遺言
拝啓 この手紙を読むあなたへ
あなたがこの手紙を読んでるってことは、わたしはもうこの世にはいないってことになります。
お気に入りの、壊れないはずのおもちゃが壊れちゃって、いまどんな気持ち?
どう?
寂しい?
悲しい?
もしそう思ってくれたなら、わたしが死んだ意味も、少しはあったのかなあ、なんて。
もしそう思ってくれなかったなら、それはとっても、つらいことだなあ、なんて。
ごめんね? 意地悪なこと聞いて。
答えなんて、わかってるのに。
あなたは、きっとそう。
いま、この手紙を、にやにやしながら読んでるでしょ?
わたし、知ってるんだ。
誰よりもそばで、あなたを見てたから。
ううん、ずっと、あなたを見てるから。
さてさて、わたしがなんで死んだのかって、みんな、みーんな、知りたがると思います。
たぶんもうすぐ、センセーあたりが私を見つけて、ケーサツに連絡して、テレビの取材が来て、あなたたちをインタビューする。
そしてあなたはカメラに向かって、自慢の演技でこう言うの。
あの子はとってもいい子でした。
死んだなんて未だに信じられません。
あんなに優しい子がどうして自殺なんて。
家庭でなにかあったのかも。
学校では普通でした。
特にいじめられてるとかも聞いたことがありません。
色々抱え込んでたんだと思います。
あの子の分まで生きなきゃと思いました。
私からは以上です。
こんなセリフ、よくスラスラと言えるよね。
笑っちゃうなあ。
そりゃもう、大笑いしちゃうよ。
だってあなたはその後、
ただ普通に教室に入って、
ただ普通に別の子で遊んで、
ただ普通に席について、
ただ普通に別の子で遊んで、
ただ普通におしゃべりをして、
ただ普通に別の子で遊んで、
ただ普通に授業を受けて、
ただ普通に別の子で遊んで、
ただ普通にごはんを食べて、
ただ普通に別の子で遊んで、
ただ普通に授業中に寝て、
ただ普通に別の子で遊んで、
ただ普通にホームルームを過ごして、
ただ普通に別の子で遊んで、
ただ普通に別の子で遊んで、
ただ普通に1日を終えるだけ。
わたしが別の子に代わるだけ。
わたしの次は誰なのかな?
何かあったらいつでもこっちにおいで、って伝えといてね。
あ、そうそう、私がなんで死んだか!
もうわかってるとは思うけど、一応言っておきます。
それは、あなたが大好きだからです。
どうしようもなくあなたが好きで好きで、仕方がなかったからです。
現にわたしは、あなたなしの生活なんて考えられませんでした。
あなただって、同じでしょ?
ほら、わたし達、一心同体。
でも、あなたは、すぐにわたしの代わりを見つけるよね。
もしかしたらもう、見つけてるのかも。
でもそれは、わたしの代わりでしかなくて、わたしがいれば、あなたは迷わずわたしを選ぶ。
そんなあなたが愛しくて、可愛らしくて、可哀想で。
だからこれは、ほんのいたずら。
わたしの、あなたへの、最初で最後のいたずら。
あなたはわたしがいなくなったら、どうなっちゃうのかなあって。
ずっと、気になってたの。
わたしはそれを確かめることはできないけれど、でもいいの、それでいいの。
わたし、知ってるんだ。
わたしがいなくなったら、あなたは死ぬまでわたしのことを忘れたりはしないよね。
あなたにとって永遠の存在に、なれるよね。
それはとっても、嬉しいことだなあ、なんて。
それはとっても、嬉しいことだなあ、なんて。
さあさあそろそろ、エンディングのお時間となってしまいました。
どうですか?
名残惜しいんじゃないですか?
もっと続きを読みたかったんじゃないですか?
え、そうだって?
やだなあ、今になって構わないでくださいよ。
わたしたちはもう、他人なんですから。
人と、その他のモノなんですから。
お話なんて、できやしません。
けれどもそれでも、わたしは行きます。
これでほんとに、お別れです。
ああ、星空が、綺麗だなあ……
ばいばい。
またね!