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destroyer  作者: 千坂 ろな
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別行動……。

 すみません、またしても、前回と同じく誤投稿してしまっていました……。

 誤投稿していたのは8話冒頭です。なので、タイトル“執筆中”の時に読んでくださった方、申し訳ないのですが、この話の冒頭から読んでくださると嬉しいです……。

 ヴィーさんは少し余裕がありそうではあったけど、私とアンさんが追いつけないのをわかっていてかこちらを振り返りながら走っていた。

 アンさんよりも足手まといになっているのは、間違いなく私なんだろう。正直、もうすでに体力がギリギリだし、後ろを見れば身なりがいいとはとても言えない……現世でいうヤのつく職業の方みたいな容姿の厳ついオジサンがいやらしい笑顔で追いかけてくるのが見えるのだ。

 さっきまで姿も見えなかったのに……。確実に距離を詰められている。


「ヴィー、エリーも抱えてもらえるか」


 アンさんが少しばかり声を張った。ヴィーさんが何を考えているかわからない顔をして後ろを向いてアンさんと私の顔を交互に見た。


 なんとなく、不安になって私の手を引っ張って少し前を走るアンさんを見上げると、アンさんは私の顔を見て安心させるように笑うのだ。


「……後でちゃんと迎えに行くから」


 ……きっと、アンさんもこの速度くらいなら余裕で走っていられるんだろう。

 私は必死で走っていたつもりだったんだけど、すでに速度は結構落ちてしまっていたのかもしれない。比較的体力に自信があるとは言え、交通手段が発達したあの世界と、乗り物なんて馬と馬車くらいしかなくて、徒歩が主な移動手段であろうこの世界では差が出てしまうのは仕方ないんだろう。


 いくら不安でも足手まといが我が儘を言うわけにもいかな――の前に、言える口がないんだった。


 ヴィーさんが速度を落として私たちと並んだ。

 アンさんはヴィーさんに顔を寄せて少し小声で告げる。


「山を越えたところに街があるって聞いてる。最悪、そこで合流だ。僕の仲間とも鉢合わせるかもしれない。白っぽいのと、白金っぽい――見たらわかると思うが人形だ。エリーの反応を見ればわかると思うから。……一応、落ち着いた時点で合流できるように捜しながら進みはするけど……期待はできないかも」


 ヴィーさんはアンさんの言葉を聞きながらカティちゃんの意見をうかがうように視線を向けた。カティちゃんは迷う間もなく頷いた。

 カティちゃんの反応を見てからヴィーさんが私を抱え上げる。


「……助けてもらった上に巻き込んでしまって……申し訳ありません」


 ぽつりと……きっと、私とアンさんに向けて言ったのはカティちゃんだった。


 そんなことを言うってことは、追いかけられる理由に心当たりがあるってことだ。ただ、アンさんにも追いかけられる心当たりはあるみたいだけど。

 アンさんは少し困ったように笑ってみせるものの、内容を聞いてる時間もないのは言わなくてもわかる。何も言わずに“エリーをくれぐれも頼むよ”とだけ言って、躊躇いを見せたものの私から離れて行った。


 瞬間、ヴィーさんの速度が異常なくらいに上がった。






 人形に人間の足が追いつくはずもない。次第に後ろからついてきていた足音は遠ざかって聞こえなくなったけど、ヴィーさんは注意深いのか結構走ってから速度を落とした。

 ほう、と息を吐いたのは私だったかカティちゃんだったか。


 警戒心をとかないままのヴィーさんが草をかきわけると川が見えた。どうやら、相変わらず、川沿いを走り続けていたようである。

 少し休憩、ということだろうかヴィーさんは川のすぐそばの木にもたれかかって座り込んだ。カティちゃんは私の顔色をうかがうように見上げてから手を引いて川へと進む。

 そっと小さな両手で水をすくって口に運んだカティちゃんはそっと唇の両端を綺麗に引き上げた。


「……うん、おいしい。エリーさんもどうですか?」


 促されたので私も水を口にする。ここを逃したら次に水分補給できるのはいつかわからないもんね。カティちゃんもヴィーさんも水筒とか持ってなさそうだし。


「……人形って、相当に高価なものなんですよ」


 ぽつりと言葉を落としたのはカティちゃんだ。そもそも、私もヴィーさんも声が出ないんだから、この場で声を出せるのはカティちゃんだけなんだけど。3人もいるのに……なんだかシュールな状況というか、なんというか……。


「だから、ちょっと目をつけられちゃったみたいですね。国も必死に回収してると聞きますし……ヴィーの心臓にもかなりの高値がつけられるはずなんです」


 カティちゃんは“迂闊でした”とうつむきがちに呟いた。

 ……となると、さっきの男たちは山賊とかの類なんだろうか。それなら、アンさんもしっかりとした荷物を担いでいたわけで……この森の中を歩いていればいつかはターゲットになっていたという可能性だって否定できない。……アンさんは大丈夫だろうか。ちゃんと逃げ切れたのかな。


「……まるで物のように扱われるんですよね。とても納得がいかなくて。家から逃げてきちゃいました」


 人形は高価な物っていうからに、この子もいい家の出なんだと思うんだけど……ようは、家出……なのかな。お嬢様なのに……大丈夫なんだろうか。だけど、カティちゃんは私の顔を見てクスクスと笑う。


「まあ、私は3女……それも、6番目の子ですからいなくなったところで問題はないでしょう。問題はヴィーを持ち出したことの方でしょう。

 ……ああ、そんな顔はしないでください。そんなものですから。貴女は大事にされてきたんですね」


 年齢不相応な大人びた微笑みを携えたカティちゃんを木の下から眺めているヴィーさんと偶然目が合った。

 ……まだ幼い――小学校に上がっているかも怪しいカティちゃんはどんな家庭環境にいたのかはわからないし、この世界の常識なんて私が知る由もないんだけど、普通というものがどうであれ私の感覚ではあまりいいとは言えないものだろう。


「ヴィーは……私の宝物です。取り上げられてしまったら……私の知ってるヴィーではなくなってしまったら……そう考えるとどうしようもなくて。例え、それで家が潰れようと、それは父の手腕の問題だと思う……っていうと、ひどい娘だとお思いになりますか」


 私はなんとも答えられなくて、眉を下げて首を傾げることくらいしかできなかった。だって、私はこの世界のことも、カティちゃんたちのことだって何も知らないのだ。


「……喋れない方にこんなことを言うのは卑怯なんでしょうね」


 カティちゃんは眉を下げてクスクスと笑う。……少なくとも、こんな幼い少女がするような顔じゃない。

 ……きっと、なんの関係もない、何も知らない、喋れない私にだからこそ言えることなんだろう。何を言っても私から口外はできないわけだしね。


「さて、もう少し休憩をしたら出発しましょうか。……ヴィー、お金って余裕あるかしら?」


 カティちゃんはしっかりとした歩調でヴィーさんのところに小走りに駆け寄っていく。

 どうやら、お金の管理はヴィーさんに任せているようだ。確かに、カティちゃんが持っているよりヴィーさんが持つ方がスリの被害に遭う確率とかも下がりそうだし、賢明な判断と言えよう。カティちゃんは見た目通り賢い子らしい。


「……とりあえず、ヴィーの足で山の向こうの町まで行くわ。たぶん、アンさんよりは先に着くでしょう。……他のお仲間さんはわからないけれど。そしたら、適当に宿を取って町を練り歩きましょう。アンさんを捜すの。

 ……申し訳ないんですが、あの賊だけでなくて、私たちは家族の追手も気にしなければいけないので……エリーさんとアンさんが合流できたのを確認したら、すぐに町を発ちます。距離を稼ぎたいので」


 申し訳なさそうに眉を下げて口角を上げて見せるカティちゃんに私は迷うことなく頷いた。妥当な判断だろうと思う。

 家族の追手がかかってるかもしれないのに、アンさんを捜すために町を一緒に練り歩いてくれるだけでありがたい。正直、私1人では不安なんてもんじゃない。この世界の勝手がわからないんだから、何が起こるかわからないんだから。


“あ、手持ちのお金はできる限り節約したいのでいい宿なんて取れませんからね”と冗談めかして言うカティちゃんにとんでもないと両手を顔の前でぶんぶんと振って、感謝の気持ちが少しでも伝わればいいと頭を下げた。


「……さて、それじゃあ、行きましょうか」






 確か、セトさんは普通は山を越えようと思えないくらいには町まで距離がある、みたいなことを言ってたような気もするんだけど、朝日が昇る前に町にたどり着くことができた。とはいっても、日が暮れてから結構な時間が経過していて、宿が取れるかどうかという心配はあった。


 しかし、特に、観光地や特産品があるというわけでもなければ、何かイベントがある時期でもなかったためあっさりと宿は取れた。私に遠慮してくれたのか、人形とは言えヴィーさんが男性だからなのか、2部屋取ってくれようとしたんだけど、カティちゃんとヴィーさんは同室にするつもりらしかったから、私も一緒でも構わないと告げると“節約できるので助かります”なんてカティちゃんは笑った。


 とりあえず、アンさんやベルさんたちを捜すのは睡眠をとって、外が明るくなってからにすることとなった。




 短め……すみません。

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