちょっとシーナちゃんっ!?」
「うっさいシャラップ! 強制連行って言ったんだから黙って運ばれなさい。走ってるんだから舌噛むわよ!」
口答えは許さない。と言った口調で私の抗議の声を遮られ、その今まで見た事無い迫力を持った雰囲気の前に私は、ただされるがままに彼女に運ばれていく事しか出来ませんでした。
と言うか、シーナちゃん意外と力持ちな上に、足が凄く早いのです。
そして、少しのあいだ彼女の腕の中で揺られ続けていると、今まで来た事の無い、三階建てのとても大きな洋館の前へと辿り着きした。
「えっと、ここは?」
「いの一番にこの町見捨てて逃げ出した、領主だった貴族の屋敷」
「逃げ出した……」
「でも今は誰も住んでない空き家だから、人目を避けて隠し事するにはもってこいの場所よ」
「……へ?」
私はその言葉の意味を理解できずにいると、シーナちゃんはそのままズカズカと屋敷内へを不法侵入していき、三階部分の客室と思しき一室に入り、そこに備え付けられていたベッドの上に寝かされました。
「数ヶ月放置されっぱで埃っぽいけど、ちょっと我慢してね。―――《ウィンディ》」
立派な部屋の窓を開け、何やらスキル名と思しきワードを唱え、突然部屋の中に風が巻き起こり、強制的な部屋の換気が行われました。
さ、さっきから何がなんなのか訳分かりません。
「スズカ。これから私がする事に関しては、一切他言無用でお願いね。
もしも言いふらされたりなんかすると、私がママの九割殺しスペシャルをお見舞いされる可能性があるから」
九割って、それはほぼ全殺しなのでは……?
「えっと。はい、分かりまし、た?」
「うん。信じてるからねー」
シーナちゃんは私の答えに安心した様子で微笑むと、右手を私の目の上にかざし―――
「《支配剥奪》、《寄生宿主》、《魔力操作》」
―――いきなり物騒な名前のスキルを唱えられました。
え? しはい? きせい?
なにかすっごい聞き捨てならない名称が……。
あ! ちょ、え、か、体が動きません!?
支配剥奪って、まさか肉体の支配権を剥奪するってことですか!?
「うっわ、何この完全に流れの止まった魔力。
こんな状態でよく今まで普通に生きて来れたわねぇ……」
ま、魔力ってちゃんと流れてないと生きていけないものなのですか?
え? そんな大事な物が止まっていて、私本当に大丈夫なのですか?
「あ、やっべ」
なに、ヤバいってなんですか!?
そんなやらかしてしまったかのような言い方、人の体の支配奪ってる間に溢さないでくださいっ!?
「あ、あぁ、あぁぁぁ…………」
だから何があったのですかっ!?
ちょっと今すぐ行動を中断して、支配権返して下さいいい!!
「…………」
無言なのもイヤなのですうぅぅぅうううぅぅううっ!!!??
「―――よし、完璧!」
「完璧じゃないのです。何か視界の所々に紅い物が見えまくっているのです……」
一体なんと言う事をしてくれたのでしょう。
今までたまに見える程度で気のせいだと思っていた紅い物が、今では常時そこら中にチラッチラッ見えるようになってしまったではありませんか。
しかもそれがはっきりと見える訳でもなく、まるで日本の街中のイルミネーションの如く、しきりにチッカチッカと明滅を繰り返していて、正直匠の遊び心がウザいのです……。
「いやーごめんごめん。本当は急激なレベルアップで魔眼が強制発現して暴走しないように、魔力の流れを正常に戻そうとしたんだけど。
スズカの魔力がめちゃくちゃ活きが良過ぎて、一回まわり始めたら、予想以上に活性化しすぎて止まんなくなっちゃったわ!」
「それって、私の魔力の方が暴走しているのではないのでしょうか……?」
「そうとも言うわね! ま、とりあえず下手に魔法とか使わなきゃ死にはしないし、そんなに気にしなくても大丈夫よ!」
逆を言えば、下手に魔法を使えば死にかね無い状態になっているのですか、現在の私は。
まあ、私には魔法なんて凄い物使えないのでいいのですが……。
「それよりも、私は魔眼なんて発現する可能性はないのですし、ご好意は嬉しいのですけど、魔力が流れるようにしてもらった意味は無かったかも知れません……」
「? 魔眼が発現前なのに、現在進行形で暴走しかかってるじゃない?」
「へ?」
「うん?」
あれ? んんん?
何か話が噛み合ってないような……?
「…………」
orz
何かがおかしいなぁ? と思い、シーナちゃんと色々話し合っていた結果。
どうやら私は100%の確率で魔眼を持っているらしく、このやたらと自己主張の激しい視界内の紅い明滅は、余りにも急激にレベルを上げすぎた結果に伴って発生した、一種の暴走現象だったようなのです。
「ホント早めに気付けて良かったわよ。眩暈とかの発生は中期の症状だったから結構危なかったし」
「私って、そんなに危ない状況だったのですか?」
「そりゃあもうね。末期症状なんて、一時的に視界が魔眼の種類と同じ色に染まって呼吸困難に陥っちゃうし。
それでもちゃんと対処せずにそのまま魔眼を強制発現させて、暴走して100%の出力なんか出そうものなら、頭の中ぐちゃぐちゃにかき回されたように物凄く気持ち悪くなって、発熱や幻覚とか色々起こして、ずっと嘔吐しながら死ぬような思いするわよ。
アレ、ほんっっっっっとにキツいからね?
症状治まっても一ヶ月間ずっと寝たきりで動けなくなるぐらい、とんでもない地獄見る事になるからね?」
シーナちゃんの力説っぷりが凄まじいです。
私の両肩をガッシリと掴んで、再び至近距離まで顔面を寄せながら本気の気持ちをぶつけてきています。
「その、まるで実際に体験なさったような口振りに聞こえるのですけども……?」
「私みたいに、なっちゃ、駄目よ。 ね。ね? ねっ!?」
「は、はい。肝に銘じておきま、す……?」
完全に死んだ魚の目のような濁った瞳で語られる、悲しい犠牲者の体験談なのですよ……。
「まあ、それだけ元気よく魔力が循環してれば、これ以上変な風に暴走したりはしないでしょうけど。
もしまた同じように立ち眩みとか起きたら、絶対に私に相談しなさいね。
流石にこれ以上の対処ってなると、次は奥の手使わなきゃならなくなるし」
「はい、分かりました。と言うか、今までにも色々なスキルを使っていらしたのに、その上更に奥の手なんて凄そうな物まであるのですか?」
「当然ね! 超!天!才!(に、なる予定)の私には、まだまだ隠された力が両手の指じゃちょっとだけ足りないくらいあるんだからねっ!」
『山ほど』や『星の数ほど』と言わずに、ちょっとだけ足りないと言う、その慎ましやかな自慢が可愛らしくて、私はシーナちゃんのそう言う所、大好きですよ!
……うん? あれ?
そう言えば私って、一気にレベルが上がっている事をシーナちゃんに伝えた事ありましたっけ……?
最近地球に居た頃には考えられなかったほどに、沢山の方々とお話しする機会に恵まれて、一体どの話をしたのか思い出すのが結構大変なのです。
リアルの忙しさゆえに数日間だけ休載になります。
年末の呪い(




