第二話ー5
くるっと踵を返し、店の中へ入っていく。
心なしか歩むスピードが早い。
これ以上追求されたらまずいと思ったのだろう。
分かりやすいやつだな。
そんな妹の後ろをついていく。
「今日の晩御飯は何にするんだ?」
「ん~。まだ検討中だね。夕市で安いのあればそれで何にするか考えるし」
「そうか」
さっきのおちゃらけた表情はどこへやら。
俺の問いに真面目に答える妃奈子。
最近高校生になってから一層女の子らしさが際立ってきたというか、もうすでに立派なお嫁さんになれる兆しが十分にある。
だが、これを本人にいうと調子に乗るので、絶対言わない。
「あら、カップルかしら?」
「いやいや、そんなの限らないでしょ」
制服姿の男女イコールカップルという認識はどうかと思う。
兄妹であるかもしれないとは思わない辺りが逆に凄い。
第一高校生で男女二人が買い物してて、もし一緒に住んでいる何て考えに至っているとしたら、この人達は少し冷静さを取り戻した方がいいね。
「今日は、ピーマン安いね」
「というか、野菜のバラ売りが安いみたいだぞ」
「ホントだ」
どうも今日の夕市は、野菜コーナーにおいては野菜のバラ売りが対象らしい。
ピーマンに玉ねぎ。
それからジャガイモ。
主婦の人たちが食いつきそうだ。
食いつきそうだが、バラ売りの大きさは小ぶり。
これは、店側の戦略が窺える。
今のご時世お店の方も試行錯誤策を練らないとやっていけないらしい。
「玉ねぎ~♪」
ピーマンに続き玉ねぎを手に取る妃奈子。
量がたくさんあることから、野菜炒めかピーマンの肉詰めだな。
「次は魚コーナー見てみよ」
「刺身食いたいな」
「買うとしたら冊だね」
夕市は夕市だが、半額になるとは謳っていないため半額になっているものは見当たらない。
「……」
『買うとしたら冊だね』と言ったのはなんだったのか、妃奈子は何もかごに入れることなく魚コーナーを抜けた。
買う気ないなら最初から期待を持たせないでほしい。
肩を落としている兄を知ってか知らずか、妃奈子は肉コーナーへ足を運ぶ。
やはり夕時だけあって主婦の人たちが一杯。
さすが戦を経験しているだけはある。
狙いどころは分かってるらしい。
ちなみに、この夕市の混雑を経験している妃奈子もまた荒波に慣れているため平気で人だかりに突っ込みお目当てのものを手にしていた。
「もしかしてピーマンの肉詰めか?」
「うん、正解。最近作ってなかったから」
「旨いよな。ピーマンの肉詰め」
食うのが今から楽しみだ。
「作るのは意外と難しいけどね」
「へぇ~」
「ピーマンに肉がくっつかなくて、ただの肉の塊とピーマンの炒め物みたいになる時もあるんだから」
「侮れないな」
これはキレられてるな……。
前つくってもらったとき肉がピーマンから離脱してるのを指摘したことがどうやら妃奈子の気に障ってしまったようなのである。
まさか今日まで引きずっていたとは思わなかった。
「だからヘタまで食べてね」
「気持ちだけ食った感じにしとくわ」
「祐君冗談潰し止めてよ」
「すまん」
「まぁ、いいけど」
「他に買うのあるのか?」
「う~ん、特にないかな」
少し考える素振りを見せた後、妃奈子は俺に笑顔を作って歩き出した。
その後に続きレジへ向かう。
「いらっしゃいませ」
「袋買います」
「かしこまりました。一枚三円頂いておりますがよろしいですか?」
「はい、大丈夫です」
「かしこまりました。袋代が入りまして、千五百八十五円になります」
と、何事もなく会計を済まし、帰宅の都についた。
「おかえり」
「ただいま」
帰宅後妃奈子が下ごしらえをしていると、お袋が帰ってきた。
「今日はピーマンの肉詰めだよ」
「惣菜買ってきたけど」