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1、初めての召喚獣さん



 どうしましょう、どうしましょう。


 ゲームをやった事がない私でさえ分かるほどに、能力値が最低値です。貧弱です。

 これでは魔物どころか、風が吹いて吹き飛ばされただけで死んでしまいそうです。

 これは早急に対策を立てないと命が、命が……!



「え、えっと。なにか対策になるものは……」



 転生早々に訪れた大ピンチに慌てふためきながらも、何かやれる事はないかと自身のステータス画面を見ながら模索します。


 ……あ、そうです。スキルです、スキルの存在がありました!


 スキルというのは、確かそのキャラクターが使える特技のようなもの。と説明書には書いてありました。

 そのスキルさえ使えれば、貧弱な私でもこの局面を乗り切れるかも知れません!


 えっと、それで私は一体どんなスキルが使えるのでしょうか……?



 エクストラスキル

 《飛翔》《人化》


 パッシブスキル

 《運命式召喚術:Lv.1》


 アクティブスキル

 《召喚》《送還》



 スキルはいくつかあるようですが、この《召喚》というのを使えば何かをここに呼び出せるのでしょうか?

 パッシブスキルという欄に、《運命式召喚術:Lv.1》なるスキルがありますし、職業も召喚術士でした。

 きっと私のキャラは召喚術士として強力な味方を召喚し、魔物さんたちを倒していく戦闘スタイルに違いありませんね!


 それでは、できる事も分かった訳ですし、善は急げです。

 若干アルプス風味な平原真っ只中に一人で居ては、魔物さんに襲われかねないですし。

 早速味方を召喚してみましょう。

 説明書には確か、アクティブスキルの名前を唱えれば発動できると書いてありましたね。



「……では、《召喚》!」



 私が両手を前にかざしスキル名を唱えると、地面に大きな虹色の魔法陣が現れ、そのまま陣を囲むように円柱状の光が溢れ出し、視界が真っ白に染まっていきます。


 そしてしばらくすると光は段々と収まっていき、魔方陣の中にさっきまでは居なかった大きな物陰がその姿を現してきました。


 こ、これは、召喚成功なのでしょうか。

 一体どんな方が来て下さったのでしょう……?






「―――召喚に応じ参上致しました。某はロイヤルバトラー・ベアで御座ります。

 念のため確認を行いますが、貴殿が(それがし)の主様に相違無いで御座りましょうか?」


「……そ、それがし?」



 クマさんです。


 3メートル級のとても大きな体に合わせて作られた燕尾服をまとった、真っ白な体毛がモフモフのクマさんがそこにいました。


 しかも口調が変です。

 それがしです。ござるです。

 声もかなり低くてハスキーなボイスです。



「……くっ! やはりクマが執事でゴザル口調なんて、ニッチ受けが過ぎる設定だったので御座るよ、運営ぇ!!」



 私の反応が芳しくなかったせいか、クマさんが突然苦々しい表情をしながらその大きなおててを握り締め(指が短くて握れてない)、虚空に向かって何かを叫びだしました。



「大体こんな3メートル級の巨体引っさげて奉仕活動に従事できると思うのがそもそもの間違いで御座るからして……」



 いけない。

 このままでは運営さんへの設定駄目出しに集中されてしまって、危機的状況下を脱出する術がなくなりかねません。

 ここは何とかして意識をこちらへと向けませんと……。



「……あ、あの……」


「―――ハッ! 某としたところが、危うく日頃の鬱憤に意識を占領されるところで御座った……。

 主殿、申し訳御座いませんでした」



 く、クマさんが即座に土下座をしてきました。

 とても見事な平身低頭、フォームが綺麗です。



「い、いえ、お気になさらずに……。

 って、そうでした。それよりもピンチなんです! どうか助けてください!」


「はい? いえ、当然主殿の危機とあらば、その万難を排するのが従者たる某の務めでは御座りまするが……」



 再び百聞は一見にしかず、です。

 私の突然の申し出にクマさんに対し、女神様から送られてきたメール文章を見せます。





「―――な、なんですとぉぉぉぉぉおおおおおおおおっっ!!??」



 大音量です。

 まさに絶叫とも言うべき壮絶なクマさんボイスに、妖精となった小さな私は咆哮だけで吹き飛んでしまいそうでした。



「あ、主殿! このメールに書かれていることは、まことで御座いますか!?」


「多分、本当の事だと思います。

メニュー画面のログアウト表記が灰色になっていて選べないようですし……」



 今も表示されたままの仮想ウインドウのログアウトの項目を見ながら、私はそう答えました。



「いや、そんなまさか……。そんな事がありえるので御座るか?

 ……そういえば、本来で御座れば制限されているゲーム外知識へのメタ発言が出来たのは、AIの枠組みから一固体の生命へ進化が成されたことによる制限解除が原因なのでは……」



 なにやらクマさんも思い当たる事があるのか、難しそうな言葉を呟きながら自問自答にふけっていました。


 マズいです。

 このままではまたもや現状からの脱却が遠退いてしまいそうです。

 今はまだ周囲に他の魔物は居ないので大丈夫で―――



―――ガサガサッ!



 ……今、奥の草むらからガサガサとゆう物音……が……?



「く、クマさん、クマさん大変です!」


「は、はい! 一体どうしたので御座りましょうか、主殿」


「向こう側の草むらで今、何か物音がして……」


「―――! 主殿、某の後ろに下がって背に捕まっていてくだされ」



 クマさんがバッ!と私を庇うように素早く前に二本足で立ち、問題の草むらを注意深く睨みつけます。


 クマさんかっこいいです。

 まるで絵本に出てくる騎士様のような立ち居振る舞いです。

 そしてクマさんの指示通り背中に捕まりましたが、襟元から上に広がるモコモコとした白い体毛がとてつもなくふわふわで……。


 うん、後でクマさんにお願いしてこのモフモフ天国にダイブさせていただきましょう。



―――ガサガサッ、ガサガサッ!



 再びの物音。

 今度はクマさんもしっかりと聞き取ったようで、警戒度が更に上がります。


 そして草むらの物音は更に大きくなり、その中から音の主が姿を現しました。

 その正体は、鋭い牙を生やした茶色い体毛のオオカミさん()()でした。


 そうです、複数形です。

 草むらの中からぞろぞろと姿を現すオオカミさんたち。

 その数は合計5匹にも及び、群れを成したオオカミさんたちは私たちを襲うつもりなのか、鋭い眼光を向けながらグルルゥと低い唸り声を上げて威嚇してきます。


 どうしましょう、あのオオカミさんたちは件の魔物という存在なのでしょうか?


 もしそうだとしたら、私なんかでは到底太刀打ちなんて出来そうにもありません。

 頼みの綱と言えば、私の前で身代わりとなって相対しているクマさんただ一頭だけです。


 いくらクマさんがとても大きな体躯を有しているからと言って、オオカミさんも一匹一匹が大型犬並みの体を持っています。

 それに5匹の群れとゆう数の優位性も加われば、クマさんも怪我をしてしまう可能性が……。



「―――主殿」


「は、はい」


「しっかりと捕まっていて下され」


「はい!」



 数の暴力とゆう危機的状況下に不安を抱いていた私。

 それを気遣ってくれたのか、クマさんは力強い口調で再度指示を出してくれました。


 ジリジリと迫り来るオオカミさんたちの群れ。

 相対するクマさんはゆっくりと前傾姿勢を取り、二つの陣営の戦いが今始まろうとして―――






「―――逃げます」


「はい! ………………はい?」


「とうっ!」


「きゃあっ!?」



 クマさんの突然の跳躍。


 その唐突な行為に私は思わず悲鳴を上げながらも、猛スピードで疾走するクマさんの背に必死に掴まっていました。


 え、なんですか。

 一体どうゆうことなんですか?



「く、クマさ……うにゅうううぅ……!」


「主殿! 走っている最中に話されると舌を噛みますぞ!」



 クマさんが言う事はもっともでした。


 その巨大な体躯に似合わず疾走するスピードは、まさに自動車の如く。

 実際に何十キロ出ているのかも分からないような恐るべき速さの前に、すぐに私たちを追いかけ始めていたオオカミさんたちの群れは、見る見るうちに遠くの方へとその姿を小さくなっていきました。


 そしてそんな爆走クマさんの背に掴まっている私は、全身に暴風を浴びながら命がけで筋力1の握力に全身系を集中させています。


 た、助けてください!


 暴風の寒さと落下死の恐怖に身を晒されて死にそうです。

 魔物に襲われる前に、自分の召喚獣に殺されてしまいそうです……!?







※2019年1月25日、誤字・脱字・加筆修正

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