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destroyer  作者: 千坂 ろな
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アン、エリー、別行動

……ちょっと少な目になっちゃいました。

 どんな顔をしたらいいのかわからないでいると、セトさんもそんな私の表情に気付いたのか苦笑いをした。


「……ああ、話がそれてしまったね。

 ……そうだな。アベルはイヴの消滅を目標として掲げていたな。アレはご丁寧にもひとつひとつ壊していくつもりのようだね。

 確かに、イヴは数に限りのあるもので貴重なものではあるんだ。しかし、手作業でひとつひとつ壊すと軽く言えるほどの数ではない。国中どころか、国外にも散らばっているだろうしね。アレのことだから、どれほどの時間をかけてでも、意地でやり切るつもりなんだろう」


 そう言って小さく笑うと、少し声を落とした。


「……まだ、確信したわけじゃない。不確かではあるが、他のイヴと共鳴を起こせる私の感じるところとしては、核を潰せば、イヴは全機能を失うんじゃないかと思うんだがね。まあ、確信がないから不用意にアレには言わない方がいいとは思ってるんだが」


 イヴの核?

 ……なんか、次から次へと新しいワードが飛び出してくる。この世界の人形というものは、奥の深いもののようだ。

 私は、考えることを放棄して、素直にセトさんの言葉を拾うことだけに集中することにした。1度に全部を理解することなんて無理なんだから。


「イヴは元は、ひとつの物質で。その中心部ほど色が濃い。色が濃い部分とそうでない部分で、人形の性能に差は出ないものだから、人間たちにはわからないだろうが、人形からしてみれば違う。色の薄いイヴに比べて、濃いイヴの方が引かれる。影響力があるというか。イヴの最も濃い部分を核とハプスブルクが呼んでいた。

 核を壊した実績は全くないわけで、壊してみなきゃどうなるかはわからん。しかし、私は、全機能が停止するに1票、だな。

 …………ハプスブルクが造りだしたものが、この世界から一斉に消える……それって、本当……寂しいことじゃないかと思うんだ。

 正直、こわさもある。人間だって、死ぬのは嫌だろう?」


 ……セトさんは、人間と同じ心を持ってるって言ってたもんね。そういう生死観みたいなものも人間に似通ってるんだろうな。それなのに、なんで、こんな協力する姿勢なんだろうか。


「……不思議そうな顔だね。でも、創造主たるハプスブルクさまのご遺志のようだからね。それなら、私は協力するほかない。

ただ、期限を限界まで延ばして、他の道も模索できないかなぁとは思っちゃうよね」


 セトさんは悪ガキみたいな顔して笑う。


 ベルさんは、壊すこと、全て終わらせることが正解だと思ってるし、創造主の遺志もそう。でも、それしか方法がないかどうかなんてわからないもんね。ようは、人形を創造主ががっかりしない用途で使えていればいいわけで、問題は軍兵器化なわけだし。


 私だって、できれば、平和的な解決ができたら、それほどいいことはないと思う。

 ほんのちょっとしか、まだ、一緒にはいないけど、セトさんに情がわきつつもある。これから、一緒に過ごすんなら、もっと、情だってわくだろう。ベルさんも、しばらくは、セトさんと行動を共にするつもりらしかったし。まだ、この世界のことは知らないけど、もしかしたら、物語の世界みたいにさ、他の世界から来た私だからこそ考えつく方法だってあるかもしれない。


 だって、こんな偶然なんてある?

 異世界らしきところに派遣されてきてしまったこと自体そうだし、なんか、歴史を変えようとしている人たちのところになんてたどりついちゃって……。

 これは、偶然と片付けるにはできすぎているって思っちゃっても仕方ないと思うんだよね。……なんか、発言が中二っぽいけどさ。


「あ、戻ってきたかな」


 セトさんがぽつりと優しく呟いた。

 ひとり決意をしていた私は、セトさんの声で意識をこちらに戻した。


 セトさんの勘は、見事に的中した。……というか、もしかしたら、この敷地に足を踏み入れたらレーダーのようなものが反応する機能でもあるのかもしれない。なんたって、アンドロイドだし。

 セトさんの発言からしばらくしないうちに、地面の下からベルさんが顔を出した。続けて、アンさんが。


「エリー?」


 アンさんが真っ先に口にしたのは、私の呼び名だった。声が出ないので、椅子から立ち上がって、アンさんたちの方に向かって、大きく両手を上にあげて振った。

 それに先に気付いたのは、アンさんの前にいたベルさんの方で、こちらへと足を進めてくる。


「軍がこの街に流れ込んでる。さっさと離れよう」


 ベルさんの第1声はコレだった。


「……君は、一体、何をやらかしたんだい」

「偶然、貴方を捜していたヤツに見つかったんですよ」


 ベルさんは疲れたようにため息をついた。それとは対照的に、セトさんは“なるほどな”と納得した様子で軽く頷いただけだった。


「……貴方が初代ですか。これから、しばらくの間、よろしく願いします」


 アンさんがぺこりと礼儀正しく礼をした。


「ああ。セトという。ハプスブルクの3作目にして、原点となっているものでもあるな。まあ、気楽にいこう。長い付き合いになりそうだからな。かしこまるな。お前もな」


 セトさんはフレンドリーに言う。最後の言葉はベルさんに向けて。


「ヴィヴィアン・ハプスブルク・ロートリンゲン・シュテファン。アンでいい。これは、アベル。無駄な足掻きってことはわかってるけど、ベルと。そして、その子はアリス……エリーと」

「……ふむ。なるほどな」


 セトさんは何か腑に落ちたらしく、楽しそうに頷いた。


「私は“セト”のままでいいのか?」

「…………セドリックというのはどうかと。それなら、呼び名がセトでも通せるかと」

「ほう。……まあ、どう見たって人形らしきナリをしてるから無駄な抵抗な気もするが」


 セトさんが苦笑いする。アンさんは気まずそうに顔をそむけた。


「話はいいか」


 妙な空気にも構わず、ぶった切ったのはベルさんだ。言いながら、私の方にさらに足を進めてきたかと思ったら、私を抱き上げた。

 ……私のことを荷物扱いしてるよね、この人。運動神経が平凡で、みんなについていけないのはわかってるから甘んじて拒否しないわけなんだけど。


「とにかく、ここから離れなきゃならないわけだが、この街に軍が駐屯するようだから、下手に出るとあっという間に囲まれる」


 そこまでベルさんが言うと、言いたいことを理解したらしいセトさんが割って入る。


「建物の中だと身動きが取れなくなってしまう可能性もあるわけだな。……人間の足で越えられるかはわからないが、まあ、やってみるか……。この山を越えると、2つ隣の領地にたどりつくことができる」

「2つ隣……?」

「そう。隣の領地は渡れない川を挟んで向こう側になる。川の幅が広い上に、流れが速いから、泳いで渡ることはもちろん、船も出せない。だから、山を越えて、もうひとつ向こうの領地に出るしかない」


 ……セトさんがここには、このルートからしか来れないと言った理由のひとつは、それだろうか。セトさんが指でさした方向をなんとなく眺める。


「行くか」


 ベルさんは、躊躇いもなく、さも当然かのように言う。アンさんは、疲れた様子で、でも、しょうがないなって顔してため息を吐いた。

 アンさんが主で、ベルさんが仕える側の主従関係が正しい形だと聞いたけど、どうにも、仲のいい兄弟にしか見えなくて、こんな状況下にも関わらず、微笑ましくて笑えた。


 その時、ものすごい音がした。

 何がなんだかわからず、ベルさん、アンさん、セトさんの順に表情を確認していくけど、3人も状況を把握できていないのか、警戒して神経を尖らせた顔をしている。


「……つけられていたか」

「アン……気付けよ」

「悪い……」


 やっちゃったと言わんばかりのアンさんに呆れ顔のベルさん。……なんか、この緊張感のない感じ……相手を馬鹿にしてるよねぇ……。


「初代、エリーを連れて逃げれますか?」

「いや、待て。これ……かなりの数だぞ。シュテファンの子孫、いけるか」

「え、僕……?」

「私の方が戦力になるだろうからな。多少応戦ができるならお前がエリーを連れて逃げた方がいいだろう」


 そう言われてアンさんが私の方を見て喉を上下させた。緊張しているらしい。そりゃあ、私は全く戦力にはならないし、間違いなく足手まといだ。アンさんがどうにもならなかったらアンさんだけじゃなくて私まで被害が及ぶ。だからこその緊張なんだろう。


「……エリー、走れるかい?」


 私はアンさんの言葉に首を縦に振ることで意思表示をした。ベルさんが視界の端で心配そうな顔をしてるけど、そちらはあえて見なかった。


 アンさんは片手に懐から出した短剣を握ると、もう片方の手で私と手を繋いで走り出す。私の速度に気遣って走ってくれてるようだった。

 ……そうだよね。普通は人を背負いながら、抱きながら戦闘をするなんて無理だ。ベルさんってば規格外だよねぇ……。


“一体、私たちはどこへ向かうのだろう”という疑問が浮かんだのは走り出してからだ。

 ここはあの廃村のお屋敷からしか出ることができないって言ってたってことは……他に山を越えてまで行く人がいなかったってわけでしょ……? 道、わかるのかな……。




 そして、私たちはこの後、見事に迷子になる。




 この話の後半かららんど版とは違う展開です。

 そして、この後に新しいエピソードを入れます。

 理由は、ここから次のエピソードの繋ぎが納得いっていなかったことと、全体を通してもう少しエリーとアンのエピソードがあってもいい気がしたからです。


 よろしければ引き続きお付き合いください。

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