第二話ー8
「今度の日曜日花見行かないですか?」
高田先輩の提案に部室内がざわつく。
「何で?」
「親睦を深めるためです」
なるほど。
大体やりたいことは分かった。
多分、何だかんだ理由をつけて俺に抱きつきたいだけだろう。
「そういうことなら賛成」
「部長はオッケー出してますけど」
「分かったよ。その代わりハメは外さないように!」
「は~い……。ところで、あなたは何者なの?」
入り口から席の近い高田先輩が、そこにいる妃奈子を凄い目付きで見ている。
例えば人一人殺れそうな目。
「練本妃奈子。祐君の妹です」
「妹なんだ~! 後で祐君の話聞かせて?」
は!?
マズイことになったぞ……。
さっきまでの殺気は何処へっ。
「はい!」
「はいじゃねぇよ!」
「別に減るもんじゃないじゃん」
「……減りはしないけど」
納得しがたいが、ダメとも言えない。
俺のバカッ!
☆☆☆
結局教えるのを承諾したが、度が過ぎたことを教えたりしないか不安である。
とまぁ、そんなわけで今日は日曜日。
今日だけは忘れておこう。
にしても、時が流れるのは早い。
恥ずかしながら昨夜眠れず朝早く起きたので、我が家のルール『一番早く起きたものが家事をする』に則り、早速掃き掃除から開始している。
「珍しいね」
玄関のドアを開け、掃いたゴミを外に出しつつ綺麗な空を眺めていたら、妃奈子の声が耳に入った。
「何か眠れなくてな」
「そっちじゃないよ。祐君が家事をやってる方だって」
「気分だよ、気分」
振り向いたら苦笑いをしていた。
俺だって家事くらいするっての。
「毎日やってくれないかな」
「それは、無理な相談だ」
「だよね~」
そう言って、パジャマを抱えた妃奈子が洗面所に入る。
たまには、家事やろうかな。
「諒達何時にくるんだっけ?」
「十時過ぎ~」
「サンキュ」
「今朝ごはん作るね」
「いや、今日は俺が作るよ」
「え!?」
洗面所から出てきた妃奈子が心底驚いた表情を浮かべる。
「そんなに驚くことか?」
「ごめんごめん」
「まぁ、いいけど」
全然良くないけど。
これ以上言うのは男らしくないかと思うので止めておく。
よし、作るぞっ。
俺は、そう意気込んでキッチンへ向かった。
何があるかな~。
冷蔵庫を開け、中身を見る。
……わぉ。
ウィンナーしかない。
「今日の朝食はウィンナーな」
「え~……」
「文句言うなよ。これしかないんだから」
「むう……。分かった」
渋々納得した妃奈子を尻目に、火をつけフライパンを熱していく。
「祐君、換気扇つけて」
「あ、すまん」
普段はちょっとバカなところがチラチラ見え隠れしているが、こういうちゃんとしたところを見るとこいつもしっかりした部分が出てきたんだなと感心してしまう。
食べやすい大きさに切ったウィンナーをフライパンに開け、コロコロ転がしながら微笑んでいると、妃奈子が訝しげな表情を浮かべていた。
「何で笑ってるの?」
「ウィンナー転がしてるのが楽しくなった」
「ふ~ん」
これは、信じてないな。
むしろ何で俺が笑っていたのか薄々感づいていたような口調だ。
「そろそろ焼き上がるからご飯よそってくれ」
「ご飯ないよ」
「えっ!? じゃあ、どうするか」
「パンならあるけど」
「しょうがない。パンにしよう」
ピンポーン。
パンとウィンナーが焼き上がり、さぁ食べようといったところでチャイムが鳴った。
「誰だろう?」
「セールスってことは無いだろ、日曜だし。多分円芭だろ」
時間にして午前九時三十分。
家近いんだから、もっと遅く来れば良かったのに。
インターホンの受話器を取る。
「はい」
『私。ちょっと早く来た』
「今開ける」
受話器を置いて玄関の鍵を開け、ドアを開く。
春らしい服装を着ておしゃれしている円芭がいた。
フリフリしたスカート円芭も履くんだな。
「ずいぶん早いな」
「早いなら帰るけど」
「帰れとは言ってないだろ」