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destroyer  作者: 千坂 ろな
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ドナ、襲撃

 後半が一気に説明回です。

「さて…………ヴィヴィアン・ハプスブルク・ロートリンゲン・シュテファンはどこだ」

「さあな」


 ……ごめん、彼女、今、なんて言った? “ヴィヴィアン”って言ったよね。もしかして、それが、アンさんのフルネームなの……。1度聞いたくらいじゃ覚えられないよ。長い……。


「ふむ……。いつもながら、あっぱれな連携プレイだな……。ところで、ソレはなんだ? 新しいものを見たが。人形か?」

「お前には関係ない」

「お前、人形は壊す主義ではなかったか」


 ……なんか物騒な単語がところどころ聞こえてくるんだけど……。イマイチ、話が見えてこない。しかし、この状況で2人が私に説明してくれるはずなどない。


「俺は、お前ほど壊したいものはない。鬱陶しい。邪魔をするな」

「ほう……。そのセリフ、前も聞いたぞ」

「うるさいぞ」

「同じことを何度も口にするのは無駄なことだとは思わんか」

「言葉に無駄も何もあるかよ」

「ふむ、そういうものなのか……」


 どうやら、いつも通りのご挨拶ってところだったようだ。何度かちょっとおっかない言葉が出てきたわりには、事実だけを連ねているかのような温度のない文章の羅列だった。

 ……ツッコミたいのは山々だ。ただ、ツッコむための声がない。ちょっと残念だ。


「……とりあえず、それを見せろ」

「はあ?」

「どの技師のものだ」

「……やっぱり、鬱陶しいな」


 ベルさんの声が苛立っているのがわかる。あまりの至近距離でそんな声を出されるものだから、なんとなくひやっとした。

 ……そして、やっぱり何を言ってるのかよくわからなかったので、誰かぜひとも解説してほしい。



 のんきなことを考えてると、急に、ベルさんが動いた。あまりにも容赦なくハイスピードで前進するものだから、俵担ぎにされた私は当たり前のごとく、振り回される形に……。


 ちょっと、待って!? こわいんだけど!? っていうか、これ、きっと、私酔うと思うんだけどなぁ!


 ガキッという何かがぶつかり合う音。……ただ、私は、俵担ぎされてるんですよ。私の目の前に広がってるのはベルさんの背中だけなんですよ。しかも、ベルさんの動きは、急で早くて強くて……ほんとに容赦のないもので……背中に顔面をぶつけるんですけど。それも、しょっちゅう……。腕をベルさんの背中につけばいいでしょって? そんな簡単に言わないでよ!? 私、ぶんぶん振り回されてるんだよ!? 無理でしょ、これ!?

 ちょ、お願いだから、勘弁して……お、お願いだから、ベルさん……私、とんでもないことになってるから……早く気付いて……。


「やっぱり、荷物を抱えてるんじゃ動きが鈍るな」

「うっせぇな。放っておく方が邪魔になるんだ」

「ふむ、それは、一理あるかもしれない」


 ……相手の彼女は、どうやら、嫌味ではなく本気で言ってるみたいなんだけど……。それが、余計にグサッとくる。

 なんか、この流れで私の状況をなんとかしてとか言いづらい……言えないよ、これ。そもそも、伝えるのからして困難だけどな……!


 ガキンガキンと硬質な音が鳴り響く。私にもたらされる情報は、その音だけだ。……正直、ベルさんが動くたびに、無茶苦茶に振り回されてるせいで、その唯一の情報源である音すら聞き逃しそうにもなってしまうんだけど。


「なんのために、人形を壊してまわってるのかは知らんがな。そんなことをして何になると言う。無差別に壊してまわるんじゃ何らかに支障をきたすだけだぞ」

「うるさい。現状を見ろ。人形のせいで世が荒れ始めている」

「ふむ……それは、兵のことか。確かに、兵力として、人形は優秀と言えようが、例え、人形がいなくなったとしても、人間がそのかわりに犠牲になるだけだ。何も変わらんぞ」

「それでも、だ。こんなことのために創造主は人形を生みだしたわけではない。この世の動きを見て、きっと、憤慨しておられる」

「死人に口なし、という言葉を知っているか」

「屁理屈ばかり並べやがって……」


 ……なんか、また、よくわからないことを話してる……。


 人形って、何? 人形を、壊す? ……私がマンガの読みすぎなのかもしれないけど、もしかして、この世界ではアンドロイドみたいなのが普及していて……と仮定すれば、筋が通ると思わない? 壊す、兵力、創造主……ね?

 この口で疑問を口にできないことが酷くもどかしい。ぐしゃぐしゃになった頭の中が気持ち悪くて、頭を振った瞬間だった。ものすごい音がして、がしゃん、鉄が崩れるような音がした。

体が強張る。


 ベルさんが、さらに、前に進もうとした時、いきなり、当たりが騒々しくなった。


「……ちっ……あと少しだったものを」

「残念だったな。今度は、もっと、万全に調整してから臨むことにする」

「はっ……ほざけ」


 忌々しそうに吐き出したのはベルさんの方だ。目の前の女性の味方がこちらに近づいてきている……といったところだろうか。さすがに、私というお荷物を抱えた状態で何人も相手をするのは厳しすぎるだろう。

 ベルさんは、言わずもがな、そう判断したらしく、彼女に背中を向けた。私は、そのせいで、顔を彼女の方に向けることになるわけで。ベルさんの背中から顔を持ち上げて、なんとなく、彼女の方を見てみる。


「……黒い髪に黒い目か……これは、趣があっていい」


 優しく微笑んだ彼女の足は折れていた。骨折しているという意味ではない。文字通り、折れてしまっているのだ。ぽっきりと真っ二つになった彼女の足の切り口は木のささくれみたいなものが見られて、どうやら、足は空洞になっているようだった。つい、息をのんだ。マンガみたいな設定の世界、なのかもしれない。ここは。


「私は、ドナという。また、いずれ会おう」

「エリー、何も言わなくていい」


 ぽつり、ベルさんはドナさんに聞こえないようにか、囁くように言った。そして、走り出す。

 ……無論、私の体は振り回されることとなった。もう、文字通り、ぶんぶんと揺れた。




 ベルさんが足を止めたのは、日がとっぷりと暮れて真っ暗になってからだった。私を担いだ状態で、よくぞ、ここまで延々と走ってこれたものだと思う。この人はサイボーグか何かか……。

 ……おかげで、頭に血ののぼりまくった私の顔色は、相当悪かっただろう。現に、ベルさんはバツの悪そうな顔をしている。


「全く気付かなかった。ちゃんと言え……と言いたいところだが、声が出ないんだったな。失念していた。それでも、俺の背中を叩くくらいすればいいものを」


 呆れたような目で見ながら、ベルさんは私の顔色を確認するついでに、私の頬を撫でた。…………冷たい。冷え性なんだろうか。

 いや、でもね、そうは言いますけど、ベルさん……振り回されに振り回されていた私には、その余裕すらなかったんですよ。


「……あの服を見て気付いたかもしれんが、あれは、軍の兵器だ」


 軍人、ではなく“兵器”……あの足の切り口と言い……やっぱり、ドナと名乗った彼女は人間ではないのだろう。


「アンは公爵家の次男坊。一応、王家の血も入っている。何より、シュテファン家が有している土地が大きすぎる。今となっては、王家すら下手に手出しすることのできない家となっている。シュテファン公爵家の政治も悪いものではないから、王家はどうにもできないでいるわけだ。

 さっきの人形みたいに、人形を本来の用途ではなく兵器として使用し、国の増強、他国の侵略を進めようとしているようだが、人形の創造主であったハプスブルク子爵家の嫡男――現在のシュテファン家初代は――――おい、一体、何がわからない」


 どうやら、私の顔を見ただけで、私が話についてこれていないことに気付いてしまったらしい。……その貴族制度がさっぱりわかりません。


「…………初代の話をしだした時に顔色が変わったな」


 ……よく見ているな。すごい観察眼……。しかし、なんとなくバツが悪くって首をすくめてしまう。


「貴族が持つことを許されている家の名は土地についているということはわかるな?」


 私は、ここぞとばかりに首を横に振った。

 それだよ! その、貴族制度のところがわからないの!

 すると、ベルさんは呆れた……を通り越して驚いた顔をした。


「……いい家の出かと思っていたが…………。王家の名は、そのまま国名になっているだろう。王家が所有しているのは国全体だからだ。王家の名前が国名になったんじゃない。土地――国の名前が王族の名前になってるんだ。

 アンの家は、ハプスブルク子爵領、ロートリンゲン伯爵領、シュテファン公爵領の3つの領地を所有している。そのため、アンの正式名称は“ヴィヴィアン・ハプスブルク・ロートリンゲン・シュテファン”となる。家格の低い名前から順に並べるんだ。省略して名乗る時は、1番家格が高くなる名前を名乗る。この場合、公爵が家格が1番高くなるので、簡単に名乗る時は“ヴィヴィアン・シュテファン”だな」


 家じゃなくて、土地に名前がついている……というのは、昔の日本とは違うところだね。名前に誇りを持つ日本人とは違って、土地に誇りを持っているということなんだろうか……いや、待って。そもそも、ここは異世界であって昔のヨーロッパなわけではない。

 貴族だとかいう単語が出てくるせいか、なんとなく、話を聞いてると昔のヨーロッパを連想してしまうんだけど、どこまでが昔と同じなのか……私にはわからない。


「……えーっと……で、だ。創造主の話をしていたんだったな。彼は、人形をこのような形で用いるつもりなんて微塵もなかった。自分の造りだした人形がココロすら持つことが可能なことに気付いた創造主は、人々の心の拠り所にはならないかと、それだけだったんだ。

 しかし、創造主の成果は王族にとても評価された。その結果が土地の譲渡だ。幸い、創造主の弟君、創造主本人の嫡男には領地をまとめる力があった。それも評価され、最終的に3つの土地を持つことになる。

 統治の力もあり、多大な土地を支配しており、王族の血すら持っていて、今となっては、この国を回すのに不可欠となってる人形の創造主を出した家系…………力を持たないわけがない」


 とにかく、アンさんのおうちがいかにすごいのかはわかった。うんうん、と頷きながら聞く私を見て、ベルさんは話を続ける。


「……ある程度のことは揉み潰せてしまう」


 ……なんか、唐突に物騒なことを言い出したぞ、この人。

 なんか、話が不穏な方向に向かってるなぁ……と思っていたけど、それは、間違いではなかったらしい。


「これから話すことは他言無用だ」


 …………もちろん、必死に首を上下に振りましたとも。ええ。

 そんな私にベルさんは満足そうに、かつ不遜な態度で頷いてみせた。


「俺は、人形をこの世界から抹消しようと思っている」


 ……え。

 口を開けたけど、やっぱり、それは、ちゃんとした音にはならなかった。

 ……たった今、ベルさんは人形がこの国を回すのに不可欠なものだって言ったばかりなのに。それが、本当なんだとしたら、本当に大変なことになってしまうんじゃないだろうか。


「…………それが――ちゃんと後始末をすることが俺の仕事だと思ってる。このままだと、人形は人間にとって、ろくでもないものになってしまうような気がする。それは、創造主だって望んじゃいないことだからな。

 ……まあ、それでも、何かしらに責任転嫁したがるのが人間というものだとは思うが、その転嫁先が人形であることは俺が許せない」


 そう言ったかと思ったら、ベルさんはどこかへと走り去ってしまった。


 私は、その場にぽつんと残された。そして、1人になって、ようやく、頭が正常に回り始めたような気がする。

 ……軍にも人形が使われてるってベルさんは言った――ドナさんもその1人……いや、1体なんだろうけど――ことも考えると、国家機関にとっても、人形の位置はかなり重要なはず。だから、アンさんのおうちも国が軽んじることができないのだろう。その人形を抹消する……かなりの大事だ。

 それに、国が許すだろうか、そんなことを。


 そういえば、ドナって人とは、何度も接触している様子だった。もしかしたら、すでに、国にベルさんたちの企ては知られていて、だから、追われているとか……?



 ベルさんを待ちながら足りない頭でぐるぐると考えたり情報の整理をし始めた。




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