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destroyer  作者: 千坂 ろな
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アンさん不在です。

 今の私には問題しかない。

 そもそも、ようやく、少し事態をのみこめてはきたものの、まだまだ、全部を理解するまでにはいたっていない。


 わかったことは、なぜか、知らない世界に来てしまったこと、貴族制度を適用している世界だということ、“人形”という精巧なアンドロイドのようなものが普及していること、私が着ていた何の変哲もない普段着は、ここじゃおかしなデザインであること……あ、そういえば、ベルさんもアンさんも西洋人のような見た目をしているけど、喋ってるのは日本語だよね。……でも、漢字や平仮名は通じない。


 私は、水たまりに足を取られたと思ったら、なぜか、水たまりの中に飲み込まれて、ベルさんにこの世界の川から救出された……ということは、あの水たまりが、この国の川の上流かどこかと繋がってたってわけなのかな。


 そして、なぜか、私の声は出ない。物語にありがちな記憶喪失やフラッシュバック……声以外の異常や異変は、今のところない。


 私は、なぜ、ここにいるのか。この世界に来てしまったこと、ベルさんに救出してもらったこと……どこまでが偶然で必然なのかがわからない。私自身、この世界に来てから、この世界やここで会った人に因縁みたいなものも、まだ、感じない。




 ……っていうかさ、ベルさんはどこに行ったんだろうか。


 私に色々と教えてくれるなりどこかに行っちゃってそのまんま姿を現さないんだけど……。まさか、こんな山の中に置いて行かれたなんてわけじゃない、よね……。


 なんだか、不安になってくる。“拾ったからには”……とか言ってはいたけど……。もう、完全に日が落ちちゃってるから、なんだか怖いし、何が出てきてもおかしな時間じゃないし……。

 ……ここで、ベルさんに放り出されたらどうなるかとか、もう、考えたくもないよね。


 絶対に、遭難するとは思うんだけど、何もしないよりはマシかと、ベルさんを捜してみようかと立ち上がろうとした時だった。何かが頭上から降ってきた。


「…………おい、どこに行く気なんだよ」


 冷たい声だと、思った。何か言わなきゃって……渇いた喉で空気を吸ったけど、何も言葉になってはくれなかった。それもそのはず。私、声が出ないんだから。


 ……なんで、こう、何度も同じことをやってるんだろうか。何度やったって、出ないものは出ないのだ。


「……お前、行くところないんじゃなかったのか」


 ベルさんは、腕に抱えていた木の枝を乱暴に地面に放り投げるようにして下ろした。

 私は、ベルさんの言葉に首を縦に振った。すると、ベルさんは少し不機嫌そうな表情に怪訝そうな色も乗せた。


「じゃあ、どこに行こうとしてたんだ」


 ベルさんに置いて行かれたのかもしれないと思ったから……なんだけど。不満を言いたくて、でも、声は出ない。

 だから、私はベルさんを指でさした。不満を顔にありありと出すことも忘れない。


 怪訝そうに私を見ていたベルさんだったけど、やがて、目を見開いた。


「……俺を捜しに行こうと……?」


 ……よくわかったな。すごいな。そうだよ。……すごいのは素直に認めますとも。

 ベルさんは、そっと斜め上を見た。なんなんだろうかと見守っていると、ぽつり、声が落ちてくる。


「……そういえば、何も言わずに出たか」


 ……そうだよ。気付いてくださって何よりですよ。

 どうやら、自分の言動を思い返していた様子のベルさんは、私のそばにしゃがんで頭を撫でてきた。


「それは、不安だったか……。まあ、納得はできるな。悪かったよ。食べ物と薪を探してきたんだ。夜はさすがに冷え込むからな。アリスは体調を崩しかねないだろう」


 言いながら、私のそばでたき火の準備を始めた。

 ベルさんは、何か小さめの鉄の板みたいなものに、こぶし大の石を打ち付けた。すると、案外、簡単に火をつけることができた。


 ……え、もしかして、これが、“火打石”っていうヤツだろうか。やっぱり、この世界の時代は、私の世界でいう昔にあたるんだろう。火打石を使っていた時代ってどれくらい昔なんだろう。


 ……それにしても、火打石を使ってることといい、文明は明らかに私の世界で言う昔なのに、人間と見分けがつかないくらい精巧なアンドロイドが普及してるなんておかしな話だよね。あんなアンドロイドがつくれるなら、もっと、文明も進化していていいはずなのに……。よく考えたら変。

 ……口がきけたら、人形の部品のこととか聞きまくるんだけどな。聞いてなんになるのかって言われたら、何も言えないけど、知識的好奇心だよね、それは。


「……ほら」


 ぼーっとしている私に果物が差し出された。それを素直に受け取る。……丸くて茶色い。なんなんだろう、この食べ物。……果物、なんだよね。

 どうやって食べるんだろうかと、手に余してると、ベルさんは呆れたように私を眺める。


「……もしかして、食べ方がわからないのか? まあ、いいとこのお嬢さんなら、切り分けられたのしか食べたことがないだろうからな。それとも、切り分けないと食べないとか言い出すんじゃないだろうな……」


 面倒そうな顔をされたので、首を横に振った。ベルさんは、そんな私を一瞥して、それを服の袖で拭ってかぶりついた。……ほう、これは、皮ごと食べられるらしい。

 私も、ベルさんにならって恐る恐るかぶりつくと、口の中にあっさりとした風味の汁が広がった。……んー……柑橘系? いや、桃みたいな味もする? なんていうか……私の世界にはない果物だね。ミックスジュースみたいな味。説明しにくいけど。


 ベルさんは、懐から出した短剣で薪と一緒に持ってきたらしいウサギをさばき始めた。……正直、見れたものじゃない。夢に出てきそうだ。

 それでも、ベルさんにそういうことを任せて、私だけが目をそむけているのはどうかと思えてしまって、目をそらせないでいた。そんな私をベルさんは笑った。


「……やっぱり、いいとこのお嬢さんだな」


 ……この世界では、みんなが当たり前のようにこんなことをしてるんだろうか。そうだとしたらすごい……。


 ウサギは、ただ焼いただけで食べた。塩もコショウもない。調味料は全く所持していないようだった。アンさんは塩くらいなら少し持ってるみたいだったけど……。そういえば、この世界が地球でいう昔にあたるなら調味料って高価だったり……しちゃうのかな……。

 正直、かなり味気のない食事だった。それでも、私は、ただ、享受してるだけだったわけだし文句を言える立場じゃない。……しつこいかもしれないけど、言える口もないわけだしね。


 明日、明るくなったらすぐに、目的地に向かって出発するようで、食べ終わったら、さっさと寝るように促された。


 ……そういえば、今、別行動をとってるアンさんは大丈夫なんだろうか。なんか、逃げる時は、アンさん、とても慣れた様子だったけど。

 それに、私なんかよりも、正真正銘のお坊ちゃまのアンさんが1人でなんて心配じゃないのか……いや、前にも、こんな展開になったことがあったのか、ベルさんからは、アンさんを心配する素振りや言葉は出てこなかった。

 便りがないのは、何も問題ないっていう便りだって言葉も日本にはある。……大丈夫だ、と思うしかないだろう。


 っていうか、この2人はどこを目指して歩いているんだろう。そもそも、ベルさんの目的が人形の抹消だっていうのは聞いたけど、ひとつひとつ壊していくつもりなんだろうか。とんでもない時間がかかっちゃうと思うんだけど。


 ぐだぐだと色んなことを考えているうちに、いつの間にか、私の意識は途切れていた。私って、こんな状況でも寝れちゃうなんて図太いな、とつくづく思う。




 翌朝の私の目覚めはすごいものだった。

 ……移動、してました。


 意識が浮上する時に、なんか、体がやけに揺さぶられているのを感じてはいたんだよね。なんでかって、私がベルさんに抱えられて移動してたからだよね。


「……やっと、目が覚めたか、寝坊助」


 ……いやいや、起こしてよ!?

 こういう時ほど、自分に喋るすべがないことを悔やむ時はない。


「……なんだか、もの言いたげな目だな」


 どうやら、使い物にならない口の代わりに目が語ってくれたようだ。私の心からの抗議が伝わったようで何よりだね。


「明け方に出発するって伝えたのに起きなかったお前が悪いんだろうが、アリス」


 だからって、これはないだろう。いや、こんな状況になってるのに起きなかった私に問題があるのか……。昨日みたいに俵担ぎだったら確実に起きたと思うんだけど、お姫様だっこじゃ……ね。

 ……いや、何も言うまい。だって、俵担ぎってしんどいんだもん。お姫様だっこ楽。

 残念ながら、“きゃっ! お姫様だっこされてるぅー! 恥ずかしい!”とか乙女ちっくなこと思うほど可愛らしい女じゃないもんで。誰だって、キツイのより楽なのがいいでしょ?


 朝ごはんがまだな私を気にして、ベルさんが器用にも、走りながら果物をもいで私に渡してくれる。……なんか、こんな食生活してたら痩せそうだよね。女の子としては万々歳……なのかな。


 どうでもいいことを考えながら、ベルさんの腕で揺られながら果物を口にする。

 んー……いいご身分、だよね。ただ、きっと、ベルさんは、私を歩かせるより抱えて走った方が速いと思ったんだろうね。だって、ベルさんは、私を抱えて走ってるというのに速いのだ。この人は、サイボーグか。


 目的地がどこなのかは気になるところだけど、着けばわかるだろうに、そんなことを苦労して伝えようとまでは思えないので、大人しくしていることにする。

 ベルさんは、果物を見つけるたびに、私に手渡してくるので笑ってしまう。そんなに食べれないよ。

 つい、出てしまう笑いをなんとか噛み殺しながら首を横に振って遠慮すると、不思議そうな顔をされた。もしかしたら、笑いを噛み殺しきれていなかったのかもしれない。




 ベルさんが落とした声で囁いてきたのは、太陽が頭の真上にくるかこないかといったところだった。


「山を抜ける。何があるかわからないから、しっかりとつかまっていろ」


 ……それは、いきなりの襲撃に備えての言葉だよね。ベルさんはさらっと言ってのけたけど、私の緊張はマックスだ。




 ……あらかじめ完結してるものを5000字前後でキリ良く切るの難しいです……。苦手みたい。

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