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21、意気揚々&恐怖のりざるとたいむ


―――《side:レガシー》―――







 五日目の夜。


 現在は、討伐隊を含め全員が、そこまで広くはないギルド内にいる。

 かなり人が密集した状態ではあるが、これには理由があった。


 日中、メルシー(米粒型飛翔群体(エクスたち))による屍山血河の大量虐殺を経て、大量繁殖で草原に溢れかえっていた魔物の総数を、たった一日にして半分以下にまで減らすと言う大戦果の報を町にもたらした英雄の凱旋は、討伐隊のおかしなテンションと共に異常な熱気をギルド内に放つ結果へと行き着いた。



「「「「「()()()に、かんぱあああいっ!!」」」」」



 そんな一斉の掛け声と共にジョッキ(水)を天高く掲げていたのは、討伐隊に所属する一般冒険者達だった。


 何故、水で乾杯しているのかと?

 物流が止まっている現状で、酒が残ってるはずがありません。

 完全にノリと気分を盛り上げるためでしょう、触れてあげないのが優しさです。



 お米姫。

 それは、《玩具(エクス)》なる米粒型飛翔群体を操っていたメルシーを讃えるために、討伐隊の者達が畏怖と尊敬の念を込めて呼び始めた、お前ら頭大丈夫なのかと問いたくなる二つ名である。


 以下、その二つ名が付けられた経緯と、討伐時の皆の反応の一部がこちらになります。



『おい、なんだあの白い物体!?』

『んなもん分かるかよ。魔物の新種か何かだろ』

『ここに来て新種とかふざけ…………?』


『見て! あの白いの魔物に攻撃してるわ!』

『はあっ!? なんで魔物が魔物を攻撃して―――』

『体当たりで狼の腹ブチ抜いたあああああ!!?』


『あっちのは、光の刃出して真っ二つにしてる!』

『頭グシャったあああおおおかみいいいいいい!?』

『ってゆうか、米みたいなのの真ん中にいる人ダレ!?』


『真っ白でお姫様みたいなドレスが綺麗……』

『お前この状況で暢気だなぁっ!?』

『おい、あの姫みたいな人、さっき来た増援らしいぞ!』


『しかもあの空飛ぶ米共、あの姫様の魔導具(マジックアイテム)らしいぞ!』

『マジっ!? って言うかあの米強過ぎるだろ!』

『狼もゴブリンも全部倒されちゃって、私達の出る幕が……』


『あ、タックルボアだ』

『おい猪は流石に……、一斉に串刺したああああ!!?』

『お米すげええええええええ!!!』


『ぶっちゃけ、あの米がいれば私達いらなくない?』

『同感だ。米が最強過ぎる』

『そんな凄い米を操ってる姫様も、きっと高名な魔導師様に違いない』


『あー、米食いてー』

『真ん中に梅干みたいなのついてるし、美味そう』

『お米の姫さまー、そのご飯ちょうだーい』


『アホかお前、血のりベッタリでもうお赤飯だぞ』

『それでもいいから、肉以外が食いたい』

『コメェ……オォコォメェェ……!』


『おい馬鹿、お米に突っ込むな!』

『あああ! お米に吹っ飛ばされたあああああああ!!』

『ジョセフううううううううううっ!!?』


『あ、意外と生き残った』

『よかったジョセフううううう!!!』

『流石お米姫! 邪魔してきた奴にも手加減してくれる慈悲深さ!』


『うわーお米姫すげー、通った後が魔物の血と魔石だらけだわ』

『魔物はお米姫に任せて、私達は魔石拾おっか』

『さんせー』



 以上が、討伐時の事のあらましです。


 メルシー(米)の鬼神の如き働きを目の当たりにした冒険者たちは、何かを察したのか途中から魔石回収に専念し始めました。


 因みにメルシーのエクスたちは、最終的に最低でも1000体以上の魔物を倒したのは確実であり、一騎当千を現実にやってみせた事によって、半ば救世主のような存在としての鮮烈な印象を与えてしまった結果、お米姫なる二つ名が付いてしまったようです。


 そして、本来ならメルシーの代わりに救世主になるはずだった鎧騎士達はと言うと……。



「くっそー! 何で俺はもっと《ワイド・レンジ》のレベル上げとかなかったんだよぉ!」


「騒ぐな、みっともない。間合いも足りなければ手数も圧倒的に足りなかった。

 修行をサボっていなかったとしても、お前に勝ち目など万に一つも無かったのは明白だ」


「だったらお前はあの子より多く狩れるのかよ!」


「無論、無理だ。そもそも俺達とは畑が違う。

 剣士が魔導師に数で競うこと自体が間違いだ」


「ぐっ、そうだよなぁ……」



 途中、メルシーに触発され、負けじと全力で魔物討伐に勤しんでいた銀の鎧――名をイルシオンと言う青年が、相方である黒紫の鎧――レンブラントによる冷静な分析を以ってして諭されていた。


 教えてさしあげたい。

 メルシーは魔導具(マジックアイテム)使いではなく、本当は殴ったり蹴ったりするのが本業ですよ、と。

 本当は、本気のほの字も未だ見せていませんよ、と。


 まあ、本当に言えば私の悩みの種が増えるだけなので言いませんが。


 因みに彼らの名前は、町に帰っている最中に聞きました。


 変な熱気に包まれている冒険者達とは違い、米粒型飛翔群体(エクスたち)の異常性について意外と冷静に話し合っていたので、誤魔化すためにその会話に参入した際に意気投合。


 『あんなヤバい妹いて、お前も大変だな』とか、『気苦労は絶えないだろうが、相談ぐらいならいつでも乗ろう』など。

 そのような気遣いをして頂いた方々と、意気投合しないはずがありませんから……。



「レガシー、ちょっといいか」


「はい、どういたしましたか?」



 水で宴会を開いている冒険者達を尻目に、討伐時の指揮を取っていたチェスターが私の元にやってくる。

 何か話があるようだ。



「単刀直入に聞く、メルシーは明日以降も討伐に出れるか?」


「特に予定と言う予定もありませんので、問題無く参加できると思いますが」


「そうか。それを聞いて安心した。

 明日は人員を減らし、魔石の運搬と回収班だけで望みたい。

 それに伴って彼女の戦力を頼る事になるが、構わないか?」


「ええ、その方が効率的ですので、構いませんよ」



 実際、今日の時点でもほぼメルシー一人で対処していたも同然でしたし、それによって手持ち無沙汰になっていた方々も幾らか見受けられましたからね。



「なら決まりだな、恩に着る」 


「因みに、本人には確認を?」


「当然取りには行ったが、自分より兄に聞いた方がより的確な判断を下してくれる。と言われた」


「なるほど……」



 確かに、メルシーならば、そう言いそうな気もしますね。



「レガシーさーん」


「どうなさいましたか?」



 今度はライラさんが私の元に駆け寄り、気まずそうな表情で話を切り出しました。



「あの、今回メルシーちゃんが稼いだ魔石の精算の件なんですけどね……」


「ああ、ギルド内にある資金では支払いきれない程の量でしたか。

 暫くはこの町を離れる予定は無いので、そこまで急がなくても構いませんよ」


「うー、察しが良すぎるし申し訳ないけど、物流が再開するまで待たせちゃうと思います……」


「量が量ですから、お気になさらずに」



 物の流れが止まれば、自然と金の流れも止まりますからね。

 その上、明日も討伐に行くのです。下手をすれば2000以上の魔石の精算をする事となれば、それこそ大きな街でもない限り支払えるものでもないでしょうしね。


 思わぬ副産物ではありましたが、これで騒動終結後も主殿の生活は安泰……ですが、この考えではいけませんね。

 利益よりも、もっと主殿が優先しそうな事について意識を向けていきましょう。
















―――《side:スズカ》―――







 いつも通りのほぼ巨大肉のみの晩ご飯も食べ終え、夜も更けてきたことにより、他の宿泊客の方達も段々と寝静まってきた頃。


 私達の場合は、寝る前にもう一つだけするべき事があります。

 それは、異世界に来てからいつの間にか毎夜恒例となった、報告会(りざるとたいむ)を開く事なのです。


 ……昨日は開けてなかった気はしますが、細かい事は気にしてはいけません!



「今日も就寝前に、軽く報告会を開かせて頂くで御座る」


「はい、お兄様」

「よろしくお願いします!」



 因みに私は現在、ベッドの端に座っているメルシーの膝の上に、抱きしめられる形で座っています。

 いくら私が小柄で平均よりもだいぶ軽いとは言え、子供一人を乗せて重たくないのでしょうか?


 あ、レガシーさんは向かい側のベッドで同じく座っています。



「それじゃあまずは私から、町の中で調査した情報について報告しますね」



 その言葉を皮切りに、湧き場(スポーン・エリア)の事、緑の森の植物異常成長の事、精霊は同系色の魔眼が無いと見えず、精霊術師であるライラさんでないと会話することが出来ないない事など、今日以前にも知り得た情報も織り交ぜて、2人と情報を共有をしました。



「話を統合すると、緑の森で何かしらの異変が起こっているのは最早確定。

 一番考えられる可能性としては、森の中に湧き場(スポーン・エリア)なる魔物の発生源があり、最悪湧き場自体が複数ヶ所存在する場合もあると。


 そして、もしも魔物の繁殖と異変が繋がっていなかったとしても、森自体の調査は行った方が良さそうで御座るな」


「はい。それに、その事に加えて場所が場所ですし、大精霊さんが何かしらの形で関わっている可能性が高いと思うのです。

 ですので、出来れば大精霊さんと接触して、直接お話を伺う事が出来れば、色々な事が分かるかも知れません」


「良くも悪くも、原因と思しき舞台の中心となる存在。

 それがもしも可能ならば、一番確実な手段で御座ろうな。


 ただそうなると、常人にとって精霊は“見えず、話せない存在”と言う特性が問題になってきますね。

 大精霊と言われるほどです、そういった問題点は通常の精霊と同じく存在してもおかしくはありません」


「ですよ、ね。だとしたら、いざと言う時はライラさんとシーナちゃんにご協力してもらう事になってしまいそうです、よね……」


「そうですね。そうなった場合は、出来うる限りの安全性の確保のために、討伐隊の方達と綿密な打ち合わせを行い、万全の警護体制を取らせていただきます」


「その時は、よろしくお願いします……」



 そう言いながら、私はレガシーさんに向かって深くお辞儀をしました。


 出来れば、誰も危険な場所に行ってほしくはないのですけども。

 でも、そう言って目を背けているだけでは前に進めないですし、仕方が無い事なんですよね……。


 結局のところ、誰かに頼ることしか出来ない自分の無力さが、とても歯痒いです……。



「妹様、大丈夫ですよ」


「メルシー……」



 メルシーは、私が落ち込んでいる事を察してくれたのか、気持ちを慰めてくれるかのように、優しく包み込むように抱きしめてくれました。



「妹様を困らせる悪い方達は、私がみんな、やっつけて見せますから」


「あ、あの、メルシー? お気持ちはとても嬉しいのですけど、で、出来れば、余り頑張り過ぎないでくださいね……?」



 僅かな微笑みを携えながらも、そんな頼もしい言葉を告げてくれた彼女でしたが……。

 私の中の何かが叫んでいるのです、『メルシーを暴れさせたら絶対にヤバい』と。



「そ、そうです! 今日はいっぱいレベルが上がりましたし、全員でステータスの確認をし合いましょう!」



 露骨過ぎる話題変換。

 途轍もなく強引な流れでしたが、時にはこう言った強行手段も必要なのです!


 そう自分に無理矢理言い聞かせながらも、まずは言いだしっぺの私からステータスを表示させます。


 とは言っても、私のステータスは大して変わっていないと思いますが。




名前:スズカ

性別:女性

年齢:12歳


固体:フェアリー

種族:妖精種


Lv:3 → 7

職業:召喚術士


HP:05/05

MP:15 → 25/35(20)


筋力:01

頑強:01

体力:01

知力:03 → 07(4)

精神:03 → 07(4)

器用:03 → 07(4)

抵抗:01

幸運:01


エクストラスキル

《飛翔》《人化》


パッシブスキル

《運命式召喚術:Lv.2》


アクティブスキル

《召喚》《送還》


称号

《運命を手繰り寄せる者》《疫病神に殺された少女》

《単純作業が好きな人》




 ……なにか称号が増えていますね。


 確かに私は、色々な事を忘れられるので単純作業は好きですけども。

 それに気のせいか、何か変わっているような気がするのですけど……。


 うーん、どうでしたっけ。

 余り気にしていなかったのでよく覚えていません。



「まあ、私のステータスは変わり映えがしませんよねー。

 それよりも、レガシーさんのステータスはどうなりましたか?」


「はい。某のステータスはこの様になりました」




名前:レガシー

性別:オス

年齢:不明


固体:ロイヤルバトラー・ベア

種族:魔獣種


Lv:3 → 7

職業:王宮付き執事長


HP:155 → 164/250(95)

MP:105 → 24/160 (55)


筋力:19 → 30(11)

頑強:17 → 25(8)

体力:31 → 50(19)

知力:21 → 32(11)

精神:19 → 26(7)

器用:32 → 57(25)

抵抗:16 → 22(6)

幸運:11 → 16(5)


エクストラスキル

《人化》《王宮式執務術》


パッシブスキル

《格闘術:Lv.2》《刀術:Lv.2》《忍術:Lv.2》

《鑑定術:Lv.3》《収納術:Lv.2》《料理術:Lv.2》

《錬金術:Lv.1》《調合術:Lv.1》《裁縫術:Lv.1》


アクティブスキル

《爪撃:Lv.2》《投擲:Lv.2》《疾走:Lv.3》


称号

《獣の執事》《忍熊》《ワーカーホリックマ》

《苦労人》




「おぉ、いっぱい能力値が上がっています。特にHPや体力と器用の数値が凄いのです」


「前にも説明しました通り、某は生産職ビルドですので。

 長時間の作業にも耐え、精密な作業もこなせる様に体力と器用特化の成長になっています」


「なるほど。流石は《ワーカーホリックマ》……」


「くぅぅ……っ!!」



 泣いてます。

 目頭を押さえながら、天を仰いで男泣きしてらっしゃいます……。


 《忍熊》に次いで、新たなる悲劇がここに生み出されてしまったようです。

 ゲームシステムさんにすら《苦労人》と言われてしまうほどの重責。

 それを彼一人に背負わせてしまった私達の罪は、とても重いのです……!



「……さて、最後はメルシーの番ですね」


「で、御座るな」



 ええ、ここまでは前座みたいなものでしたから。


 本当に知りたかったのは、メルシーのステータスなのです。

 それは多分、レガシーさんも同じだったと思います。


 果たして、メルシーのステータスは一体どう言った変わり様をして……って、ちょ、メルシーさん!?

 そんな無言でいきなりステータス表示しないでください!

 私まだ心の準備がっ!?





名前:メルシー

性別:女性型

年齢:ナイショです。


固体:《玩具(エクス)》《人形(マーキナー)

種族:神性・唯一種


Lv:2 → 7

職業:主人に愛でられるお仕事


HP:55 → 55/125(70)

MP:05 → 05/20 (15)


筋力:36 → 72(36)

頑強:08 → 18(10)

体力:11 → 25(14)

知力:01 → 04(3)

精神:01

器用:01

抵抗:00

幸運:《ERROR》


ユニークスキル

《暴力術:Lv.2》

禁忌領域(スカートの中)

《???》

《???》

《???》


エクストラスキル

夏炉冬扇(かろとうせん)

行雲流水(こううんりゅうすい)

明鏡止水(めいきょうしすい)


パッシブスキル

《強化術:Lv.2》《狂化術:Lv.2》《凶化術:Lv.2》

《怪力乱神:Lv.2》《バーサーク:Lv.2》《精神崩壊:Lv.2》

《記憶術:Lv.2》《修復術:Lv.2》《遊戯術:Lv.2》


アクティブスキル

《ハイ・パワー》

《殴る》《蹴る》《頭突き》

《握り潰す》《捻り潰す》《叩き潰す》

《殴り飛ばす》《蹴り飛ばす》《投げ飛ばす》


称号

《鮮血人形》《壊れない機械》《狂神》

《エルダーアーク》《ステゴロ最強》

《皆殺し》《神殺し》《ハメ殺し》

《記憶喪失》《天然deアホの子》《お米姫》

《自分で暴れたいお年頃》《我慢の出来る良い子》







「…………あの………………、もう、寝ましょうか……」


「そう、で……、御座るな……」


「おやすみなさい、お兄様、妹様」



 うん、大丈夫。


 私、今メルシーに抱きしめられながら寝ていますけど、メルシーは我慢の出来る良い子ですから、何の問題もありません。


 ちょっと筋力の上昇値が6固定で、最初の頃の倍以上の数値ですが、暴れたいお年頃でも我慢の出来る子なのですから。


 だから、メルシーはただの優しい良い子なのです。

 朝になったら、私が圧殺されていた。なんてことは、無いはずなのです……、多分……、恐らく……、きっと…………。





 ガクガクブルブル……。







お米のお姫様は、すくすくと育っていらっしゃるご様子です(

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