第一話ー4
「お前なら普通に弁当食った後でもハンバーガーぐらい食べられるだろ」
「食えるけど、それだと純粋に美味しく食べられないじゃん」
「なるほど」
そういうことなら弁当食わなきゃいいだろ。
グゥ……。
俺も食うか。
諒が食う姿見て腹減ってきた。
今日の弁当はチンジャオロースと野菜サラダにプチトマト他多数。
「全部手作りだっけ?」
「多分な」
「羨ましいっ」
バシン!「くっ」
「どさくさに紛れて取ろうとするな」
まったく油断も隙もない。
俺が叩いた手を擦りながら、諒は自分の弁当を食べ始めた。
普通にちょうだいと言えばあげたのに。
つか、何度も何度も弁当が手作りであることを訊いてきすぎなんだよね。
昼食が給食から弁当に変わった高校に入った直後から、この有り様だからいい加減にしてほしい。
第一身内が作った手作り弁当だからそこまで嬉しくないし。
ガラガラ!
「ん?」
ずいぶん勢いよく扉を開けるな。
迷惑な人物はどんな奴かと扉の方を見ると、担任が立っていた。
一体何事だろうか。
『昼食べ終わったら帰っていいよ』
皆目検討もつかない俺達が先生を見ていたら、おもむろに紙を掲げてきた。
何で口で言わない。
仕事はこれにて終了とばかりに、担任は踵を返し去っていった。
担任もヤバい系の奴かよ……。
「……あ」
残念に思いながらチンジャオロースを食べようと弁当へ視線を落とすと、俺の弁当へ箸を伸ばしている諒と目があった。
ここにもヤバい系の奴おったわ……。
「なぁ、チンジャオロースが無いんだけど」
「さ、さぁ~?」
どうやらしらを切るつもりらしい。
首を傾げるそんなアホな諒の口元には、チンジャオロースのタレがついている。
嘘をつくならもっと高度にしてほしいもんだ。
「タレがついてるぞ」
「えっ!?」
はい、犯人確定。
ここでついてないとか言ったら、そのまま流してやろうと思ったのに。
「食べたな?」
「はい……」
☆ ☆ ☆
昼食を摂り終え、放課後。
場所は移ってハンバーガー屋。
当初予定していた計画とは違う下校時間に調子が狂った様子の諒は、ポテトのSサイズとコーラのSサイズを頼んだ。
どうも諒の予想だと、五時間目を終えたところでの下校と踏んでいたらしい。
「もう少し早く言ってくれれば、弁当完食しなかったんだけどな」
「とか言いつつ、食ってんじゃないか」
「う~ん、別腹?」
「言い訳女子かよっ。つか、それデザートに反応するんじゃなかったっけ?」
「知らん」
ですよね。
諒が分かるわけ無いわ。
訊いた俺がバカだった。
「隣いい?」
ん? え、円芭!?
振り向くと、サイドテールがキュートな円芭がいた。
「お、おう。いいぞ」
珍しい。
こいつが自分から近寄ってくるなんて……。
あと、ハンバーガー屋にいるなんて。
というのも、円芭はハンバーガー屋のような店に入らない。
「かず――痛っ!」
ふぅ、危ない危ない。
折角自分から近寄ってきてくれたのだから、諒の無神経な発言で機嫌を損ねられては困る。
円芭から見えない位置で諒のすねを蹴ってやった。
円芭から諒が痛がってるが何かあったのか聞かれたけど、テーブルの脚に爪先かどこかぶつけたのではないかと嘘をついておいた。
「に、にしても、あの校長今までの中でずば抜けて頭がヤバい系の人だよな」
「ヤバいってもんじゃないだろ」
どうして俺がすねを蹴ったか理解をしたのか、諒が別の話題を持ち出し、機嫌を損ねるというリスクを軽減した。
ひとまず安心してポテトを食べられる。
この塩味が堪らないねっ。
「……」
何かさっきから円芭の奴無言だな。
スマホを操作してるからか?
にしても、ホント黙ってると可愛いな。