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20、小さな事からこつこつと


―――《side:スズカ》―――







 五日目、12時過ぎ。


 ゼパルドさんの薬屋さんin調合室de薬研挽き。


 この五日の間で毎日変わらずに薬研を挽きながらも、今日はいつもと少し違って、作業をしながらゼパルドさんから緑の森について話を伺い、しっかりと情報収集です。



「緑の森は、緑の大精霊が住まうだけあって、植物の育ちが他よりもかなり早い。

 それに種類も多岐に渡っとるからのう、ワシみたいな薬を扱うもんにとっては、天然の薬草園みたいなもんじゃな。

 お前さんが挽いとる深緑草も、緑の森の恩恵の一つであるしのう」


「確か、緑の精霊さんが多い場所に群生する薬草でしたよね。

 あれ、でも緑の森って今は魔物さんが凄くいっぱいいるんじゃ……?」


「今はそうなってしまったのう、忌々しい。

 前はワシもよく採取に出かけておったが、魔物が蔓延っとる現状じゃ、採取に関しては完全にチェスター頼みになっとる」



 おや、またしてもまだ見ぬ狩猟小屋の主、チェスターさんのお名前が出てきましたね。



「そのチェスターさんという方は、どういった方なのですか?

 ライラさんに聞いた話では、狩猟小屋の管理人さんで、今は討伐隊の指揮を担っている方だと伺いましたが」


「ああ、アイツか。アイツは一言で言えば、化物じゃな」


「ば、ばけ……?」


「魔物の討伐をこなしながら、物のついでと言わんばかりに緑の森に単身突っ込んで、大量の薬草を積んで毎日無傷で帰ってきとる。

 しかも疲れた様子が一切見えんしのう」


「凄いですね、チェスターさん……。

 疲れていないように見えるのは、痩せ我慢とかでしょうか?」


「ライラを見とれば分かるじゃろ。痩せ我慢じゃ数ヶ月も保たせるにも限度っちゅうもんがある。

 特に討伐なんて命のやり取りをしとるんじゃ、いくら遠距離から狙撃に徹しとるとは言え、無理して無事にこなせるほど戦闘は甘いもんじゃない。


 だからこそ、アイツは本当に疲れもせず続けておるし、そんな奴は化物と言うのが一番しっくり来るんじゃわい」


「な、なるほど……」



 確かに、言い方は悪くなってしまいますが、ゼパルドさんがチェスターさんを化物と称するのも、分からなくない気がします。


 と言うか、やっぱりライラさんって相当無理をなさっていたんですね。

 凄く心配です……。



「あとは、緑の森に関して他に知っている事などは、ありませんでしょうか?」


「他は特に無いのう。採取目的以外であの森に立ち入った事もない。

 知ってても後は、何処にどんな植物が自生してるかくらいじゃな」


「そうですか……。色々教えていただいて、ありがとうございましたです」



 残念ですが、ゼパルドさんからは余り有力な情報は得られることが出来ませんでした。


 でも、情報収集はまだまだ始まったばかりです。

 気を取り直して、次の場所に期待いたしましょう。



『―――経験値が一定値に達しました。レベルアップしました』



 あ、そんな事を言っている内に、レベルが上がりました。


 どうやらレガシーさんもメルシーもいっぱい頑張られているようですし、私もお2人に負けないよう頑張ります!









 それから私は薬屋さんでの作業を終え、次の作業場である狩猟小屋へ向かっている最中―――



「―――?」



 視界の端に、何か紅い物が映りこんだ気がして、私はそこで進めていた歩を止め、無意識にその紅い物を探して辺りを見回していました。



「急にどうしたの?」


「えっと、何か紅い物が見えた気がして……」


「紅い物?」



 ライラさんもその言葉を聞いて一緒になって辺りを見回しますが、結局何も見つかる事はありませんでした。



「紅い物なんて、何も無いみたいだけど……」


「そう、ですね……?」


「気のせいだったのかもね」


「そうだったのかも知れませんね、すみませんでした」


「気にしない気にしない、私も時々そういう事あるし」



 一体なんだったのでしょう。

 確か、前にも何か紅い物が見えた事があったような気が……?









「シーナちゃーん、今日も来たよー」



 薬草の仕分けは特に何事も無く作業が終了し、次の目的地、木工店に到着。

 ライラさんの挨拶の声が店内に響きます。



「……」



 響くだけで何の反応も返ってこない無人の店内、と思いきや、会計カウンター越しに無言でこちらを見つめる深緑の双眸を発見。

 目線がギリギリ通るラインで、シーナちゃんの綺麗な金髪の頭がひょっこり出ています。



「そんな場所に隠れてどうしたのですか、シーナちゃん」


「……昨日の白雪姫はいないの?」


「白雪姫……、メルシーの事ですか?

 今日は、外に魔物を討伐しに行かれましたよ」



 白雪のように白いお姫様みたい衣装。だから白雪姫でしょうか?

 異世界で童話の方の白雪姫の名前が出るわけも無いですし、多分そういった意味なのでしょうね。

 確かに白雪のように真っ白ですし。



「そう、ならいいわ。って言うか、あの白雪姫戦えるの!?」


「はい、戦える人ですよ」



 それも多分、物凄い次元で。


 何せ、ちょっと気になって移動中にログと言われる、戦闘やシステム情報の履歴的なものを表示するウインドウを覗いて見ましたら、『メルシーが〇〇を撃破しました』と言う文章が、縦にずらーーーーーっと大量に並んでいましたから……。


 既に数百体規模で魔物さんを駆逐していらっしゃるようです。

 皆殺しの称号は、伊達ではありませんでした……ガクブル。



『―――経験値が一定値に達しました。レベルアップしました』



 あ、またレベルが上がりました、とても早いのです。


 これで私は、現在レベル6に上がりました。

 能力値はレベル1に付き、知力・精神・器用の三つが1ずつ上昇して行ってます。


 この調子で行けば、私でも能力値が二桁台になれるかも知れません!





 そして、肝心要の緑の森の情報についてなのですが。



「今パパに会っても意味無いわね。

 怪我がよくなってきたからって脱走しようとしたのがママにバレて、さっき裸締め(チョーク・スリーパー)キメられて落とされたばっかりだから」



 パパさんもママさんも何を為さっているのですか。

 そんな肉体言語的な家族の触れ合いは止めてあげてください。



「って言うか、森の話が知りたいなら私が答えるわよ?

 この前スズカに聞かれた後、私も気になってパパにサソリ固めキメて、何で森に行ってるのか吐かせたからね!」


「あの、話は是非伺いたいですけど、出来ればもうちょっとパパさんを労わってあげてください……」


「労わるのは無理ね! だって森に行ってる理由が、いい加減肉生活飽きたからキノコとか野草採りに行きたかった。だから自業自得だし」



 あ、うん。

 ちょっとパパさんに同情する気持ちが薄れてきました。


 確かに私も、毎食出てくる巨大肉を頬張る生活にちょっと胸焼け気味ですが、それで大怪我してまで採取しに行かないでください……。



「それで、現在の森の様子はどのような状況なのでしょうか?」


「えっとね、なんか最近の森は色んな種類の植物が雑草並みにそこら中に生えてて、見た目的には未開の秘境かってぐらいに草木がボーボーに生い茂ってるらしいわ」


「緑の森は、昔からそんなにも自然豊かな場所だったのですか?」


「豊かと言えば豊かだったけど、少なくとも昔に私が修行で放っぽられた時には、そこまで凄くは無かったわね。

 緑の大精霊さまになんかあったんじゃない?」



 地味に修行で放っぽられたと言うワードが気になりますが、大精霊さまに何かがあったですか……。



「もし仮に大精霊さまに何かあったとしたら、シーナちゃんなら原因はどんな事だと思いますか?」


「原因ねぇ……。魔物に噛まれたからブチ切れて、緑パワーで大暴れしたから余波で草生えたとか?」


「大精霊さま、アグレッシブ過ぎませんか……?」


「うーん、そう言われても流石に大精霊さまには会えた事無いから、どんな存在か分からないからねぇ。

 普通の精霊ならそこら辺にいっぱいいるけど」



 そう言ってシーナちゃんは手に持っていた道具を置き、作業場の天井辺りの空中を指差しました。



「え、精霊さんがそこにいらっしゃるのですか?

 と言うよりも、シーナちゃんには見えているのですか?」


「うん。私“魔眼”持ちだから」


「ま、まがん……?」



 なんでしょう、また私の知らない用語が出てきました。



「ほら、スズカにも分かりやすいようにちょっと強めに発動させるから、私の目を見てみて」



 そう言われて、私は彼女の深い緑色の瞳を見つめました。

 すると、シーナちゃんの瞳が緑色の淡い光を発し始めました。


 え、目が光ってます!?



「私のは《深緑眼(しんりょくがん)》って言うスキルで、自然の力や風の流れとかが目で見える魔眼ね。

 あと緑の精霊も見えるわ、同じ色だし」


「魔眼と言うのは、スキルの一種なのですか?」


「そうそう。私もあんまり詳しいわけじゃないけど、魔眼持ちの人は目に魔力を流すと、その瞳の色に応じて色んな物が見えるのよ。


 スズカが魔眼を発現させたら、私にも見せてちょうだいね。

 私も全部の魔眼知ってる訳じゃないし、他の魔眼はどんなのかって結構気になるもの」


「発現させられたらいいのですけどネー……」



 いいなー、私も見てみたいなー。と言う気持ちで話を聞いていたら、気の抜けた返事をしてしまいました。


 でも、精霊さんが見えるスキルがあるのなら、私もちょっと欲しいのです。

 この世界の人間ではない私には、叶わない望みかも知れませんが、心の中で憧れるぐらいはいいですよね。



「まあとりあえずはレベル上げる事ね。

 魔眼持ちなら、レベルさえ上げればその内勝手に魔眼の方から発現してくれるもの」


「日々の積み重ねが大事なのですね」


「そゆこと。スズカも冒険者なんだし、クエストをこなしてたら嫌でも上がるんだから、気長に待ってればいいのよ」


「はい!」



 私の頭をぽんぽんと、軽く撫でるように叩いて私を励ましてくれるシーナちゃんの姿は、彼女がそう望んでいたように本当にお姉さんのような優しさを感じられました。


 そして後になって思い返してみると、この時の私とシーナちゃんとの会話内容は、色々とかみ合わない点があったなーと思うわけで。



『―――経験値が一定値に達しました。レベルアップしました』



 全く自重しないメルシーの魔物大虐殺が原因で、私はとても近い未来に、この時の会話の思い違いを自覚する事になるのでした……。









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