どんぶらこと流れてきました。
執筆中だったのにタイマー設定したまんまだったので途中で投稿されてしまっていました。申し訳ありません。
タイトル“執筆中”の段階で読まれてしまった方、申し訳ありませんでした。
この話の冒頭から文章から内容から全部違うものに変更したので初めから読んでやってください。よろしくお願いします。
「……あ、やばい」
ぽつりとアンさんが呟く。
独り言のようなその言葉は内容に反してヤバそうな感じは一切しない。そのため、私も危機感皆無で首を傾げた。
「迷ったかも」
はい?
声が出たなら口からこぼれ落ちていただろう。
正直、森の景色なんてどこも同じようなもので同じ所をぐるぐるしてるのか、行くべき道とは違う方へ行ってしまってるのかわからない。
いや、でも、セトさんと特別会話をしていなかったアンさんがほとんどの人が知らない、あの場所から山を越えて他の町に行くルートを知ってるとも思えない。
私は、適当なところまで離れてベルさんとセトさんを待つのかと思っていた。
言葉で伝えることができないので、あえてオーバーに訝しげな表情をつくると、アンさんはバツが悪そうな顔して口を開いた。
「……同じ場所をぐるぐるしてるんだよね。ちょっと離れたところで野宿できそうなところ探してたんだけどさ……」
“ま、なんとかなるかな”と軽く口にしたところから、そこまで大事なわけではない……もしくは、前にも同じ経験をしているか。
正直、若干不安が芽生えてるんですけど……ついてくしかないかなぁ。私が道案内したところで事態は悪化するだけなのは考えるまでもないしね。
「──リー、エリー?」
……呼ばれてたのに反応できなかった。
何か、聞こえてきた気がしたのだ。それが何かがわからなくて。でも、聞き逃しちゃいけないような気もしてた。野次馬根性だったのか、それ以外の何かだったのか……私にはわからないけど。
理由はともあれ、どうしても聞き取りたくて、人差し指を立てて口元に持っていき“しーっ”と合図する。アンさんは訝しげにしながらも低姿勢になって、明らかに自分には正体のわからない何かに対して警戒をしてくれてるようだった。
私は、惹きつけられるかのように低姿勢で走り出していた。傍目から見れば忍者が走るみたいに見えていたんじゃないかな。……とは言え、アンさんが余裕を余してついてこれるくらいの速度しか出てないけどね。
何かに導かれるかのように走っていけば、さっきまで木々に囲まれて視界が悪かったのに急に視界が広くなった。
びっくりしたけど、そばに川が通っていたようで目の前に川が出てきたのだ。……いや、川が出てきたんじゃなくて、私たちが川のそばに出てきちゃったわけなんだけど。
それにしても、何に私は反応したのか……。何か聞こえたと思ったのがなんだったのか……。首を傾げた。
すると、私の疑問に答えるかのように、ふと、川の上流の方に視線が持っていかれた。
……なんだろう、あれ――そう思った時には、もう私は川に足を突っ込んでいた。
「ちょ、エリー!?」
アンさんの言葉が聞こえていなかったわけではなかった。ただ、上流から流れてくるものの方を無視することができなかったのだ。
じいっと見ていれば、それは何かに抵抗するかのようにバシャバシャと暴れていた――人間だ。それも、まだ子供。
急いで、あの子が流れてくるであろう位置まで足を進める。なかなかに川の流れが急だったから私なんかの力じゃ流されるかと思ったんだけど、案外大丈夫そうだった。
しかし、途中から川の深さが急に深くなっていて足が浮いた。……やらかした。
ヤバい――そう思ったのは数秒だけだった。
流されたものの、すぐに川のど真ん中に出現した大きな岩に背中を受け止められたからだ。私はそれによじ登るといつあの子が流されてきても受け止められるように上半身を川に乗り出して構えた。
声が出ないものだから何もあの子に声をかけてあげることはできないけど、“ここまで沈まないように頑張って”と心の中で唱えた。
無事に岩の近くまで流れてきた子に両腕を伸ばすと、その子も一生懸命に腕を伸ばしてつかまってきた。急流のわりにはあっさりと岩の上に上げることに成功してしまう。
どうやら、私が川から引き揚げた子は女の子だったようで、最初に思った通りまだまだ子供だった。
暗い茶色の髪に茶色と緑が半々になっている――おそらく、暗めの色ではあるものの、ヘーゼルと呼んでもいいであろう目の色だった。
「お、お姉さん……ありがとう……」
彼女は息を切らせながらもなんとか私にお礼を言ってくれた。川に流され始めてそんなに時間が経っていなかったのだろう。不幸中の幸いってヤツかな。
私はできるだけ優しく見えるようににっこりと微笑んで頷いてみせる。
彼女は私の動作を見てからきょろきょろと辺りを見回す。
私もつられるように見回してアンさんを見つけると“大丈夫ですよ”って言葉の代わりに笑顔で頷いてみせた。でも、アンさんは私を通り越して川を挟んで向こう側を見ているようだった。何があるんだろう。
アンさんの視線をたどって向こう側を見ると、そこにはアンさんと年齢の変わらなさそうな男性が安堵の息を吐いていた。もしかして、この子の保護者なんだろうか。
彼は若干ピンクを混ぜたような白い髪をしていて、それは後ろでひとつにくくられて腰までたらしてある。それに反して瞳は綺麗な紫水晶。中性的な顔をしているけど、着ているのが体のラインに沿った燕尾服のようなものだったから体型がしっかりわかっるので男性だと断言できる。
「あ、ヴィーは……その、私の、なの」
彼女は私が彼と彼女に交互に視線をやっていることから私の疑問を感じ取ったのか、少し言葉に迷ってからそんなことを言った。
「エリー! こっちに来れるか?」
アンさんに言われて、そちらを向いて眉を下げた。
……だって、川の途中から深くなってるんだもんなぁ。遠くまで流さずに済んだのはこの岩のおかげで……。
どうやって向こう側に戻ろうかと悩んでいると何かがすぐそばに降り立った。
ぎょっとして上を向くと紫水晶が私を移した。
……ちょっと待って。この人はどうやってこっちに移ってきたの。
目を白黒させているうちに彼は私と彼女を両腕で軽々と抱えてしまってひょいっといとも容易くアンさんのそばに足をつけた。
「――ああ、人形か」
ぽつりとアンさんが呟いた。
……なるほどね。だから、そんな力があるのか。あの岩からこの川岸までって普通の人間じゃとてもじゃないけど無理だものね。
私がそんなことで納得していると彼は私に向かって深々と頭を下げた。私も反射的に会釈をしてしまう。
そんな私たちを見て少女が口を開く。実年齢はともかく、見た目は幼女と言ってもいい彼女はその容姿とは裏腹に落ち着いた口調だった。
「助けてくださってありがとうございました。うちのヴィーも貴女に感謝の意を示しております」
「えーっと……彼、声が……?」
「……ええ」
彼女はなんだかいたたまれないといった様子で視線を下に落としてしまうものだから、私は笑顔で自分の顔を指さしながら顔を覗き込んだ。彼女はなんだかわからないと言った様子できょとんとしているけど、アンさんにはわかったようで苦笑いしながら解説してくれる。
「その子、なぜだかはわからないんだけど、声が出ないんだ。たぶん、その子は“自分と一緒だ”って言いたいんだと思う」
「なるほど……。でも、聞こえてはいるんですね。ヴィー、一緒ね」
遠慮がちに笑顔を見せながら彼を振り返った彼女に彼は困ったような顔をした。
「私はカティンカ。どうぞ、カティと。彼はヴィルフリート……ヴィーです」
あれ、と首を傾げた。アンさんは人形だと言ったけど、名前は人間に付けるのと同じように長い名前だ。しかし、アンさんは疑問を持った様子はなく笑顔で頷いた。
「私はアン。この子はエリー」
……たぶん、アンさんはわざと略称しか教えなかったんだと思う。“アリス”という名前はどうやらよろしくないようだから。
しかし、彼女――カティはそれについて言及することなく頷いてみせた。
「……ところで、なんですけど」
そう口を開いたのはアンさんだ。真剣な顔をしていたので何事なんだろうかと思ったんだけど、用件はなんてことなかった。……いや、重要なことではあるんだけど。
「道案内をお願いできますか」
……私たち、そういえば、迷子でしたもんね。
彼らも森を向けるところだったということで、一緒に行動することとなった。お互いに知ってるのは名前のみ。
アンさんいわく、ヴィーさんの案内でおそらく同じところを堂々巡りという状況からは抜け出せたようだけど、もしかしたら、ベルさんとセトさんは先に行ってしまったかもしれないと言っていた。……そういえば、ベルさんもすごい速度で走るもんね。人形であるセトさんならもっと速いんだろう。もしかしたら、私たちが通るであろう道を後ろから追いかけて私たちと合流する予定だったのかもしれない。
適当な所で野宿することになった。人形は多少寝なくても大丈夫だということで番をしていてくれるという。
なので、任せて寝ることにしたんだけど、ぽちゃん、と水音がした気がした。それで目が覚めてしまった。
だけど、今、私たちは森の中だ。一応、川沿いを歩いているらしいけど、水音まで聞こえるほど川の近くを歩いているわけでもない。
……何か夢でも見ていただけだろうか。夢の内容は全く覚えていないけど。
首を傾げる私の視界に険しい顔のヴィーさんが映った。……もしかして、何かあったんだろうか。このタイミングで起きたのは正解だったのかもしれない。その証拠に私が起きたのを見たヴィーさんはアンさんを起こせとでもいうかのようにアンさんを指でさした。
何回か肩を掴んで揺らすとアンさんは目を覚ます。ベルさんもだけど、アンさんも寝起きは悪くない。
「……どうかした?」
寝起き第1声で私に聞いたアンさんだったけど、ヴィーさんの顔を見て何かを悟ったらしいアンさんは荷物をまとめながら警戒した表情を見せた。
アンさんが荷物をまとめ終わるのを見てヴィーさんがカティちゃんをだっこした。走るんであろうことはその姿勢を見て察していたから私も走り出せるように構えたんだけど、アンさんが迷子防止か私が遅れるのを防止するためか手を繋いでくれる。
ヴィーさんが何かを感じたのは勘違いではなかったようで、こちらに向かって草をかきわけて近づいてくる音が聞こえる。
その音に追いつかれる前に走り出した。
「あ、逃げやがった! 追え!」
とてもじゃないけどガラがいいとは言えない怒声。
こちらだって走るとなれば完全に音を殺すことはできなかった。しかし、この場を離れなくてはいつか見つかってしまうだろうから仕方なかった。
「目的はどちらだろうね……」
私の手を引いて、私の少し前を走るアンさんが険しい顔で呟いた。