第二話ー4
反省の色があるんだか無いんだかはっきりしてない諒に怒りをわざと露にしながら、キーボードに手を乗せる。
制限時間は十五分。
己との戦いであるこの検定。
いかに集中力・注意力が持続するかによって打てる文字数も自ずと増加する。
これは、顧問談だが、個人的にはまったくその通りだと思う。
「よーい、始め!」
検定画面のタイムが時を刻み始めた。
さて、気を抜いて頑張りますか。
何せ今日は今年度一発目の検定の練習。
一発目から全力を尽くしてしまっては年末まで持たない。
ただし、顧問は教師用パソコンから部員全員の練習内容が見れるため、ある程度は力を注ぐ必要があるけど……。
(ムズい!)
(漢字が分からないっ)
(抜かして書き進めればいいだろ)
(そんなことしたら減点になっちゃうだろうがっ)
(だってしょうがねぇだろ、それ以外方法がないんだから)
諒が言うように誤字脱字をすると、一文字何点か減点されていく。
ちなみに、空欄のまま書き進めても脱字認定され減点の対象になるので、捨て身の策と言えばごもっとも。
だが、書き進めれば打てた文字をカウントして加点しているので、飛ばして書き進めた方が早いのである。
それを分からず俺の提案にいちゃもんをつけてくる諒にはこれ以上得を教えてやらない。
言うだけ無駄だ。
さて、何だかんだ諒にイラついていたらそろそろ検定練習時間が残りわずか。
誤字脱字の有無でも確認してようかね。
(諦めも肝心だぞ)
(……)
(……)
画面をスクロールしながら伊津美と諒にアドバイスをしたが、返答はなし。
どんだけ集中してんだよ。
周りの部員はほぼ諦めムードなのに。
頑張るね……。
まさかこいつらがこんな真剣に速打ちに取り組むとは思わなかった。
明日雨でも降るかもしれない。
いつもこのくらい真剣に取り組めば、階級上がるのに。
やっぱりどんなものも継続は力になるんだよ。
ちなみに、階級というのは、個人の速打ちのレベルに合わせた評価で、自動で誤字・脱字などをカウントし、一級、準一級のように文字になって反映される
「はい、止め!」
「あ~、づかれた」
「学年が上のやつはやっぱキツい」
この友人二人のように、周りの部員達もイスの背もたれにもたれかかり、隣席と雑談を始めた。
俺も背伸びをし、顧問の次の指示を待つ。
「じ・ゆ・うじ・ゆ・う」
「……」
あ、これはもう帰宅エンドだ。
顧問の眉がピクッと動いたことからキレている。
「今日は、年度初の部活なのでこれで終わりです」
やっぱり……。
☆ ☆ ☆
ホント諒は、人の表情を見て状況判断が出来ないらしい。
何であそこまで鈍感なのかね。
そんな諒と別れ、帰宅の都についていたら、妃奈子に買い物に付き合ってくれとメールで頼まれたので、指定されたスーパーに足を運んだ。
つか、別に俺らと一緒に帰れば良かったんじゃないかと思うんだが。
自転車を駐輪場に止め、少し構内を歩いているとカートにかごを乗せた妃奈子がいた。
準備万端じゃないですか、ヤダ。
「祐君、遅いよ」
妃奈子がそう言って頬を膨らませる。
事前に言ってくれれば、待たせることもなかったんだけど。
めんどくさいから謝っておくか。
「ごめんごめん」
「手繋いでくれたら許してあげる」
どさくさに紛れて何言ってんだ、こいつは。
いい加減兄離れしてほしいもんだ。
「こんな公衆の面前で妹と手繋いで買い物とか嫌だけど」
「えー……。じゃあ何で家だとあんまり拒まないの?」
「拒んでるだろっ。無理やりくっついてくるの、妃奈子だろうがっ」
「……冗談だよ」
ここまでの話の中で冗談って言ったところで、まったく信憑性がないんですけど。
第一手を繋いでたら買い物しづらいし。
「どこまでが冗談なんだよ」
「全部」
と言って、妃奈子は目を逸らす。
嘘つくなら目を合わせて言えば分からないのに。
俺の周りで嘘つくの下手なやつ多い気がする。
「嘘つけ」
「と、とにかく。買い物するよっ」