幕間、ロイヤルな執事さんの、お仕事風景(ゲーム内仕様検証編)
多分、主人公より主人公してるかも知れません(
どうも、私はロイヤルバトラー・ベア改めまして、レガシーと申します。
どうか今後とも、お見知りおきを。
私は生態固体名が示す通り、COAO内では王宮付きの執事長。とゆう設定の下に作られました。
AIもその設定専用に組まれております。
はい?「執事長ならバトラー・レングスじゃないのか」
「ゴザる口調とかどこへ行ったのか」ですか?
知りません。
それはCOAOの開発陣が勝手に付けた設定ですので。抗議の類は全てそちらにお問い合わせ下さい。
口調に関しては、これでも普段から、異常な強制力のある言語プログラムに全力で抗っているので、なるべく触れないでください……。
そもそも、「なんとなく面白そうだから」とゆう理由で、忍者設定を後からブッ込んでくる変人の集団ですから、深く考えるだけ無駄です。
……いけませね、別に運営共への愚痴は関係はありませんでしたね。すみません。
今回は、私が主殿と別行動でクエストをこなしていた内容について、少し触れて行きたいと思います。
まあ、ですが、仕事事態には特にこれと言って面白い事はありませんでした。
なので、触れる内容などにつきましては、作業内容に支障が出ない範囲で行った、『COAO内の仕様がどこまで現実に反映されてるか、その検証結果について』それら一部分を語りましょう。
……本当は全て説明したいのですが、何か形容しがたい謎の思念が届いて、必死に『それだけはやめて、マジでやめて!』と懇願された気がしたので、今回は控えさせていただきます。
受けたクエスト内容は、主に力仕事。
あとはこっそりと、あまり女性が好みそうにもない、汚れる清掃系統なども、こちら側で受け持っておきました。
成人していらっしゃりそうなライラさんはともかく、我が主、スズカ様には少々キツい物が御座いましょうから。
具体的な仕事内容としましては、まず初めは町の中で使う木材。そのための木の伐採作業でした。
端的に言います。
木を、爪で伐採しました。
そして、問題無く伐れました。
この検証について説明しますと、COAO内では、プレイヤーや召喚獣などによる攻撃では、マップ内に配置された木や岩などのオブジェクトを傷つける事は出来ませんでした。
生産職の木工士が使用する木材の入手方法としては、専用の採取アイテム――この場合は伐採斧ですね。それを使用する事で、初めて手に入れることが出来ます。
まあ、その場合でも、採取ポイントである木のオブジェクト自体は伐り倒せませんでしたが。
あくまでも、「伐採斧を使って木を伐り倒し、木材を入手しましたよ」という、一種のゲーム的な表現ですね。
ですが、私の場合は爪で。
正確には、自前の攻撃用スキル、《爪撃:Lv.1》を発動させて、です。
流石にスキルも私自身もレベル1ですので、威力の関係上一撃で。とはいきませんでしたが。
それでも5回の発動で伐れましたし、まあ先ず先ずの威力。と言ったところでしょうか。
この検証で得られた情報は、『全てがCOAOの仕様そのままではない』ですね。
完全にCOAOの仕様を再現したのなら、爪で木を伐り倒すなんて荒業、土台無理な話ですからね。
ここら辺は現実要素に則して、ゲームの攻撃でも傷付けられれば何れ耐え切れずに崩壊する。そう言ったマイナーチェンジが施されているようです。
あとは、細かいことを言うならば。スキル発動の仕様にも変化があるようです。
《爪撃》は本来、魔物専用スキルなので、人間の身では使えないのですが、こちらの世界では使えました。
因みにCOAOでは元が魔物でも、《人化》などの変身系スキルを使用中は、変身した姿の種族の仕様に準拠します。
私が《爪撃》を発動させた時は、指・掌・腕の順で異様に筋肉が発達し、肝心の爪に関しては、ほぼ完全に魔獣状態と遜色ない鋭さと硬さへ変容していました。
その時だけは、もはや手だけ悪魔のような化物状態と化してましたね。
そういえば、開発陣が熱心に読んでた某狩人漫画で、暗殺一家の息子さんが肉体操作をして手だけを変質させる。とゆう場面があったような。
アレと似たような原理なのでしょうか?
まあ、問題無く使えればどちらでもいいですが。
攻撃関連の検証は、これくらいでしょうかね。
あとは、伐った木材を荷車で運ぶ際、敢えて無駄に疲れやすいよう全力で移動し、スタミナ関連の検証も行いましたかね。
結果は、普通に走れば普通に疲れ、移動補助スキル《疾走》を発動させれば、スキル効果時間内は疲れませんでした。
《疾走》の効果は、そのまま『走る行為でのスタミナ低下を、一定時間無効にする』なので、これはCOAO内の仕様そのままでしたね。
一応念のために試しましたが、“走る行為”以外の行動では、通常通り疲労を感じました。
まあ、当然と言えば当然でしょう。
これで主立った検証については語りましたかね。
他の事に付きましては、主殿が必要とした時、その都度ご説明いたしましょう。
……ああ、そう言えば。
一つだけ、検証とは関係ない、予定外の些末事がありました。
最後はそれを語って、終わりと致しましょう。
あれは、確か。
最初の伐採クエストの最中。でしたかね。
採林場の近くを、魔物対策で警邏中の、冒険者と思しき集団が通りかかった際に、絡まれてしまったんですよね……。
「おい、そこの兄ちゃん」
「……? はい、私のことでしょうか」
冒険者の集団から一人、粗野な風体の中年男が唐突に声をかけて来られたので、私は忌々しきゴザるプログラムに抗いながらも、受け答えます。
……一応、試しておきますか。
「そんな綺麗なおべべ着ながら木こりの真似事して、ずいぶんと変なヤツだぁな?」
おべべ……?
確か何処かの方言か何かで、「着物」とゆう意味の言葉でしたか。
きっとこの場合、「高そうな服」という意味で使ったのでしょうが、何故異世界で日本の方言が……。
いや、そもそも我々が異世界で普通に言葉を理解していること事態が不可解ですし、これはもしやCOAO内にあった多国語自動翻訳機能のオプションが活きているとゆうことでは?
「おい、こら! 無視してんじゃねぇよ優男!」
私が方言や翻訳について思考を重ねていると、中年冒険者は無視されたと思い込んだようで、明らかに不愉快そうに態度を荒げている。
「何でしょうか。私は見ての通り仕事の最中なので、特に用向きが無いのでしたら、どうぞお引取りください」
「あぁ!? 用ならあるに決まってんだろ!
オメェがここで暢気に木ぃ伐ってられんのも、俺ら冒険者が魔物を狩ってやってるお陰なんだ。
……なぁ、それなら分かんだろ?」
男は親指と人差し指で円を作り、下卑た表情でその手を私の前に差し出す。
……ああ、そうゆう手合いですか。
まさか、採林場に足を運んでまで金をせびりに来る、そんな物好きがいるとは思いませんでしたので、察するのが遅れました。
開発陣も、「異世界に飛ばされたら、先輩冒険者に絡まれるのは強制フラグだよなぁー!」とか、泥酔した状態で叫んでフラグ管理していましたが、これもそれですか。
「大人しく渡すもん渡しておいた方が、身のためだぜ?」
……そんなフラグは迷惑極まりないですし、立ち切る前に折りますか。
「なんたってオレ様はなぁ、ランクC―――」
「―――ちょっと失礼」
男の長ったらしい減らず口を断りを入れて遮り、差し出された腕を掴み、捻り上げ―――
「《投擲》」
―――スキル発動に因る補助を加えながら、男の体を力任せに天高く真上へ放り投げる。
―――ベギッ!
「ぐぎゃぅわあああぁぁぁaa…………!!??」
投げる途中、投擲時の力と男の全体重が肩にかかり、嫌な音を立てながら絶叫と共に空中を舞う。
……このまま地面に落とせば、死んでしまいますか。
流石にそれは可哀想でしょうし、助けます、か。
「…………aaぁぁぁああああ”あ”あ”あ”あ”―――」
「―――《投擲》」
星の引力に引っ張られ、加速がついた状態で空中から落下し地面に激突する直前。
まだ折れずに残り、バタバタと無意味に動かし足掻いていたもう一方の腕を掴み取り。
そのまま体全身を使い、ジャイアントスイングの要領で回転しながら、落下と、遠心力と、もう一度発動させた投擲の力が貯まった男の体を、唖然と立ち尽くす冒険者達の下めがけて解き放つ。
―――ボギッ!!
今ならオマケでもう一本。
「「「うぎゃあ!?」」」
歓迎から送迎に至るまで、腕折り投擲ワンセットを私からプレゼントされた男は、仲間の冒険者たちをボウリングのピンのように弾き飛ばす。
しかし、それでも勢いを殺し切れず、ボロ布の如く地面を転がってゆく男の姿は、無残そのものでした。
まあ、これぐらいやっておけば、フラグも折れたでしょう。
「では、私はまだ仕事が残っていますので、失礼します」
冒険者たちが反応を返す前に、私はその場からそそくさと立ち去りました。
『PvP戦にて勝利しました。経験値を獲得しました。』
『経験値が一定値を超えました。レベルアップしました』
「あっ」
その道中、COAOのゲームシステムに因る、まさかのPvP戦の勝利判定より、予想外の経験値を手に入れてしまいました。
経験値自体は嬉しい誤算ですが、しかしPvPですか……?
これはやはり、異世界とゆう新たな現実に具現化したことによって、ただのデータの集合体から一つの生命として再構成されて……。
いや、これでは人間判定にはならないはず。
とゆうことは、差し詰め召喚獣を介して、主殿が対人戦を行った。辺りが妥当な線でしょうか。
そんな思考に耽りながらも、ついでに先ほどボロ布にした中年男の簡易ステータスを、思い出す。
名前:トッタル
Lv:6
職業:盗賊
称号
《犯罪者》
《チンピラ詐欺師》
《他人任せの達人》
《パワーレベリングの腰巾着》
《盗賊ギルド:ランクE》
最初に言葉を交わした時点で、《鑑定術》で確認はしておきました。
いくら態度が悪いからと言っても、普通の冒険者をあそこまで手痛い目には逢わせません。
彼の場合は、ステータスが真っ黒である事を証明していたので、変に付き纏われて主殿に被害が及ばないよう、少し過剰な演出を加えて潰させていただきましたが。
「それにしても、盗賊ですか」
……戦力が整った後は、盗賊狩りも、悪くないかも知れませんね。
因みに、8話でビビってた冒険者たちは、全員ボウリングのピンとして巻き込まれた奴らです。