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説得

「僕はね、人間として苦しみたいんだ。それだけ。そして、さっきの僕の質問に自分で答えるね。僕は、ここから出られないことで、『人間としてではない苦しみ』があったよ、ずっと」


 ……僕がそう言った後、ミューズもハーモニーもフォルテは何も言わなかった。

 ただ、僕の顔をじっと見ているだけ。

 うーん、そうだよね。伝わらないよねこんな言い方じゃ。分かりにくいにも程があるだろう。


「えっと、どういうことかというとね…」


 僕が言いかけると、ミューズが遮る。


「説明なんてしなくていいよ。苦しみたいとか人間としてではない苦しみとか、夏希が言ってることはよく分からないけど、とにかくここから出たいってことなんだよね。何度も何度もの繰り返しになるけど、それはできないし許さない。ここからは出られない。それで話は終わりだよ」


「ミューズの言う通りだよ。出られないわよ?ここからは」


「結論が決まっているのだから、話はもうここで終わりでいいだろう。あまり気持ちのいい話でもないしな」


 ハーモニーとフォルテが続く。


「うーん、ちょっと待ってよ。話くらい聞いてくれてもいいじゃない。確かに僕はここから出たい。それはその通りなんだけどさ」


「聞く必要ないじゃない。何の意味もないんだから」


「でもさ、ミューズもハーモニーもフォルテも、僕に色々教えてくれたじゃない。剣の使い方に文字の読み書き、魔法だって基礎だけとはいえ教えてくれた。食事のマナーだって教えてくれたよね。それと女の子の扱い方だって教えてくれた。それって何のためなの?ここからずっと出ないんなら使い機会なんて無いわけだし。外の世界に出た時のために、いざという時のために教えてくれたんじゃないの?」


「いや、全然違うよ。夏希に戦い方や読み書きを教えたのは、人間としての最低限の教養として教えただけ。魔法だってそう。外に出て使うためなんてつもりはこれっぽっちも無いよ。剣が振るいたいなら私達が相手になってあげるし、魔法だって私達に撃ってみればいい。もちろんこの中でね。女の子の扱い方講座は、私達が夏希にそうされたら嬉しいことをそのまま教えただけ。外の世界の女の子を相手にするためなんかじゃないよ」


「でも、傷を治す魔法まで教えてくれたじゃないか。そんなのこの中じゃ何の役にも立たない。24時間ミューズ達が僕を見ているんだから」


「それは万が一の保険ってやつだよ。もし、本当に万が一私達が見ていないところで夏希が怪我をしてしまったら、夏希が自分で治せるように教えたの。そんなことはあり得ないけれど、絶対に万が一が起きてはいけないからね夏希の身には」


「本当にあり得ないよそれは。転びそうになっただけでミューズかハーモニーかフォルテが助けてくれるんだから」


「そ。あり得ないね。だけど、万が一が起きてはいけないからね。絶対に。だから回復魔法を教えた。それも念入りに。蘇生魔法とまではいかないけど、それに近いレベルのことは夏希はできるはずだよ。瀕死状態になったとしても夏希の全魔力と引き換えにすれば回復できるくらいの回復魔法は使えると思う」


「それって外の世界だったらもっと役に立つよね」


「許さないって言ってるでしょう」


「それは僕が決めることだよ」


「絶対に許さない」


「『人間としてではない苦しみ』に、これからも僕はずっと耐えなければいけないの?」


「その意味が分からないよ私には。何? 『人間としてではない苦しみ』って。食べ物に不自由しなくて怪我の心配も死ぬ心配もない。剣も読み書きも魔法も教えてあげて、適度に達成感と充実感も持たせてあげている。何が不満なのよ」


「それじゃ丁寧に育てられた家畜だよ」


「馬鹿なこと言うんじゃないの」


「本当のことだよ」


 僕とミューズが終わりの見えそうにない言い争いを続ける。

 そこにハーモニーが透き通るような金髪を手で掬い上げながら近寄ってきた。


「……しょうがないわね。お仕置きしかないか」


 フォルテが続ける。


「仕置きが必要か?夏希がどう考えようとここから出るのは不可能だ。それにどうせ一時の気の迷いだろう。このまま今までのように過ごせばいいだけのように思うが」


「いえ、これはケジメの問題よ。もう2度とこんなこと言い出さないように、やっぱりお仕置きは必要だと思うわ」


 ……お仕置きか。痛そうだなぁ。

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