第二話ー9
背中を向けようとする円芭の腕を掴む。
何ですぐめんどくさい勘違いするかね。
つか、すべすべしてるなこいつの肌。
出来れば離したくない。
「じゃあ、最初から言わなければいいじゃん」
「すまん」
「後で覚えておいてよ……。お邪魔します」
「あ……」
掴んでいた手を振りほどかれてしまった。
手のひらに円芭の腕の感触が残る。
名残惜しさを感じながら、先に入っていった円芭を追いかけて横に並ぶ。
「いい臭いするね。ウィンナー?」
「飯食うところだったんだよ」
「そうなんだ。集合十時なんだからもっと早く食べれば良かったのに……」
「返す言葉もありません」
「おはよう。妃奈」
「円ちゃん。おはよう」
円芭に挨拶を返す妃奈子が笑顔を浮かべる。
こいつ何先に食べてんだよ!
五本あったウィンナーが三つになってるんですけどっ。
「そこ俺の席なんだけど」
どさくさに紛れて俺のイスに座る円芭に突っ込む。
すると、円芭は俺を一瞥。
「知ってる」
「じゃあ、何で座るんだよ」
「良いじゃん、祐が違うところ座れば」
「……分かったよ」
すねられるわけにいかないか。
違う席に座る。
「……」
「な、何だよ」
「ウィンナーちょうだい」
「いや、それ俺の朝ごはん」
「ちょうだい」
「はい……」
断れない流れらしい。
俺は、諦めて円芭に箸を渡した。
「口つけた?」
「つけてない」
「あ、そう」
間接キスの危険性を確認してすぐパクっと食べる円芭。
そんなに嫌か……。
「ところでさ、ちょっと気になったんだけど高田先輩達って家知ってるの?」
「「……」」
盲点だった……。
まったくその事について考えに及ばなかった。
「どうする?」
「どうするって言われても、迎えにいかないとまずいだろ」
「連絡先知ってるの?」
「知ってる」
「ふ~ん」
再び様子がおかしくなった。
何かマズい事でも言ったかな。
ちなみに、高田先輩のメールアドレス知ってる理由は強引に携帯をパクられたから。
気づいたときには、メアド交換は終わっていた。
「と、とにかく連絡する」
「勝手にすれば」
「……」
何でこんなに拗ねてんだ?
「祐君、どんまい!」
「妃奈子あとで覚えておけよ」
「いいから早く連絡しないとっ」
「そ、そうだな」
ピロリン。
連絡しようとした矢先スマホが鳴った。
『着いたよ』
「え!?」
どうして道を知ってるんだろ。
……急になんとも言えない気持ちになる。
「どしたの、祐君」
「着いたって」
「は? 高田先輩祐の家知らないんじゃないの?」
「教えてないから知るわけないだろ」
「……祐、もしかしてストーカーされてるじゃない?」
「恐ろしいこと言うなよ」
と言ったものの、俺もその気がしてならない。
まさか、気のせいだろ。
渦中の人物とプラス一名を家に招き入れ、リビングへ案内する。
「あれ、早いね」
「そんなことありませんよ。ただ家が近いだけですから」
「そうなんだ~」
「なにか問題でもあるんですか?」
「何でもな~い」
「じゃあ、言わないでもらえますか。それと、何で祐の家高田先輩が知ってるんですか?」
「……」
高田先輩!?
黙られると円芭の言ったことを信じざるを得なくなってしまうのですが。
そんな俺の願いもむなしく高田先輩は円芭から目を逸らしている。
ガチャ。
ん? 誰か出かけたか?
心なしか玄関の方が騒がしい。
現実逃避にはもってこいだ。
「「……」」
あれ、そういえば妃奈子達の姿がない。
いつの間にいなくなったんだろう。
「あれ、まだ諒来てないのね」
と思っていたら、リビングの扉が開き、妃奈子達と共にやって来たのは諒の幼なじみ 長田磨莉。
ロングの黒髪がトレンドマーク。
「まだ来てないな」
「そうなのね。何やってるのかしら」
「さぁな」
「磨莉、諒のメアド知ってる?」
「知ってるけど、メッセージ送るのは遠慮したいわ」
磨莉が意味不明なことを言い出した。
どうして遠慮したいのだろうか。
自分の幼なじみなのに。
……あ。
「何で?」
「特に理由はないわ」
「……」
誰かさんに似てるな。
そんなことを思いながら円芭を見ようとしたが、何か危険な気がしたのでやめた。
せっかく怒りの矛先が別にあるのにわざわざ自分からこちらへ向けるのは間違っている。
ピンポーン。
来客を知らせるチャイムが鳴り、妃奈子が応対した。
どうやら対応的に諒達のようだ。
数分後妃奈子と共に諒達が姿を現した。
「やぁ、皆の衆」
「キモッ」