第一話ー8
「じゃあ、言うから」
「は?」
「円ちゃんにチクるってこと」
「捨てましょう!」
「よろしい」
くぅー! ……。…………。
「あ、そうそう。また買うの無しね」
「そんなことするわけないだろ」
「なら、良いけど」
こいつら鬼か!
微笑む鬼否妹を本人に気づかれないように睨む。
「……」
「でも、一つだけチャラにしてあげられるかもしれないことがあるよ」
「何だ?」
嫌な予感しかしないけど、一応聞いておこう。
「祐君の膝の上に座らせてくれたら本も捨てないし、バラさない」
「……分かった」
「やった! じゃあ、失礼して」
最初からそういう目的だったなっ。
妃奈子は、俺がオッケーしてすぐ膝の上に腰を下ろした。
女子特有の柔らかさを太ももに感じる。
妹だが、少しドキマギするという男の性。
それにしてもしかし、高一にもなって兄の膝の上に座るとか甘えん坊なのかシスコンなのか。
どちらにせよ、俺が一番迷惑なんだよな。
前者も校舎も彼女なんて出来やしない。
「えへへ~」
「重い……」
「酷いな。あたし軽いよ?」
「それは、見れば分かるけど、膝の上に乗せるにしては重いんだよ」
「あ~、なるほどね」
正直妃奈子はめちゃくちゃ軽い。
さっきも言ったが、太ももに柔らかさを感じてならない。
年々こいつも女の子らしくなってきてるということか。
俺は、そう俺の膝に座る妹の背中を見ながらほっこりしていた。
☆ ☆ ☆
時は移りて日曜日。
最近中々一人になる時間がなかったので、今日こそは一人で過ごしたい。
「さてと」
服をラフな格好に着替え、ドアまで歩く。
あ、そうだった。
歩みを止め、耳を澄ます。
日曜の朝ということもあり、まだ誰も一階にいないのか物音一つしない。
何でわざわざ歩みを止め耳を澄ましたかというと、『一番乗りすると家事をしなければならない』
そんな謎のルールが存在するからである。
料理が苦手な俺としては、誰よりも早く一階に降りるのは自粛しているのだ。
ガチャ。
お、誰かが部屋を出たらしい。
だが、まだ油断するのは禁物。
トイレということもあるからだ。
ピポン。
「ん?」
また耳を澄ませようとしたらスマホが鳴った。
こんな朝早くから誰だよっ。
腹を立てながら、スマホを見る。
画面には円芭と送り主の名が書いてあった。
……珍しいな。
こいつが自分からメールを送ってくるなんて。
え~と、内容は……。
『付き合って買い物に』
一瞬ドキッとした。
主語熟語が逆なんだよ。
既読をつけてしまった以上スルーするわけにはいかないので、返事を送ることにした。
ホントはのんびりしていようと思ったが、折角円芭の方から誘ってきたし断るのも気が引ける。
『良いぞ』
と返して、俺はラフな格好から再度外に出ても恥ずかしくない服装に着替えた。
やっぱり幼なじみに会うだけとはいえ、そこそこ人の目が気になる。
あと、そもそも円芭がうるさい。
俺の専属ファッションコーディネーターかと言いたくなるくらいだ。
もう自分が一人でもいいやと決心して一階に降りると、先に妃奈子がいたので安堵しつついつもの俺の席に腰を下ろす。
妃奈子もまだ眠いのか大人しい。
「祐君……今日どこか……行くの?」
「まぁな」
「行きたい!」
「それは、ちょっ――」
「でも、今日は……どうしても外せない用事があるから我慢する」
「そ、そうか」
目を擦りながら、冷蔵庫をいじりだす妃奈子に拍子抜けしてしまう。
まさか我慢するなんて言うとは……。
よほど重要な用事なんだな。
「なに食べたい?」
「何でもいいよ」
「一番何でもいいが困るんだけど」
「じゃあ、ウィンナー」
「分かった」
どうして妃奈子はなんでもかんでも俺に訊いてくるかね……。
まぁ、今は俺しかいないからしょうがないけど。
「ところでさ、誰と行くの?」