第一話ー1
あー、冬休みが終わってしまった。
四月の八日目の朝。
今日は、入学式のため早い下校。
だからなんだという話だが、どうせなら休みにしてほしかった。
今ここで言ってもしょうがないけど。
うぅ~、寒いっ!
もう春だというのに、まだ冷たい風を切りながら、俺 練本 祐は自転車のペダルを漕ぎ憂鬱な気分になっていた。
はぁ……。
ため息をつきつつ、前方の信号が赤になったので自転車を止める。
キィッ。
ん? 何か俺の自転車のブレーキじゃない音がしたような。
「おはよう。……はぁ……はぁ……」
「あ、なんだ諒か。おはよう」
ブレーキ音がした方を振り向くと、親友の住吉諒が横にいた。
息が荒いことから俺を見つけて飛ばしてきたようだ。
中学~高一の四年間こんな調子だから、今後は待ち合わせ場所決めておくか。
スピード出すと危険だし、第一急に横に並ばれてはこっちの心臓が持たない。
現に今胸が変にドキドキしてるし。
「どうした、青だぞ?」
「……え、おっ!」
運転中に考え事は良くないな。
注意力が落ちる。
諒の言う通り目前の信号が青になっていた。
「先に行くのは祐なんだからしっかりしてくれ」
「いや、お前がたまには前走れよ」
なぜだかこいつは、前を走りたがらない。
自転車通学が始まった四年前からずっとである。
「断るっ」
ほらな?
そのくせ俺の運転にイチャモンつけてくるから困ってしまう。
どうやら先を行きたくない理由でもあるのかもしれない。
「まぁ、いいや。待ち合わせ場所決めとくべ」
四年間も前に走れないやつに今さら先頭走れと言っても無理があるか。
しかたないので、話題を変えてやろう。
「俺と祐の中間辺りを待ち合わせにしようぜ」
「じゃあ、明日の朝からな」
「おう。にしてもさ、春休み終わっちゃったな」
「凄いあっという間だったわ」
「もう少し春休みあっても良いと思わね?」
「先生達に直談判してみたらどうだ?」
これは良い機会だ。
諒には悪いが、春休みの延長に際しての犠牲になってもらおう。
世の中何事にも犠牲は付き物だ。
「言えたら今頃長くなってるわっ」
「そうだな」
ち、騙されなかったか……。
こいつ変なところで勘が良くなる。
普段はニブチンなのに、こういう時だけは勘のセンサーが過剰に反応するようだ。
「そんなことより二年になったらクラス替えだよな?」
そんなことよりって、自分で持ち出してきた話題だろ。
つか、訊かれても分からないんですけど。
「そうだっけ?」
「クラス替えなんだよ」
「分かってるのに何でじゃあ訊いたんだよっ」
「確認だよ!」
確認ってお前勝手に納得して何が確認なんだよ。
語気を強める諒に、ブレーキを何もないところでやや強くかけ嫌がらせをする。
「あ~、誰と一緒になるかな~」
効き目など無かった。
そんなに楽しみかね……。
折角仲良くなれたのに、また一から交遊関係を築かなければならないと思うとめんどくさくて仕方ないけど。
「さぁ~な」
「祐は楽しみじゃないのか?」
「普通だな」
楽しみと思う奴いるか?
ドキドキはするかもしれないけど。
全然知らない人だらけだったらどうしようっていうマイナス的な意味のドキドキ。
「ところで、宿題やったか?」
「やってない」
「何でやってないんだよっ。写せないじゃないか」
「待てお前。本音が出てるぞっ」
「出してるんだよっ!」
「堂々と言うなよ。ホントにやってないから。任意でいいって言われたし」
大体春休みの宿題なんて翌年の担任がチェックするわけがない。
バカ正直というかなんというか。
これが諒の長所でもあり短所でもあったりするんだけど。