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22、借り宿の家主は、月夜に思う


―――《side:???》―――






「―――奴等は寝たぞ」



 夜中、家屋の屋根の上。

 例の異世界人たちが宿の自室で寝静まったのを確認し、数日前に突然現れた頭の中の同居人――サグメに声をかける。



『あ、寝た? いつも無理言って観察頼んじゃってごめんね』


「気にしなくていい。やる事も、もう無い」


『ありがとうね』


「だから、気にしなくていい」


『それでも、ありがとう!』


「だから……、もういい」



 無限に繰り返しそうなやり取りを、途中で終わらせる。


 無駄に律儀な奴だ。

 昨日、異人の執事に烈火の如く怒り狂っていた奴と、同一人物だとは到底思えない。



 ……人物、か。人ではないのだったか。

 初めに出会った時も、昨日も、神とか言っていた気がする。

 鮮明には、もう思い出せない。


 その時は多分、余り興味は無かった所為、と言うのも一因ではあると思うが。



「サグメ」


『なにー?』


「お前、本当に神なのか?」


『え”。いや、ちょ、今までワタシが言った事、ずっと信じてくれてなかったのっ!?』


「信じろ。と言う方が無理だ」


『うっ。ちょっとショックかも……』



 抗議の声を荒げた後、サグメは直ぐに落ち込んだ様子で、声のトーンが下がった。


 謝ったり、礼を言ったり、抗議したり、落ち込んだり、人の頭の中で騒がしい。



『じゃあ、最初にワタシ見て一体なんだと思ってたの?』


「逝き遅れた自縛霊」


『婚期も成仏も逃した怨霊かワタシはっ!?

 もうちょっとこう、神々しかったとかの印象無かったの!?』


「幸薄そう」


『薄幸じゃないしっ!? 幸運じゃないけど女神! 腐ってないわよっ!?』



 目の前に突然半透明の辛気臭い顔の奴が現れて、いきなり土下座して、『こっちに来れたのはいいけど、無理しすぎて消えそうなんです! 助けると思って憑依させて下さい、どうかお願いじまずぅ”ぅ”っ!!』と泣きつかれて、どうやっていい印象を持てと言うのだ。



 ……ああ、うん、思い出せた。


 もう何もする事はないし、別にいいかと思って、体を貸したんだったか。 


 補給をしないと、記憶は長く持たないと思っていたが、話していれば多少は思い出せるのか。


 なら、観察も終わって他にする事もないし、もっと話すか。


 ……なんとなく話したい、そんな気分だ。



 そう思った私は、屋根の縁に腰掛けて、楽な姿勢を取る。



「サグメ」


『なによ』


「何か話そう」


『何って、なにを?』


「なんでもいい」


『何でもいいって言われるのが、一番難しいんだけど……』


「なら、さっきは何をしていたんだ?」


『ああ、さっき? すずちゃんがCOAOの機能あんま使いこなせてなさそうだったから、あの子にもちゃんと使いやすいように、ワタシの本体経由で攻略サイト見ながら、ヘルプやスキルとかの説明文の項目をまとめて書いてるのよ』


「ねとげー?とか言う奴の事か?」


『あ。えっと、分かりやすく言ったら、スキルとかの取扱説明書を、例の黒髪の小さい女の子用に書いてるの』


「あの異人のために、わざわざそんな事をやっていたのか」



 まめと言うか、世話好きと言うか……。



「お前は、何故そこまであの異人に肩入れする。

 神だったら、人間一人程度にそこまではしないものだろう?」


『それ言われると、ちょっと耳が痛いんだけどね、あはは……』


「神様っぽくないな、お前は。

 どちらかと言えば、人間にしか思えない」


『いや、まあ、うん。それは別に、間違ってないと言うかなんと言うか……』


「? どう言う意味だ?」


『ええっと、ワタシがいた地球って世界には、八百万(やおよろず)の神って言う、どんな物にも神は宿っているって感じの思想のタイプがあってね。


 ワタシはその中でも、なんと言うか、人間から転じて神になったと言うか……。

(生前の名前が、たまたま天野(あまの) 咲芽(さぐめ)だからって理由で神に召し上げられて、やっぱ使えねって言われて万年不人気職に蹴落とされたなんて、情けなさ過ぎて正直に言えるわけないでしょ……!)』


「……聞こえないように小声で呟いたつもりなんだろうが、私の頭の中で言ったら全部丸聞こえだぞ?」


『あ”っ』


「サグメ。お前には、神、合ってないと思うぞ」


『そんな噛み合ってないに掛けてるみたいな言い方で、ワタシの存在理由否定しないでっ!!?』


「すまない。別にそんな意図で言ったわけじゃないんだ。

 ただ単純に、サグメは馬鹿正直すぎて向いてないと思っただけで」


『謝るか貶すかどっちかしてくれませんかねっ!? 惨め過ぎて泣けてきたわよ、ワタシっ!!』



 止めてくれ。体の中にいる間に泣かれると、私の目から涙が流れるんだから。



 それからサグメの気持ちが落ち着くまで、少し時間がかかった。


 本当に、騒がしい奴だ。



「サグメは、元は人間だったのだな」


『なによ。ワタシが元人間だって知って、体貸すの嫌になったの?』


「どう、だろうな。不思議と、そう言う抵抗感を感じる事は無いな」


『いきなり出てけー!って追い出されないなら、ワタシはそれだけでもありがたいけどね』


「そうか。別にサグメが望むなら、いつまでも居てくれていいんだぞ?」



 その方が、よく考えるようになって、記憶も長持ちする。


 それに、何より話し相手が居るのは、とてもいいものだ。



『そんなこと言っちゃうと、一生取り憑いちゃうわよ~?』


「それも、いいな」


『……』


「……どうした、急に黙って?」


『アンタ、弱ってるでしょ。その様子だと、もう記憶の劣化が抑えられて無いんじゃないの?』


「どうだろうな、自分では判断がし辛い」



 私はつい、誤魔化してしまった。

 サグメには、これ以上気苦労を増やしたくはないと、そう思ったから。



『……んじゃ、ちょっと待ってて。今用意するから』


「? 用意をするって、何をだ?」


『こうゆう事よ! おんどりゃああっ!!』



『―――外部からのアクセスにより、特例条件を満たしました』

『パッシブスキル《記憶術:Lv.1》を獲得しました』



 サグメのその声の後、彼女とはまた違った初めて聞く声が頭の中に響き、突然私の中に新たなスキルが宿ってしまった。


 これは、一体……?

 と言うか、なんだこれは。体がなんだか疲れて……。



「サグメ、一体何をしたんだ。いきなり疲労感に襲われたんだが……」


『ぜぇ……ぜぇ……、ああ、ダメだわ。雑魚スキル、一本生やすだけで、なけなしの、神気、全部、スッカラカンだわ……。


 とりあえず、記憶の劣化は、これで、抑えられる、はず、だから、あとは、自分で、何とかして………………マジしんど……』



 そうか。神と名乗るだけあって、過程を無視してスキルを他人に宿す事も出来たのか。



「……すまない、助かった。礼を言う」


『ワタシにかかれば、これぐらい朝飯前よ! ……ぜぇ……ぜぇ……』



 お前という奴は……。変に、素直じゃないな。



 …………?

 これは……、少し悠長に話し過ぎたか。



『とにかく! ワタシはちょー偉大な女神さまで―――』


()()が集まってきた、離れるぞ」


『は、うぇ?』


「《ディメンション・ゲート》」



 私は転移スキルを発動させ、足元に次元の裂け目を発生させ、座っていた屋根から滑り落ちるように裂け目に飛び込み、そこを通って一瞬で町の外の草原へと退避する。



『うげぇ……、次元転移するなら先に言ってよ……、うっぷ……転移酔いが……』


「無詠唱ではなかったぞ。あと、神が転移程度で酔うな」


『こればっかりはそういう体質なんだから、無茶言わないでよ……うぅ……』



 霊体にも、体質があるのか?


 まあ、そんなことはどうでもいいか。



「サグメ」


『なにぃ……?』


「本当にあの異人が、この世界を救うのか?」



 私には、ただの子供にしか見えない。


 あんな得体の知れない獣と機械人形を召喚出来たとしても、あの子供自身の中身は、何もかもが脆い人間だ。


 いつか耐え切れなくなって、壊れる。



『予言の木簡(もっかん)には、そうなるーって書いてあったわよ』


「予言、か」



 《収納術》による空間収納から、話題に上がったその木簡とか言う物を取り出す。

 見た目は、いくつもの木製の短冊の両端を紐で結んで繋ぎ、巻物のように巻いただけの物にしか見えない。


 サグメの世界では、紙が発明されるよりもずっと前の時代に使われていたらしいが。

 その木簡には、墨で書かれたと思しき角ばった文字のような物が並んでいる。



「読めない」


『安心しなさい、元日本人のワタシも読めないから。

 ホント、自動翻訳様々よね!』


「自分の国の文字なのに、自分で読めないのか?」


『そんな弥生だ飛鳥だなんて大昔の漢字、古文の成績が死滅してる私が分かる訳無いって』


「なら、この予言の木簡の信憑性は?」


『上級神共の宝物殿の中で、一番厳重に保管されてたし、多分確実?』


「確実なのに疑問系なのか」


『ワタシはなんか、未来を予言できるとか凄そうだなーと思って、思いつきでかっぱらって来ただけだから、伝承とかは知らないわよ。

 歴史の成績も絶滅してたし』


「は?」



 今、神々の宝物をかっぱらったとか言わなかったか?



『こう、今まで溜まりに溜まった日頃の怨み辛みを、ありったけの呪いに変換して宝物殿にブチ撒けたら、私以外誰も近づけないくらい場が穢れまくったからさ、ついでにちょちょっとね、くすねちゃうよねーって、うん』


「分かった」


『うん?』


「お前馬鹿だろ」


『はぁっ!? ちょ、いきなり何でどストレートな罵倒されてるの、ワタシっ!?』



 今の話を聞いて馬鹿と評さない奴は、この世に居ないと思うぞ。

 何故、他の神に喧嘩を売るような真似をしているんだ。

 仮にも同じ神とは言え、命が幾らあっても足りないだろうに。


 ……はぁ、まあ、いい。今こうやって普通に話しているという事は、きっと平気なんだろう。



「サグメ」


『ああ、もう! 確かに学力は全教科壊滅的だったけど、別に馬鹿だったわけじゃないからねっ!?』


「予言の日まで、あと1日だな」


『そう、だけ、ども! 成績、暴露、損っ!!

 ワタシのこの行き場の無いモヤモヤ感は、どうすればいいのっ!?』


「またあの執事と話す時まで、溜めておけばいいんじゃないか?」


『ああ、それいいわね! よし、そうしましょう!』



 そこで納得するのか。切り替えが早いな。



「とりあえず私は、このままあの異人の動向を観察しているだけでいいのだろう?」


『うん。下手にワタシ達が介入して、これ以上予言が捻じ曲がったりしたら、最悪みんな死んじゃうかも知れないし……』


「運命式、とか言うおかしなスキルの所為で、既にかなり予言と食い違いが発生してるんだったか」



 サグメが言うには、本来あの異人の子は、執事や機械人形とは全く別の召喚獣を呼び出し、予言に書かれた日には、余裕を持って事態を収束させていたはずだったらしい。


 結果として、今日(ようや)く余裕が生まれる程度には事を進められた様だが、既に狂ってしまっている予言を頼りに行動するのは、余り意味が無いと思うが。


 現状では、他にいい策は無いか……。



「この木簡で、もう一度新しい予言を知る事は出来ないのか?」


『一応出来るけど、再使用までには充電期間(リキャストタイム)があるから、とてもじゃないけど明後日には間に合わないわ』


「そこまで都合のいい物ではないか……」


『あとはもう、無事に解決してくれるのを祈るしかないわね……』


「いや、どちらかと言うとお前は、祈りを叶える側じゃないのか?」



 偉大な女神を自称するくらいだ、祈りくらい叶えられるだろう。



『いやいやいや。私の前任者達の時代ならともかく、現代社会でワタシに祈る奴なんてもう居ないわよ』


「もう、と言うからには、居る事にはいたのか」


『……結果的に、その子には恩を仇で返す形になっちゃったけどね』


「そうか……」



 本人は今の言い方で、誤魔化してるつもりなんだろうがな。

 隠すのが下手だ、大体誰のことか察せてしまう。


 唯一祈ってくれた人間だったから、別の世界に来てまで面倒を見ているんだろう、きっと。


 本当に律儀な奴だな……。



「……因みに、サグメは何の神様なんだ?」


『地球担当の女神様』


「だから、役割はなんなんだ?」


『地球担当の女神様』


「……お前、言うつもり無いな?」


『だぁって! ワタシの役割知ったら、絶対に体から出てけって言われるの目に見えてるし!』


「知っただけでそんな事を言う様な役割……、まさか死神か?」


『ワタシそんな命を刈り取る様な奴じゃないしっ!?』



 でも、お前のその目元の隈とかは、結構その手の雰囲気倍増させてると思うぞ、大鎌持たせやりたくなるし。



「なら他には……」


『ああもう! ワタシの役割とかどうでもいいから!

 ヘルプ作る作業があるから、私はもう引っ込むわよ。


 って言うか、もう日付も変わる時間になっちゃったし、アンタも休んだ方がいいわよ?』


「ああ、もうそんな時間か」



 サグメにそう指摘され夜空を見上げると、殆ど満月に近い状態の月が、中天に差し掛かっているところだった。


 だが、完全には満月になっている訳ではない。

 チキュウでは、この状態の月を十三夜月(じゅうさんやづき)と言うらしい。


 そこから明日の小望月(こもちづき)を経て、明後日に満月となる。



 明後日、それは予言の日。


 レーゲンの人間全員が、()()と予言された日。



 スズカと言う異人の少女は、最適解を自ら導き出す事ができるのだろうか?


 刻限は、満月が天の中心に昇り切る、その時まで。


 私は最早、傍観する事しか出来ない存在だ。

 サグメの言っていた通り、せめて上手く行くように、祈る事ぐらいはしておこう……。








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